全国の中小企業支援センター支援事例集2



定期的・総合的な支援による異業種転換
島根県中小企業支援センター(財団法人 しまね産業振興財団)

 企業立地はローカルであるが、独自技術、独自商品の開発を通じてグローバルビジネスをめざす。
〔事業内容〕   EXGEL商品製造販売
自動車内装部品加工
靴・バッグ製品縫製加工 ほか


■自社開発した新素材で医療・福祉分野の商品を展開


 島根県の山間部、横田町に本社を置き、皮革製品を中心とした縫製・加工の下請け企業として業績を伸ばしていたが、収益性に乏しいことから自社製品の開発を志向し、EXGELを完成させ、それを使用した商品を開発した。「EXGEL」とは、(1)好感触 (2)遅延回復 (3)体圧分散 (4)素材形状保持 (5)衝撃吸収といった、ゴムとジェルの特性を併せもつ素材である。
 これを活かして医療・福祉分野を中心に50品目を超える商品を開発している。
 島根県中小企業支援センターでは、EXGELの開発、企業化資金の債務保証、販路拡大、収益性の悪い縫製・加工部門の縮小・整理等、経営戦略・経営改善に関する助言等、こまめに同社を訪問し必要に応じ総合的に柔軟な支援を行った。

■開発資金と販売費用に助成金を活用


 従来の経営の主力であった革靴加工、運動靴縫製は、売上高、利益とも下降線をたどっており、新しい経営戦略の検討が差し迫った課題となっていた。そのような時期に救世主と期待されたのがEXGELで、その成功には主力製品とする戦略転換を行う必要があった。EXGEL開発資金について、創造的中小企業創出支援事業、ベンチャー融資債務保証事業(財団制度)による助成を行っている。
 販売については、中央の展示会等に積極的に参加し、製品の知名度を高める必要があるが、その費用に対しては販売システム構築助成金(財団制度)による支援を行った。
 生産力のための設備投資については、設備貸与制度を活用した。
 生産効率を高めるために工場レイアウトを再検討する必要があり、専門家派遣事業により専門家を派遣することとしている。
 そのほか、不定期ではあるが経営アドバイザー、金融アドバイザーが訪問し、経営全般についての助言を行っている。

■収益性は順調に上がりOEM製品も大きな割合に


 縫製・加工部門の整理により、EXGEL製品が総売上高の約70%を占め、収益性も順調に上昇するに至った。
 開発当初はマット類が中心であった製品用途も素材特性が評価され、現在では医療・福祉分野が約80%を占めている。
 また、同社のオリジナル製品に加え、大手企業のOEM製品も大きな割合を占めるに至って

■支援における今後の課題


  1. 素材・技術多様化・高度化に関する支援
     素材が評価されるとともに、製品に対する要望も多様化している。
     成型技術に精度が必要なもの、硬度のバリエーションが必要なもの等に対応可能な技術開発に関するコーディネート、設備投資等資金面での支援が必要である。

  2. ソフト面での支援
     受注の増加、多様化に対応し、効率的な生産を展開するためには、工場レイアウト、工程、品質等の管理体制を強化する必要がある。また、積極的販売促進を行うためには、営業体制の強化、販売技術の高度化を図る必要がある。これらは、効果測定を繰り返しつつ長期的に推進する必要があることから、専門家派遣制度等助成制度を活用しながら、継続的な支援、助言を行うこととする。





新事業可能性調査と販路拡大支援による事業規模の拡大
鳥取県中小企業支援センター(財団法人 鳥取県産業振興機構)



 新分野進出して最も不安だったのは製品のPR方法と販路の開拓でしたが、多くの百貨店の紹介や展示会への出展斡旋をしていただき、販売促進にたいへん助かりました。また事業を通じて資金面から技術開発、ビジネスプランづくりなど新分野で暗中模索していた当社には、この多くの経営支援はとてもうれしかったです。


■花器などメタルアートで新事業可能性を調査

 日本ランドメタルへの支援は、平成13年度に実施した新事業可能性調査に応募されたのがはじまりである。同社は、ステンレス加工の技術研究を通じて、鳥取県産業技術センターとは以前から交流のあった。本業が金属加工で請負加工中心であったが、この調査では端材を有効利用したメタルアート事業(花器や机上製品、装飾ツール)の有効性・展開方法について調査機関より提案を受け、本格的な事業活動が開始された。

■いい製品はつくれてもマーケティングが最大の課題

 大阪、東京地区の百貨店の売場改装工事(ブテイックの内装工事など)を大手内装業者を通じて受注するなど、ステンレス加工技術には高い評価を得ている同社。しかし自社の顔を売り込むすべはなく、今回のメタルアート製品は宣伝パンフレットを通じて自社のアイデンテティを売り込む格好のチャンスとなった。ただ、デザイン性の高い品物ができたものの、どこに売り込むか、第2事業部門として事業採算がとれるだけの売上高を確保できるか、販路に最大の課題を残していた。これは同社だけの問題でなく、いい製品をつくってもどこにどうやって売り込むかというマーケティング力の弱さは当県の製造系企業、特に下請け製造中心の企業の特徴でもある。

■販路拡大に取り組み商品開発のヒントを探る

 この課題を克服するため、同社は販売を担当する専務(社長の夫人)が中心となり県内外の展示会ほかイベントなどに積極的に参加し、製品PRに努めた。また、当支援センターでもプロジェクトマネージャーが流通業在職時のコネも活用し、個別企業へ順次アプローチをつづけ、販売実績を積み上げていった。さらには、平成15年11月の「ビジネスサミット」への出展援助を行ったほか、D百貨店の売場催事にも出展し、買い手である顧客の反応を直接探り、今後の商品開発のヒントをつかむ努力も展開している。支援センターの支援もさることながら、同社自らの粘り強いがんばりには敬服している。


■経営革新支援法の認定を受け商品開発にも力を注ぐ

 平成14年に入り、同社は基幹事業の1つとして防盗難用の固定金具の研究開発にも取り組んでいる。このビジネスを組み込んだ同社の経営革新計画を練り上げ、経営革新支援法の法認定を申請、支援センターとしても計画立案作業を支援した。平成14年8月法認定取得を果たし、併せて「鳥取県やる気のある企業支援金」(企業化支援型補助金)を獲得し、研究開発を加速させた。この技術も同社のオンリーワン商品づくりの重要な部分として活かされてくる予定である。
 平成15年には高専卒の女性デザイナーの卵を新規採用し、若い感性の注入を図るとともに中小企業・ベンチャー総合支援センター中国の専門家派遣制度を活用して、デザイン力アップの指導も受けている。こうしたなかで平成15年度の新事業可能性調査に再度応募、新たに考案された"光とミストの癒し型メタルクラフト製品"のマーケティングに対し、専門機関の考察を付け加えて販路拡大を図ろうとしている。現在のところ新製品の売上は少ないが、これらの動きが新聞含めたマスコミの話題にもなり、本業そのものの宣伝に寄与し本業が忙しくなるという副次的効果を生み出している。支援センターとしても一層販路拡大を中心とした支援をつづけていく所存である。

■今後の事業構築に残された課題

 メタルアート製品販売については、本業を補完する事業部門として、どう構築するのかがいずれ問題となる。販売対象が女性を中心とした一般顧客であり、売れ筋商品を中心に何アイテム生産するのか、在庫負担をどうするのか、百貨店などでの口座開設、納入方法など先行する資金負担をどうするのか、といった課題が山積する。少人数、小資本の中小企業としての立場を考慮すると、つくることと販売することの両方を同時推進するのは極めて困難であると判断する。むしろ強力なスポンサー(代理店)をみつけ、同社は製造に徹することのほうが得策でないかと推察される。この点も含め、支援相談を続けていきたいと考えている。








