全国の中小企業支援センター支援事例集3

何もない一個人の、工場立ち上げを支援する
佐賀県中小企業支援センター(財団法人 佐賀県地域産業支援センター)


 佐賀県中小企業支援センターには、創業前から「ベンチャービジネス講習会」でお世話になりました。つまりサラリーマンを辞めて、独立創業を思案していたころからのお付き合いです。以後3年間、さまざまなご助言・ご支援をいただき、おかげさまで設立3期目にして、経営を軌道に乗せつつあります。
 創業間もない企業にありがちな「人材=人財」の不足を補って余りあるご支援を、これからも期待しております。


■独自の新製法によるこだわりのゴマづくり

すりゴマはただのゴマではない。独自の製造法で味と香りにどこまでもこだわってつくられた、ほんのり甘くまろやかで味と香りで他に類をみないこだわりの一品。
 萬点フーズは、代表者の岩石昭浩氏が「本当においしい胡麻をつくりたい」という一心で創業した会社。焙烙(ほうろく)という素焼きの煎り鍋を用いた製法をヒントに焙煎機に手を加え、「焙烙仕立て」という製法を開発し"手づくりの風味"を再現。また、"すり機"も市販のものは使わずに、水車の粉挽きにヒントを得た「杵つき製法」を開発して、ふっくらとした食感と粒の食感を同時に楽しめる商品に仕立てている。

■ゴマ業界を約8年経験したのち製造工場を単独で立ち上げる

 代表者の岩石氏は、福岡大学法学部卒業後、プラント設計会社を経て、92年に佐賀県内のすりゴマ製造会社に入社。製造現場や生産管理、総務などを経験したのち、2000年に同社の佐賀工場長に就任。もともと独立志向の強かった岩石氏は、約半年間の工場長経験により独立の自信を深め、同年6月退社、当センターが開講した「ベンチャービジネス講習会」を受講した。その後、独立の際に会社経営全般にわたるアドバイスをセンターから受け、2001年3月に萬点フーズ株式会社を設立。まさに裸一貫での製造工場立ち上げという、数多い当センター支援先のなかでも出色のケースだった。


■開業前後の時期はあまりに多くの課題が

  1. 資金面:岩石氏が当初、自前で準備できた資金はわずか300万円。有限会社を設立しようとしていたが、すりゴマ製造工場を立ち上げるには機械購入などの資金として最低でも2000万円程度は必要であり、資本増強の必要性を強く指導した。親戚筋をまわって700万円を調達させ、やっと2001年3月に株式会社設立(資本金1000万円)にこぎつけた。また、県の制度融資(独立開業資金)から1000万円調達することができ、都合2000万円の資金で、すりゴマ製造業の事業開始となった。

  2. 販路:従前のすりゴマ製造会社の販路は使えず、まったくゼロからのスタート。以前の8年間のキャリアから、思いつく限りの営業活動を行うと同時に、当センターでも佐賀県内外のスーパーや商店に紹介した。当初半年くらいはほとんど数字があがらず、経営者としてかなり悩んだ時期もあったが、その後通信販売がヒットし、かなりの出荷が見込めるようになってから売上は徐々に伸びていった。

■3カ月ごとの「実績検討会」と「ベンチャー異業種交流会」

 毎月の試算表をもとに、代表者と実績検討会を3カ月ごとに開催し、経営面のさまざまな課題や悩み等について、情報・意見交換を行った。同氏は誠実な人柄で、経営実態について虚偽の報告をすることもなく、終始好感のもてる対応をしてくれ、われわれ支援者サイドと相互の信頼関係が確立できたように思う。
 また2001年6月に当センターが設立した、ベンチャー企業の事業協力・事業連携をめざす「佐賀県ベンチャー交流ネットワーク」にも創業メンバーとして入会し、会員となった他の有力食品メーカ—とともに「佐賀県特産品販売連合会」を立ち上げ、共同販売にも乗り出した。

■権威あるモンドセレクションでグランドメダル(大金賞)に!

 2003年5月にビッグニュースが飛び込んできた。当社の「まんてんのすりごま」がモンドセレクションの大金賞を受賞したのである。
 「モンドセレクション」とは、欧州経済共同体(EEC)とベルギー王国経済省が1961年から開始したヨーロッパで最も権威ある品質選考会。
 世界各国のメーカーが自信作を出品するなか、これを受賞した商品は、国際的な評価基準を満たした"世界に通用する商品"であることが証明される。100点満点のうち、85点以上で金賞。大金賞をとるには95点以上の評価を得る必要があり、萬点フーズはその名の通り、世界で"満点"の評価を得たのである。
 当社のすりゴマは、昔ながらの"ほうろく"を使った製法をヒントに焙煎機を工夫し、ゴマの風味を引き立てた点が評価されたもので、すりゴマとして日本はもとより、世界で初めての受賞となった。
 この受賞を機に商社などから問い合わせの電話がかかるようになり、今期(2004/2月期)の売上は対前期比で50%アップの25,000千円となる見込みである。
 また当センターでは以前から、新製品開発の重要性を岩石氏にしつこいほど指導しており、現在は主力のすりゴマに加えて「黒胡麻油」「胡麻サブレ」「ねり胡麻」などの新製品が次々と生まれている。将来は主力のすりゴマの売上比率を50%程度にまで落とすことを目標としている。
 当社は決してハイテクのベンチャー企業ではないが、一個人が単独で工場を立ち上げ、約2年半でほぼ成功の目途をつけたという点で、われわれ支援者サイドにも大いに自信を与えてくれる存在である。







創業前からの支援企業が、2年間で全国展開の有望企業に成長
熊本県中小企業支援センター(財団法人 くまもとテクノ産業財団)



 支援センターには多くのご支援をいただき、心より感謝いたしております。特に眠れぬ夜がつづき、苦しいときに話を聞いていただくだけで救われたことがよくありました。お互い忙しいなかでも、継続的にメールや電話をいただきました。心のこもった「本当の支援」の意味を感じております。


■社内で提案したアイデアが不採用に世に送り出すために脱サラ・創業

 熊本県中小企業支援センターは平成12年6月に発足した。
 当時、有馬社長は会社勤めをしており、現業界で旧態依然とした機器を使ってアバウトなガス漏れ検査が行われていることに問題意識をもっていた。そこで、新たな「ガス漏れ検査機器」の開発・販売を会社に提案したが不採用となった。知的所有権センターに相談したところ、特許も取れそうだとわかり、事業化の可能性も確信した。いまから世の中に必要とされる機器を送り出すため、自ら脱サラ・創