費用を最小限に抑えたIT導入による業務改革への取り組み
徳島県中小企業支援センター(財団法人 とくしま産業振興機構)


 ソフト構築に伴う、指導者のみごとなアドバイスと、社内技術能力が結集し、ここまでたどり着くことができました。完成までにさらなる努力をし、より一層の効率化・業務の改善を図って参りたいと思います。



■情報システムを全面的に見直し業務の効率化とスピードアップを図る

 
1.経営環境
 当事例企業の主要市場である木工関連産業の国内生産高は近年著しく落ち込んでおり、需要環境は極めて厳しい状況にある。一方、特注刃物製造については、高品質と短納期対応が高く評価され、当分野の受注量は増大傾向にある。
 当企業では、思い切った組織改革を実施し、ピーク時の約半数の人員で業務を遂行する態勢を整えたことで、競争力強化を図るとともに、やる気のある少数精鋭のメンバーにより業務改革を行うことが可能な態勢となっている。

2.情報化の状況
 情報化面では、パソコンLAN上で、販売管理・購買管理・CAD/CAMの各システムが利用されていたが、すでに導入から10年近く経過し、機器老朽化による故障や代替機調達の面で不安があった。また機能面でも、当企業の業務にマッチしていない販売業向けパッケージ製品を利用していたうえ、独自の機能追加や蓄積データの活用を新しいパソコン環境上で容易には行えないという問題があった。CAD/CAMについても、新しい加工機に完全には対応しておらず、CAMデータをベテラン社員が手動で調整する必要があること等の問題があった。
 生産管理面では、スケジューリングや所要量計算等の本格的な生産管理システム機能の必要性は小さいものの、生産実績データを記録して進捗管理と実績分析を行うことの必要性は以前より指摘されていた。
 営業部門では、ワープロや表計算等の汎用ソフトウェアが個々に利用されているのみであった。特に煩雑となる再研磨等の預かり品の管理を、基幹システムの受注管理機能と連動させて実施することの必要性が従来から認識されていたものの、手つかずの状態となっていた。

3.取り組み課題と目的
 こうした環境下、まずは「老朽化した既存の販売・購買管理システム環境を更新し、日常的業務の遂行に支障をきたさないよう対策すること」が短期的なシステム課題であった。そのうえで、従来からの懸案である「受注〜購買〜生産〜在庫〜販売〜請求・支払という一連の基幹業務の流れを統合的にコントロールし、全社的な業務効率化とスピードアップを図ること、及び、迅速で正確な実績把握に基づいて管理水準の向上を図ること」が中期的な課題であった。
 これらの課題への対処を目的として、とくしま産業振興機構の専門家派遣制度による支援を受け、段階的な情報システム化に取り組むこととなった。

■システム構築の基本方針と実施のプロセス


 当面は費用を最小限に抑えるため、以下の3点を基本方針とした。

 [1]ハード・ソフト調達やシステム環境設定等を社内で実施する。
 [2]機能変更・追加が可能な廉価なパッケージを導入し、
    簡易データベースツールを利用して、社内で機能の変更・追加を順次実施する。
 [3]サーバー専用機他は当面導入せず、既存資源を利用しつつ、
    進捗状況に応じて順次最適なハードウェアの導入を検討していく。

 こうした基本方針の下、以下のようなプロセスで段階的なシステム構築・導入が実施された。

(1)基本方針・基本計画・役割分担の設定
(2)システム環境とパッケージ製品の選定
(3)販売・購買管理システムの更新
   1.テスト環境構築、標準機能の学習
   2.不足機能の洗い出し
   3.機能変更および機能追加作業
   4.旧マスター・過去データの変換・移行
   5.テスト稼働、本格稼動開始
(4)各種集計機能の付加(販売・購買実績)
   1.集計帳票検討、集計プログラム作成
   2.計画実績管理機能の追加作成
(5)CAD/CAMシステムの移行準備
   1.Windows版への社内独自機能の適用検討
   2.独自機能の開発(開発元に依頼)
(6)受注管理機能の見直し
(7)受注・売上入力の営業担当者への移行
(8)生産管理機能の追加(今後実施)
   1.生産管理業務の定義・フロー設定
   2.実績集計内容検討〜システム開発


■短期的課題には対応、今後は本格的な改革に


 これまでの段階で、販売・購買管理システムの更新は完了し、当面の短期的課題への対応がなされて、事務部門は最少の人員で業務遂行が可能な状態になった。蓄積されたデータを活用した各種集計機能も整備され、営業担当者による受注入力にはじまる営業管理のしくみも動き出した。これにより、迅速な顧客対応が可能となり、また、行動と成果の関係を継続的に検証する仮説検証型の改善活動が浸透するものと期待される。
 しかし、当事例が真の成功事例となるか否かは、今後の当企業の取り組み如何による。今後の段階の対象範囲は、従来のままでも日々の仕事を進めることはでき、これまでも改革とシステム化の必要性を感じながらも放置されてきた部分である。これを"変える"には、全社を挙げた協力態勢の下、高い目的意識と強い改革意欲をもって取り組むことが求められる。
 "目前の忙しさ"を理由に"改革"が二の次となってしまうことなく、当初目的を達する情報システム化を実現し、当事例が同様の課題を抱える中小企業のモデルとなることが大いに期待される。





経営戦略の構築と契約書作成支援による販路開拓
香川県中小企業支援センター(財団法人 かがわ産業支援財団)


新工法の特徴は、(1)既存工法と比較して工事費を30〜50%までコストダウン可能、(2)地盤を固める薬剤の使用量が4分の1から9分の1となり環境負荷が少ない、(3)工事会社の設備資金が少額で行えるなど、従来の刃口推進工法の弱点を解消した安全・ローコストな工法です。
 独自に開発したこの技術をもとに全国展開を図ることができたのは、かがわ産業支援財団の専門コーディネーターはじめ多くの専門家に、経営戦略の立案、万全の特許申請(国際出願)、経営革新申請、事業提携交渉への立ち会い、契約書づくり等々総合的できめ細かな支援をしていただいたおかげです。



■工事現場の不便さを新工法で解消する

 
30年余り土木推進工事を営んできたなかで、現場において不便さを感じていたことを解決するため、新工法(ニューハグチ工法)を思いつき、そのアイデアをもとに鉄工所に指示をして新装置を開発した。
 実際の現場などで試したところ、予想以上の成果を得て、この新工法を事業化することを検討したが、販路開拓や製造資金の調達について解決の糸口がみつからず、窓口相談訪れたのが支援のきっかけである。
 事業化にあたって、最初に、開発した技術の評価が必要であった。特許申請をするためにも、先行技術の調査を行う必要があった。
 新規事業の創出といっても、経営資源の不足(事業資金の調達が困難であることが予測された)から、選択できるビジネスモデルの構築と経営計画の作成が求められた。

■ビジネスモデルを策定し研究と普及を目的に組織をつくる


 当センターの支援として、まず発明協会で特許の先行技術調査を行った。これにより特許の申請が可能と判断され、海外、特にアジア圏(韓国・中国を視野に入れる必要があった)での需要が見込まれることから、海外戦略や係争にも長けた東京の特許事務所で特許の申請を行った。
 次にビジネスモデルを構築するために、専門家派遣事業を活用し、中期経営計画の作成を支援した。計画を策定するに際し、現状の経営状況を把握し、取りうるべき戦略を探った。これにより資金調達を得て、直営による全国展開は困難であることが判明した。
 ビジネスモデルとしては、(1)大手建築リース会社に商品を販売し、全国の工事施工会社に貸与を行う、(2)実際に施工を行う土木推進工事会社から代理店を募り、全国展開する、(3)施工会社に直接装置を販売するなどが検討され、(2)の代理店ビジネスのモデルを採択した。また、技術の流出防止と業務管理のため、代理店に機械装置を販売するのではなく、機械の貸与を受けて、工事を受注することのできる権利を付与するものとした。
 事業方針は決まったが、公共工事、特に土木工事においてはいくらコストダウンにつながるよい技術であっても過去の実績がなければ、工事の受注につながることはないという大きな壁にぶち当たった。これにより、新工法の研究と普及を行うことを目的とした協会を加盟代理店で組織化することを加えたプランとした。
 検討を重ねこのビジネスモデルによる中期経営計画を策定した。そして、資金調達の円滑化を図るために「経営革新支援法による経営改善計画」を作成し、申請を行った。
 次に、策定した計画をもとに資料を作成し、代理店を募るために、全国の土木推進工事会社と設計コンサルタントに向けたダイレクトメール作成を支援した。またホームページへの情報の掲載など、広告宣伝活動を行った。
 この活動を通じて、大阪の建設会社からの引き合いで設定した条件による交渉を開始した。
 交渉が進むなかで、優位な交渉を行うためには契約書づくりが重要となり、中小企業・ベンチャー総合支援センターの窓口相談につなぎ、弁護士と相談を行いながら、契約書を作成した。
 交渉の際も、支援センターの部屋で交渉を行うなど、公的機関による支援を全面に出し、納得のいく契約につながった。



■早期の相談と技術の確かさ連携した支援が成功要因


 機械装置を作成したあとではあったが、比較的早い段階での相談であったために、余分な経営資源を使わずに、じっくりと事業化の推進が図れた。
 零細企業が大手企業を含めた13社と同時に契約を交わせたのは、その事業シーズ(技術の内容)が確かなものであったことと、プラットフォーム体制による連携した支援がコーディネートされたことによると判断する。





市町村向けGISシステム開発への取り組み
愛媛県中小企業支援センター(財団法人 えひめ産業振興財団)



 創業以来、公共事業に伴う測量設計を主業務とし実績をあげてまいりました。しかし公共事業の推移を考え、6年ほど前から地図情報処理とシステム開発を弊社独自で事業化するべく、社運を賭けて取り組んでまいりました。
 事業の将来性など、なかなか一般の金融機関にも理解されがたく苦労もありましたが、このようなとき、えひめ産業振興財団の各方面から適格なアドバイスをいただきながら、無事、「創造法」の認定を受けることができ、事業展開に弾みが出たとたいへん感謝しております。



■市場の動きを先取りしたGISシステムへの取り組み


 公共工事を主体とした測量設計業者であり、創業以来、堅実経営に徹し、業績は堅調に推移してきた。当社の代表取締役である大川内修社長は、長引く不況と公共事業の先細り見通しに強い危機感をもち、地方の測量設計業者としてはいち早くGIS(地理情報システム)に注目して、独自の市町村向けGISシステム開発に取り組んできた。
 GISとは、位置や空間に関する情報をもったデータ(空間データ)を電子データとして総合的に管理・加工し、視覚的に表示できる高度な分析や迅速な判断を可能にする技術であり、行政・民間などでさまざまな活用が期待されている技術である。行政においては、平成7年1月の阪神・淡路大震災において、関係機関が保有していた情報を効果的に活かすシステムがなかったことへの反省等をきっかけに、政府におけるGISに関する本格的な取り組みがはじまった。また地方公共団体においては、業務にさまざまな地図が用いられているが、高度情報通信社会(IT化)の進展に対応した情報システムの1つとしてGISへのニーズが顕在化してきた。特に市町村においては、大縮尺の地図を業務で利用することが多く、複数の部門で地図データを共有する統合型のGISへの関心が高まっており、GISを活用することによって、業務を正確に効率よく行うことができるとともに、住民サービスの一層の向上、地域情報の発信等が図られることが期待されている。


 当社は、独自のGISシステム開発にあたっては市町村行政向けに特化し、過去の受注実績により蓄積してきたデータや人材などもてる経営資源を最大限に活用してシステム開発に注力した。

■「創造法」認定による信用力の向上と補助金の活用


 システム開発・営業にあたっては、開発資金及び当社の既存営業エリアが問題となった。
 もともと当社は、業種柄、前途金や中間払いを受けられず、期中の資金繰りがかなりきつくなる体質であったが、開発資金の問題においては、メインバンクに対して当社のシステムを積極的にアピールして、支援を取り付けるとともに、経費削減などに取り組んだ。また、営業エリアの問題においては、市町村合併問題がクローズアップされ、既存の営業エリアだけでは事業の展開が望めなかったことから、県内において合併の中核となる市町村に対する営業攻勢をかける戦略をとっていたが、閉鎖的な業界ゆえ、当初は、これまで受注実績のない市町村においては、担当者との面談すらできないケースがほとんどであり、すでに自信のもてるシステム開発はできていたものの、受注を受けることができず苦慮していた。
 そこで平成14年7月、えひめ産業振興財団を訪れ、支援を求めた。当財団では、相談を受け、ビジネスプランを策定していく過程で、当社技術の対外的な信用力の向上と、「地域活性化創造技術研究開発事業補助金」申請を目的として、中小企業創造法の認定申請に挑戦することとした。
 中小企業創造法の認定申請にあたっては、「著しい新規性」が求められ、全国的にみれば多くのGISシステムがあるなかで、当社の独自性をいかに明確に打ち出すかがポイントであり、書類作成及び審査会の質疑応答における注意事項の説明等を中心として、専門家派遣によるさまざまなアドバイスを行った。申請書類のブラッシュアップを重ねて、平成15年2月に「未登記地面積自動確定処理機能を有する地籍測量システムの開発」というテーマで「創造法」認定申請を行い、正式に認定を受けた。
 当社の知名度および対外的な信用力の向上に対する「創造法」認定の効果は大きかった。従来、受注実績のなかった市町村に対する営業においても、必ず面談に応じてもらえるようになり、デモンストレーションの実施や、GISシステム導入の受注に結びつくケースも増えてきた。さらには、平成15年6月、「地域活性化創造技術研究開発事業補助金」(創造法枠)交付が決定し、現在GISシステムの機能高度化に取り組んでいる。
 公共工事関連の業種においては、受注量・単価ともに減少し、他の同業者が一律に業績を悪化させているなか、当社は売上高・利益ともに増加させた数少ない企業のなかの1社である。
 当社は、公的支援策を有効に活用して成功したケースであり、当財団では、引きつづき適格なアドバイスを行うことによって、当社の成長をサポートしていきたいと考えている。





ピッキングセンターの整理整頓活動で粗利を確保
大分県中小企業支援センター(財団法人 大分県産業創造機構)


バックヤードが少ない小規模なお菓子屋さんに向け、必要な分だけ包装資材や鮮度保持材を小分けして通販するのが事業内容。電話で営業開拓、サンプル送付、受注したらすぐピッキングしてお届けするという、お菓子屋の経営者のお助けビジネス。ニッチなビジネスで競合が進出しにくいしくみを構築。



■全国の小規模菓子店がターゲット 包装資材について独自調査を実施


 会社設立の前に、小規模菓子店の包装資材の納品状況を把握するため、全国行脚を行った。
 どの店舗も限られた面積のなかで、表は販売、裏は製造に使っている。資材置き場の余裕はまったくといっていいほど確保できないのがほとんど。また大部分の店舗が少量生産・少量販売のスタイルであるため、1日当たりに消費する包装資材もそう多くはない。にもかかわらず、包装資材や鮮度保持材の問屋やメーカーは段ボール単位で納品してくる。必然的にスペースに余裕のない店舗の内部は資材在庫で圧迫される状況となっていた。
 佐藤社長は自らの足と目でこうした現状を確認し、成功の確信をもって平成10年12月に大分県津久見市で当社を創業したのである。

■創業当時は直接仕入れの鮮度保持材で強みを発揮


 メーカーからの直接仕入れであるため、低い原価率を確保できることから、これを武器として全国の菓子店に電話営業をかけた。もちろん菓子店にとって見ず知らずのタイセイから電話を受けても即応は難しい。それを見込んで、あらかじめサンプルをつくり、めぼしい客先に送付しておいた。着いたころ合いを見計らって電話したのである。
 このサンプルは実物を添付しているため、店で実際に使う商品を入れてみてサイズを確認できる。こうした現場のニーズにマッチしたサンプルであるため、順調に受注が進んだ。

■収益源はピッキングセンターの効率化


 こうして実質初年度(平成12年9月期)の売上は8300万円を達成。さらに13年9月期は2億5000万円、14年9月期は3億9000万円と着実に売上を伸ばし、15年9月期には5億円を突破した。これから先の売上について佐藤社長は、15億円までの計画はみえているという。自信に満ちたこの発言の背景には、収益のエンジンであるピッキングセンター(物流拠点)の効率化の徹底がある。
 平成14年の8月、大分県から経営革新計画の承認を得たと同時に、売上計画達成のため商品ラインナップの充実が課題となった。商品数が増えればピッキングセンターの広さやオペレーションも比例して拡大する可能性がある。しかし、本当にそれでよいのかというのが佐藤社長の抱える疑問であった。創業以来、数字を伸ばし、1度引っ越しもした。しかし従業員数を増やすことなく、現有勢力でまかなってきた実績がある。もしかすると現場改善を徹底すれば、まだまだ効率を上げることが可能ではないか。

■整理整頓だけで効率は3倍増


 平成12年から3年間、大分県産業創造機構の初代プロジェクトマネージャーとして活躍した人物。「現場改善は考えるほど楽じゃない。トップが決断して率先垂範する強い意志がないと現場の抵抗に負けてつづかない。中途半端な気持ちじゃダメだ」
 産業創造機構がある大分市から車で1時間の津久見市にあるタイセイまで乗り込んだ。5Sにかける社長の考え方、現場を率いる児玉常務の積極的な姿勢、きびきび働くピッキングセンターのスタッフ、ひっきりなしにかかってくる電話に応対するコールセンターのスタッフ。この様子をみて野沢はいった。「若くてやる気に満ちている。こういう会社は伸びる。ガンガンいうけどやってみる?」
 佐藤社長と現場責任者の児玉常務が深々と頭を下げた瞬間から、およそ1年にわたる改善活動がはじまった。現場は児玉常務が野沢氏と侃々諤々のやりとりをしながら推進、これを見て行けると踏んだ佐藤社長は積極的に売上拡大の手を次々と打ちはじめた。
 移転の話もあったが、レイアウト変更と整理整頓を徹底することで不要になった。ピッキングセンターのスタッフの動きに無駄がなくなった。
 月間売上がそれまでの過去最高を塗り替えた。
「内部体制の充実、クレームへの真摯な対応、利益率の確保、成長性の維持など課題だらけ。しかし現場改善のおかげで、自分たちの力でやれるという自信がついた。株式公開に向けて頑張りたい」
 佐藤社長は静かに決意を語っている。





焼酎由来素材を用いた必須アミノ酸が豊富な食酢の開発
宮崎県中小企業支援センター(財団法人 宮崎県産業支援財団)

産業支援財団には製造工程から販売に至るまで、さまざまな見地から支援をいただきました。ビジネスチャンスは20億円。まだまだ、これからもお世話になるつもりです。


■焼酎の蒸留粕に着目 高品質の酢の原料とする

 「酒が百薬の長なら、酢は"百利あって一害なし"の健康食品である」という信念の下、昭和5年に創業した。以来、高品質な玄米酢の製造販売を行い、昭和30年からはこんにゃくの製造も開始し、総合食品企業として「環境・安全・自然」をキーワードに、人と地球の健康を守るべく、活動してきた中堅企業である。
 今回の開発は、「そもそも酢は酒の製造工程に酢酸発酵の工程を加えてつくるもの。麹の仕込みや、熟成の技法など参考になることが多く、以前から地元の米焼酎メーカーに通って勉強してきた。あるとき蒸留後の残りを試飲すると、香りもいいし味も驚くほどまろやかだった。分析してみると、総窒素量は従来の3倍、必須アミノ酸をはじめ有機酸も豊富で、これを原料にしたらこれまでにない高品質の酢をつくることができる」と考えたのがきっかけである。
 焼酎の蒸留粕は、従来使い道がないとされていた部分であるため、原料調達コストは低く抑えることができる。ところが、有効成分(アミノ酸、有機酸等)を豊富に含んでいるがゆえに、腐敗も急速に進みやすいというのが再利用の大きな妨げとなっていた。また飼料・肥料として再利用するとなれば、水分除去のために大量のエネルギーを要することから、処理コストを低くできないという問題を抱えている。


■支援財団を訪れることから可能性へのアプローチがはじまる

 第1ステップとして、宮崎県産業支援財団の相談窓口を訪れた。サブマネージャーと打ち合わせを繰り返し、そのアドバイスから雑菌汚染防止対策を施した焼酎蒸留粕輸送施設を試作して研究することにし、そのために、財団が実施している平成13年度「中小企業ものづくりスタートアップ補助金(県単独補助金)」の交付を受けることになった。
 そうして試作した酢を、原料用食酢として酢の物、すし飯、ドレッシング、たれなどに試験的に使用し、従来の食酢を使用したものと比較し味覚テストを実施したところ、90%以上の方から風味の向上が認められるとの回答を得た。この結果から、あとは腐敗を防止して発酵工程に進むことができれば、栄養価が高く、風味と味のよい高品質な食酢ができる可能性はかなりあると確認できた。
 この試験結果を踏まえ、小規模量産規模での醸造管理、品質管理、製造方法をさらに研究開発するため、「中小企業創造活動促進法に基づく研究開発等事業計画」を申請。平成13年度(平成14年3月29日)に宮崎県知事から認定を受け、さらなる研究への基盤を固めた。
 第2ステップとして、平成14年度に財団の「地域技術起業化助成金」の交付を受け、高品質食酢の製造において腐敗を防ぐための最適な生産設備管理方法の研究と、販売方法・ネーミングを含めたデザイン開発及びマーケティングを行った。この過程で財団は、雑菌等の影響を受けにくい環境を構築するため、瓶詰室の床、壁補修、発酵、殺菌温度周辺機器の整備などにあたっての助言も行った。
 また、専門家派遣事業を利用し、栄養成分が豊富な原料からの発酵工程管理、瓶詰工程管理、生産管理の充実に取り組み、新規設備導入に向けて押さえておくべき項目についても指導した。

■量産化にも成功し新たな研究にも着手

通常の2倍以上のアミノ酸を含む米酢の量産化についに成功したのである。
 次の課題は、いかに販路を開拓するかに移った。大山食品はすでに米酢をはじめとした食用酢を販売していたので、完成した米酢をそのまま販売したのでは、既存の自社製品と市場の共食いが生じてしまう。そこで完成した米酢そのものを販売するのではなく、これを蜂蜜で割った健康飲料として販売することを決断。
 財団では、知的所有権を守る観点から、米酢の製法に関する特許出願と清涼飲料水「アミノ黒酢」の商標登録出願についての指導を行った。
 現在実用化しているのは、米焼酎の蒸留粕のみであるが、繊維が多いイモについても開発研究中である。また、生産過程で生まれる「酢のしぼりかす」も、商品化研究中である。

■県産品が抱える問題に解決の糸口循環型社会への取り組みともなる

 焼酎は重要な県産品であり、基幹産業の一翼を担っている。焼酎の蒸留粕の処分方法をめぐっては、海洋投棄ができなくなったために中小焼酎業者にとって大きな問題となっている。このため、県内でもこの焼酎粕の上手な処理方法について多くの学者や企業の研究者が日夜奮闘しているところである。
 大山食品が確立した製法は、そのまま放置しておくと使い道がないものを高品質の米酢に変えるという画期的なものである。循環型社会をめざす環境政策の面からみても、また焼酎メーカーの多い宮崎の産業振興という面からみても、実に可能性豊かな取り組みであると期待される。






バイクづくりの技術が営業につながり経営革新
鹿児島県中小企業支援センター(財団法人 かごしま産業支援センター)


創業以来、溶接を主体とする会社でしたが、近年は不況の影響で受注量の激減がつづきました。苦しい状況のなか、かごしま産業支援センターより設備貸与、専門家派遣など、当社単独ではできない支援を受けています。現在では支援効果によって、付加価値の高い技術力を保有するに至っています。これらの支援制度は自社では気づかない問題に客観的な対策を講じることができて非常に役立っています。


■溶接業から精密機械部品加工へ バイクづくりが経営改革に結びつく


 昭和63年4月、長男(現社長)が入社し、バイク部品を中心とした精密機械部品加工に参入することとなった。
 前田俊一氏は国際ライセンスを取得するバイクライダーであるが、単に乗るだけでは満足できなくなり、自分でバイクを設計し、部品をつくり、組み立ててハンドメイドのバイクでレースに参加するようになった。
 父の工場でこっそりと部品を加工し、自分なりのバイクに組み立てて各地のレースを転戦し、九州選手権では2クラスで最高記録を塗り替えた戦績もある。
 このことが俊一氏のバイクづくりの技術をセールスすることとなり、多くのバイク部品の注文がくるようになった。各地のレースで上位に入賞するバイクには必ず俊一氏が作った部品が使われたという。まさに「技術が営業」となった。
 バイク部品は形が複雑なものが多いが、見た目に美しく、丈夫でしかも軽く、加工精度が高くなければいけない。電気機械部品づくりなどと違った、非常に高度な技術・センスが求められる。俊一氏はバイク部品づくりから削りの世界に入ったから、電気機械部品づくりも抵抗なくできたという。
 当初はバイク部品を製造していくなかで外注も行っていたが、要求レベルを次第に高度にしていくと外注ではつくってもらえなくなり、自分で高度な加工ができる機械設備を導入せざるを得なくなった。

■技術とカンが頼りの経営から数値目標を明確にした経営へ


 かごしま産業支援センター(当時は鹿児島県中小企業振興公社)の支援がはじまったのはこのころからである。
 マルマエは平成7年度から設備貸与事業により特殊工作機械を次々に導入していったが、こうなるとバイク部品づくりだけではすまなくなり、精密電気機械部品も手がけるようになった。
 これらの工作機械はどこにでもあるような代物ではなく、同時に4軸、5軸の加工ができるような特殊工作機械ばかりで、その操作方法もすべて独学でマスターした。
 平成10年5月には下請振興事業の登録企業となり、平成11年度以降、毎年のように九州・沖縄中小企業テクノフェアに出展することで受注支援を行ってきた。平成12年には専門家派遣事業により東京の三宅中小企業診断士から「経営戦略、計画作成、自社製品開発」をテーマに指導を受ける。このときより技術を頼りにカンで行っていた経営から具体的数値を目標とした経営に変革することができた。
 このころには同社の主力は鉄骨・製缶事業から、半導体・液晶・太陽電池関連製造の消耗部品やタービンブレードを中心とする高付加価値部品の製造となっていく。高い技術力に対する評価を受けるに従って、有名な大手企業からの仕事も増え、売上高も急速に伸びていった。それに伴い、機械設備も設備貸与事業を利用することでさらに拡充させていった。

■新工場建設を含む中期経営計画を進める


「外部環境の変化にあった経営計画・戦略の策定」をテーマに専門家派遣事業を受ける。このときは、財務分析を中心に、同社のあるべき姿を見出すとともに、新工場建設計画を含む中期経営計画を策定する。
 これにより、平成15年3月に県の経営革新支援法の承認を受け、中小企業金融公庫・鹿児島相互信用金庫・かごしま産業支援センター等の支援機関が一体となって融資・保証を行い、同年6月出水郡高尾野町の工業団地に新工場を着工。同年11月完成する。
 新工場は、現在伸びはじめた液晶及びPDP装置業界を主なターゲットに大物精密加工品に取り組んでいく。そのため、第7世代の液晶製造設備に対応する最先端の大型5面加工機を導入した。
 同社の経営革新は、新事業への展開・新工場建設というハードルをクリアし、さらにこれを成長させていく段階にきており、当センターとしても今後の活躍を期待したい。





「脱ハウスクリーニング」をめざし独自のアイデアで生き残りを図る
長崎県中小企業支援センター(財団法人 長崎県産業振興財団)


1つのアイデアからベッドクリーニングが生まれました。しかし、これを具現化するのには私だけの力では到底成し遂げられませんでした。支援センターからの支援やアドバイスがあったからこそだと感謝しております。今後も積極的に支援センターを活用させていただこうと考えています。零細企業を支援する体制が整っていることは本当に素晴らしいことだと思います。
■独自のアイデアでベッドクリーニングを事業化


 ハウスクリーニング事業から出発した会社が、ベッドクリーニングの事業化へと進んだのはある顧客の相談がきっかけだった。
 「ベッドのマットレスにカビが生えていて、臭い。何とかならないだろうか?」
 ハウスクリーニング業は労働集約型の仕事で、しかも春秋の移動シーズンしか忙しい時期はない。松尾秀二社長はそこに困難を感じ、事業化できるアイデアはないかと模索していた。そんな時期の顧客からの声、これがベッドマットレスのクリーニング工法を開発する発端となった。情報調査の結果、ソファークリーニングの業者は存在するが、ベッドマットレスのクリーニング業者はなかった。また、廃棄ベッドは年間100万台以上あるが、クリーニングすることでまだまだ使えるものも存在することなどが判明した。しかし、どのような方法でクリーニングするかなど課題は山積している。一番のネックは、マットレスの洗浄はできても乾燥をどうするかであった。それが、当センターとの出合いにつながる。

■専門家の支援を受けビジネスモデルが完成

 マットレスを引き取ってクリーニングするのは設備さえあればできるが、それでは運搬の手間がかかり、短時間では納められない。クリーニング後すぐにベッドが使用できることから、出張クリーニングでサービスを提供することにした。そのため、いくつかの制約が出てきた。マットレスの洗浄は、水洗いができない。洗浄剤も合成洗剤は使えない。1時間程度の作業時間で洗浄から乾燥まで行わなければならない。
 以上のような課題を明らかにして立ち上げ準備に入り、県の事業可能性評価委員会認定企業第1号に選ばれた。この後、無料でインストラクターの派遣が行われた。支援内容は、出張クリーニングのビジネスモデル構築から、いかにして全国展開につなげるかということまで、事業プランの作成から入った。また資金面でのアドバイスとして、補助金や助成金の活用などから現場クリーニング方法、殺菌乾燥装置の開発、マニュアルづくり、特許申請に及んだ。無料派遣は支援する側から必要な時期にインストラクターを派遣できるため、事業立ち上げに効果が大きい。
 次いで東京・四谷の長崎県産業支援センタービルへの入居を決定し、フランチャイズ全国展開に便宜を図ったところ、日本経済新聞をはじめとする各種メディアに取り上げられ、順調に滑り出した。その後有限会社から株式会社に商号の変更も行った。
 長崎県産業支援センタービルの活用について、松尾社長は「私たち零細企業が東京でビジネスを展開する拠点としては申し分ありません。また財団の支援も幅広く、いろんな専門家を派遣していていただき、たいへん感謝しております」と評価していただいている。

■フランチャイズ事業で全国展開をめざす


「洗浄から乾燥まで55分で終了します」をキャッチフレーズに「クイッククリーニング55」と命名し、FC店募集を開始した。この日本唯一のベッドクリーニングシステムは、安全なクリーニング工法とコストパフォーマンスを追求した成果である。
 FCのメリットは資金需要を直営店方式より軽減でき、また全国展開を早く達成できることなどである。FC事業での支援のポイントは、このメリットを最大限に活かすことだった。
 そして東京・四谷の長崎県産業支援センタービル入居と同時にFC事業による全国展開へ向けて活動をスタート。現在では、全国に28カ所のFC店がオープンしている。
 FC店へのノウハウ提供は、ベッドのクリーニングはもちろん、ソファーやカーペットなど水洗いに適さない物へのクリーニングにも応用範囲を広げている。ベッドクリーニングへの関心は、いままで1度もクリーニングしていない病院や老人施設をはじめとする特定需要者からの反響が多い。SARS対応が迫られている中国への展開も希望されており、海外代理店設置を検討中である。今後は、FC事業とは別に特定需要者向けに新しいシステムを開発していく予定だ。
 また、汚れのクリーニングよりはダニ、臭い、カビ等のトラブルをもつベッドでの需要が多いことにも注目し、ダニ忌避の効果が高いコーティングや光触媒を利用した商品などもクリーニング工程で取り入れている。








マンツーマン一貫集中支援で工法特許バネに全国展開
沖縄県中小企業支援センター(財団法人 沖縄県産業振興公社)



 助成金が欲しいのではなく、信用・信頼が欲しいのです。福岡での地鎮祭に飛んできてくれた姿をみて、「沖縄県はこうして企業を支援しているのか」と驚かれるとともに当社への信用が一気に高まりました。プロジェクト・マネージャーには、経営戦略のヒントや幹部への講演会も開いていただき、社員のさらなる意欲創出と事業進展のスピードにつながりました。



■自社独自開発の工法により全国展開をめざす建設会社


 中小企業支援センター事業の支援制度の1つである「事業可能性評価委員会」の選定企業となり、当センターでは同社の県外販路開拓を集中支援してきた。
 同制度は、事業の可能性について評価を行い(専門委員会および本委員会に諮る)、事業の成長可能性が高く将来的に有望な企業及び事業分野を発掘し、継続的かつ集中支援へ結びつけることを目的とする。
 各分野の専門家からなる専門委員会と企業経営者等の目利きからなる事業可能性評価委員会(本委員会)の2つの委員会において、主に事業の(1)社会貢献性、(2)新規性・独創性、(3)市場性 (4)実現性、(5)展開力というの5つの視点から総合評価の高い企業を選定し公表する。
 同社は、自社独自開発工法により「低コスト高品質」商品を実現。沖縄からの全国展開は県建設業界で異例であり、新たな展望を開いたとして、今後の事業展開に大いに期待ができる。

■県外進出に向け知名度向上と信頼関係の構築に取り組む


 公共工事の減少による建設業界の生き残りをかけるなかで、同社は独自開発工法による民間受注のウエートが高いということを利点として健全経営をつづけている。
 しかしながら、県内の域内マーケットでは将来の展望が立たないことから、3年前からマーケットを県外とにらんで、手始めに福岡県へ進出。ところが、県外展開においては、経験が浅く実績が乏しい現状から今後の全国展開においては地域における「知名度向上と信頼関係の構築」が課題として残っていた。
 幸いに市場性ある低価で高品質商品を保有し、健全な財務内容、社長の力量、緒につきかけた物件の販売等を総合的に考慮し、上記の「知名度向上と信頼関係の構築」をバックアップする公社の支援体制を敷き、ロールモデル(成功事例)を企図する。


■マンツーマン方式による"育て上げ型支援"を実施


 沖縄県の新振計のコア施策である「民間主導による自立型経済の構築」の実現を期するうえで、下記の「民間支援5原則」に基づき積極支援している。

  1. 行政の補完的機能に加え、コーディネート・プロデュース機能の充実強化
  2. 徹底した現場主義の導入
  3. マンツーマン方式による「政策支援企業」の育成支援
  4. ワンストップサービスの徹底
  5. 迅速多様な民間支援方策の展開

 沖創建設の支援ポイントは、プロジェクトマネージャーのマンツーマン方式による「政策支援企業」(事業可能性評価委員会選定)としての"育て上げ型支援"によるものである。同社の県外展開が緒につきはじめた福岡県事務所等での大まかなマーケティング調査の実施可能性を把握したうえで3棟目の地鎮祭の際、公社の事務局長が出席、沖創建設への「信用の供与」という形となって、今年2月東京で2棟7億円余の受注にこぎつけている。

■数々の支援策が功を奏し企業として信頼を高める


 公共工事が先細りするなかで、沖創建設は官需から民需への受注シフトを敷いてきており、現在のウエートは官5%、民95%となっている。また、本社・現場及び取引関連協力会社あげて日常業務のなかで改善・改革・改造を徹底したほか、「プレキャスト壁パネルの製造方法と成形装置」「プレキャストパネルの積上式製造方法」の2つの特許を取得。重労働の軽減と生産効率の向上で大きな「差別化戦略」を保有し、加えて人材育成・登用・健全な財務内容など、人・モノ(技術特許)・カネの経営基盤トライアングルに着目し、県外展開への公的機関による信頼性支援による選定企業としてのプレス発表、県外地鎮祭への出席などで沖創建設の意欲創出を担った。
 同社の横田恵文社長は、こうした支援の成果について語る。
「県産業振興公社にある沖縄県中小企業支援センターが事業の可能性を高め、将来的に有望な企業に選定してくださり、これは追い風になりました。地鎮祭で沖縄県産業振興公社の中村事務局長の姿をみたお客様が『沖縄県がおたくを支援しているのか』と感心していました。われわれ事業家にとって一番欲しいのは信用。これは金では買えません。おかげさまで福岡では3棟目のマンションを建設中で東京でも2件のマンションが建設契約を締結受注しています」
 このように、沖創建設の現状分析を行い、その課題を抽出し、タイムリーかつ効果的支援をマンツーマン支援のスピーディーな対応が功を奏した。
 「育て上げ型支援」はかゆい所をかいてあげる感性と業務のミッション(使命観)を通して、中小企業支援成果を発揮するファイティング・スピリットが支援機関に問われている。その成果が法人税、雇用として行政の施策支援の実を結ぶものである。





電子文書の高機能化ビジネスをめざして創業独立
札幌市中小企業支援センター(財団法人 さっぽろ産業振興財団)


 支援センターには創業時より、事業計画のアドバイスを含め金融的支援を受けてきました。スタートアッププロジェクトルーム(財団施設)への入居、補助金交付決定など多岐にわたる支援にたいへん感謝しております。
 なかなかすぐには結果を出せませんが、成果をあげるよう最大の努力をしたいと思っております。



■印刷会社を脱サラしデジタルコンテンツの開発へ

 
 特定のプラットフォームに依存せず文書を表示できるPDF。このPDFの機能に着目し、紙文書の電子化やデジタルコンテンツの開発に取り組んでいるのがスマイルフェイスである。
 1998年ごろ、札幌市内の印刷会社でWindowsによるDTPを立ち上げ、既存紙文書のデジタル化事業を手がけていた。
 当初はスキャニングしたデータをPDFファイルに変換してCD-ROMで納品することが多かったが、PDFファイルを作成するソフトウェア「Adobe Acrobat」の進化や通信インフラの整備などにより、データベースとの連動やWebサイトでの配布など応用範囲が広がっていった。
 「PDFの高機能性を活かせば、デジタルコンテンツの制作もできる」と考えた平岡氏は2000年9月、印刷会社から独立し、スマイルフェイスを設立した。

■製品の用途が広がればWebサイトが便利になる


 当社の手がけるデジタルコンテンツは、PDFのフォーム機能とJavaScriptを使い、動的に表示することに最大の特長がある。
 当社のホームページにサンプルとして掲載されている札幌市地下鉄路線図がその一例で、画面のなかにさまざまな情報を埋め込み、ユーザーが発駅をクリックすると、目的地までの時刻表や運賃などがポップアップ表示される。地図上には市内の観光スポットも落とし込んであり、観光案内やアクセス方法なども取り出せる。情報をポップアップした状態でプリントアウトすることも可能だ。
 「PDFは多国言語に対応しているので、海外からの旅行者に向けた観光ガイドに活用できると考えています」と平岡氏は話す。このサンプルは、「Acrobat 5.0」がリリースされたとき、日本企業では初めて活用事例の1つとしてCD-ROMのなかで紹介された。
 地下鉄路線図の場合は、画面にさまざまな情報を埋め込み、複数の選択肢を用意することでユーザーが自由に情報を引き出せるが、逆に、選択肢を絞り込み、必要条件をクリアしないと先へ進めないというしくみをつくることもできる。
 例えば、イベントや講習会などへの参加申し込みをWebで行う場合、通常はHTMLなどで書かれたフォームに必要事項を入力するが、これをPDFファイルで提供し、しかも1〜2項目ごとにページを分けて表示するのである。1つひとつの項目が正しく記入されなければ次のページへ進むことができず、途中からはじめたり、全部記入しないうちに送信したりできないようになっている。
 さらに、記入方法のガイダンスや間違ったときのアドバイスなどを音声で届けることができるため、お年寄りやパソコン初心者など不慣れなユーザーも正しく誘導することができる。
 最近はPDFのなかに埋め込むデータの作成やJavaScriptを書くためのツールを自社開発しており、開発期間の短縮を実現している。また最近はPDFを自動作成するためのライブラリーも出ているので、開発コストを低く抑えることも可能である。
 今後は、受託開発を手がけながら、開発ツールやパッケージソフトなどの自社開発にも取り組んでいきたいと考えている。



■強みと弱みを明確にし適切な支援策を展開する


創業については当初から相談をもちかけられていたが、今後のデジタルコンテンツに関する時代の流れや、電子自治体に向けての動きを背景として、「PDFの高機能によるビジネス展開」を考えた創業者の着眼点にはよいものがあった。
 しかし研究開発型企業の例にもれず、技術開発から売上計上に至るまでの道のりが長く、創業資金をはじめ、軌道に乗るまでの経営資源が乏しい。また、創業者は技術畑出身であることから、経営ノウハウについても豊富であるとはいえなかった。
 こうした背景から、同社の弱点を明らかにしたうえで、支援センターとしてできるだけの支援をするように配慮した。
 資金面では創業のための事業計画の策定と金融機関に対する制度融資斡旋や、マーケット開拓のための「中小企業等産業創出活動補助金」の適用。事業拠点については、インキュベート施設である「スタートアッププロジェクトルーム」への入居認定。企業知名度を上げるための展示会の支援や「スタートアッププロジェクトルーム合同パンフレット」の作成。経営ノウハウ蓄積のためには、専門家の指導に基づく勉強会の開催やサブマネージャーによる巡回経営相談をほぼ毎月実施。さらにインキュベート担当者による日常的なフォローなど幅広く対応している。
 







独自の創業支援事業活用による創業の推進
川崎市中小企業支援センター(財団法人 川崎市産業振興財団)


 「かわさき起業家選抜」での優秀賞受賞並びに融資の認定が支えとなって、念願であった会社設立を果たすことができました。これからもセンターとの連絡を密にしつつ事業の一層の発展をめざします。



■「かわさき起業家選抜」を立ち上げ優れたビジネス・アイデアを支援


 当センターでは平成13年度に、マネージャーのイニシアティブの下、より多くの支援対象企業の発掘や新規創業の推進を図ることを目的に、都道府県等中小企業支援センターの行う各支援事業に加えて、独自の支援事業である創業オーディション「かわさき起業家選抜 ビジネス・アイデア シーズ市場」事業を立ち上げた。
 この事業はさまざまな分野のビジネス・アイデアを、地域を越えて広く公募している。優れたアイデアには、川崎市中小企業融資制度の利用や金融機関との出会いの場の提供、あるいは当センターのマネージャーによる継続的なアドバイスなどを通じてアイデアが実現できるよう支援するものである。
 事業がスタートした平成13年度は計4回の開催に主催者の予想を大幅に越える応募があったことから、次年度からはより応募がしやすいよう原則「毎月」の開催とし現在に至っている。
 この間、計21回の開催で応募数681件を数えるが、本事業を通じて新規創業や新分野進出を果たした事例も数多く出てきている。

■応募したアイデアが優秀賞を受け仲間とともに独立起業を果たす


 今回紹介するイッツコーポレーションは、この「かわさき起業家選抜」事業を契機に新規創業を実現した企業であるが、創業に至る経緯は次のとおりである。
 創業者の淡路正明氏はもともとは大手工作機械メーカー系の子会社で機械の稼働率を向上させるソフト開発に従事していたSEであった。
 しかし同社の体制では自らが中心となって開発に取り組んだソフトの販売が困難であったことに加え、会社も組織の一部を切り離す機構改革を進めてもいたこともあって、業務の先行きがみえない状況に置かれていた。  こうしたことから会社からの独立を他のスタッフとともに模索していたところ、「かわさき起業家選抜」を知り、第2回の選考会に「Webを利用した工作機械の稼働率の管理」のアイデアを提案、自己の描くビジネスの事業としての可能性の評価を託すこととなった。
 選考の結果、このアイデアは優秀賞を受賞、インセンティブである川崎市中小企業融資制度の2000万円の融資も受けられることとなったため、独立を決意し、平成14年3月、仲間3名とともに株式会社イッツコーポレーションを市内中原区に設立したものである。

■スタートアップ時の課題に専門家派遣でサポート


顧客企業のニーズに応じた生産管理部門の各種ソフトの制作・販売を主な業務としている。淡路社長らスタッフは工作機械メーカー系の子会社に在籍していたが、専らソフト開発業務に従事していたこともあって生産管理全体に関する知識や経験が十分でない面があった。また企業であるからには、常にその商品やサービスを供給する新たなマーケットの開拓が必要であるが、この点についても社員らの業務経験が不十分なため、どこに対して、どのように営業をしかけていくべきか?という営業面での課題があった。
 そこで当センターが同社に提案したのが、これらの課題に関する専門家の派遣である。専門家の派遣は平成14年度、15年度の2度にわたって実施しているが、同社は現在、派遣専門家の指導と協力の下、生産管理システムや営業ノウハウの習得、新たな事業の模索等に努めているところである。

■事業に適した環境を求め企業育成施設「KBIC」に入所


市内中原区のオフィスは設立当初ということもあってスペースが狭いうえ、近隣に情報交換や業務提携等を行う相手先企業も不足がちであった。このため事業の発展により適した環境に新たな拠点を設けることを希望していた。こうしたなか、川崎市では、かながわサイエンスパーク(KSP)に次ぐ市内第2の企業育成施設として、平成15年1月、「かわさき新産業創造センター(KBIC)」を開設した。
 この施設は新規創業や新分野進出、市内企業の技術の高度化の促進等を図るために開設されている。当センターでは同社に対して本施設の情報等を提供し、その結果、同社は平成15年12月、KBICに入所することとなった。

■状況に応じたサポートを実施順調に売上高を伸ばす


 当センターのイッツコーポレーションに対する支援は、新規創業段階では「かわさき起業家選抜」を通じて事業の可能性を評価し、川崎市中小企業制度融資による必要な資金を融資したこと、またスタートアップ段階では専門家派遣事業を通じて諸課題の解決と新たな拠点である「かわさき新産業創造センター」入所に際してのサポートが主なものであるが、この間、センターマネージャーによるアドバイス、無料相談窓口での経営や技術上の各種の相談、あるいは人材育成事業の研修を通じての支援も適宜実施してきた。
 イッツコーポレーションは誕生してまだ間もない企業であり、企業規模も現時点ではまだ小さいものである。したがって売上高も1期は10000万円と少ないが、2期は3000万円、さらに3期は8600万円(予定)と順調に売上高を伸ばしている。企業の成長、発展は企業自身の絶え間ないチャレンジや経営革新の成果であることは言うまでもないが、当センターでは今後とも可能な支援を通じて同社の発展を見守っていく。





インキュベータ入居企業に対する適切な専門家派遣での人材育成支援
神戸市中小企業支援センター(財団法人 神戸市産業振興財団)

株式会社シーナ

 神戸市中小企業支援センター様との出会いは、創業3カ月前の合同支援説明会でした。同センターのインキュベーションを知り、弊社が行う介護事業にはお客様の信用を得るうえで最高の環境でした。入居により、他の創業ベンチャーのなかに身を置き、皆が同じような悩みをもち、解決方法も具体的にアドバイスいただけました。創業3期目を迎えた現在、新たな悩み事が次から次に発生するなかで、なかなか卒業できそうにないのが不安です。今後とも、ご指導ご支援をお願いします。


■介護現場の混乱を憂いて創業を決意
 
 社長が父母の介護経験から介護保険制度の施行による介護現場の混乱や情報不足による被保険者の不安を憂い、創業を決意した。
 平成13年5月に神戸市産業振興センター企業育成室に応募、審査の結果、7月からの入居が決まった。同月には、兵庫県新産業創造プログラムの事業化認定も決まり、株式会社シーナの設立に至る。
 シーナの当初の事業は、メーカーとのタイアップ商品「ナーシングネット」の販売であった。これは、かつて糟谷社長が勤めていた会社の商品で、彼はその代理店として事業の足がかりをつかむこととなる。この商品は居宅支援のアセスメントからケアプランの作成、介護報酬請求、訪問用各種報告書等がiモードやパソコンから簡単に作成できる。
 一方、自らの父を介護したときの経験から、地域の介護情報があまりにも少ないことを痛感し、困った方々の助けになりたいとの思いから、介護情報ネットワーク協会を立ち上げた。これは要介護者や介護事業者の方々が地域での情報交流を図れるように、ホームページを中心に運営されるネットワークで、年々充実してきている。
 シーナが入居した企業育成室では毎月1回交流会を開催し、マーケティング、資金計画、労務等のテーマで、経営の基礎を勉強するとともに、3〜6カ月ごとに事業の進捗状況をマネージャーがヒアリングして支援内容を検討する。

■商品化には成功したが人的資源が不足

新規事業展開を積極的に行い、神戸市産業振興財団が行うマーケティング支援制度や兵庫県の助成制度等も活用して、簡易カード発行システム「らくらくけんたくん」の開発・販売を開始する。このカードと出退勤システムやASPによる介護事業者の総合管理システム「ハッピーケアシリーズ」は介護事業者向けの総合ソリューションとして、のちに販売されることとなる。
 その間、同社に2足歩行ロボットの技術者が合流し、ロボット技術の介護事業への応用を模索することとなる。人間のような介護ロボットというのはいまだ実現は難しいが、2足歩行を達成するためには複数センサの制御が必要であり、その技術を応用する「離床・離席センサ」を現在開発中である。また、近い将来、排泄介助・入浴支援ロボットや車椅子の移動ロボットの実現も視野に入れている。
 このように商品開発が進むなか、販売の本格化に向け、営業責任者に大手企業の退職者を雇用したが営業効果があがらなかった。
 ちょうど同じ時期に、事業の立ち上げ当初から一緒に働いてきた従業員が病に倒れた。その従業員は長期にわたって仕事を任せられないような状況だったが、糟谷社長は、最初から一緒にいた従業員に対して情からなかなか退職勧告ができなかった。従業員が少数しかいない企業で1人分の人的資源がなくなれば大きな痛手となるのは誰の目にも明らかであった。
 そこでマネージャーは、経営と情とのあいだで揺れる社長に対して、経営の厳しさを説くことになる。併せて、経営戦略と人材戦略について専門家派遣を受けてもらい、バランススコアカードと人材マップの活用によって人材戦略の指針を得ていただく機会を提供した。

■デイサービス事業に進出新たな課題へと取り組む

 14年度は売上倍増となり、単年度で黒字化を達成。兵庫県のキャピタルの増資(資本金2100万円)も決まった。シーナは新たな営業のパートナーも得て、次なる展開を進めていく。地域密着型のデイサービス事業である。設備経費は商工中金から融資を受け、施設管理所長と生活相談員、看護士の3名を採用し、平成15年11月、神戸市中央区に「アーチ・デイサービス春日野」をオープンした。
 ここはハッピーケアシリーズや離床・離席センサなどの介護支援を目的に最新のITを駆使したデイサービスセンターとして稼動した。シーナがこれまで進めてきた介護関連商品の実証運用場所兼生きた展示場ともなる。
 糟谷社長はこれらのシステムを組み合わせて、要介護者の生活環境の改善を運営理念に掲げ、「要介護者が、ここに通っていただくことで無意識に健常時の生活形態に近づけることができるサービスを提供していきたい」と語っている。
 しかし、ここでまた人に関する問題が浮上することとなる。ベンチャー企業であるシーナには従業員教育に関するノウハウがなかったのだ。
 そこでマネジメント人材の育成に主眼を置いた専門家派遣の追加支援を決めた。
 労務・人事専門家による人材教育プログラムを実行し、管理所長とそれ以外の従業員教育を行った。内容は基礎的な応対マナーの実践とエゴグラムによる自己分析により問題点を意識して自分の果たすべき役割を従業員自身で認識し、行動に移すことを織り込んだものである。

■複数の支援を効果的に活用適切な専門家派遣が成果を生んだ

 通所介護施設は立ち上がったばかりだが、昨期は36,003千円と売上は着実に増加している。
 しかし、人材問題に直面するたびに、中小企業に必要な人材の要件は何かと問われている。
 支援センターでも人材面に重点を置いて支援してきた。
 シーナへの支援は創業支援と人材育成が中心であったが、神戸市の支援センターだけでなく他の支援センターの制度も効果的に活用してきた点もよい方向に作用していると思われる。
 また、インキュベータ(企業育成室)に入居しているため、迅速な情報収集と相談対応が可能で、適切な専門家を適切に派遣できる点が有利に働いている。
 介護分野の市場は大きいが、ライバルも多い。事業者・要介護者・その家族の掛け橋となる企業として将来の発展を期待する。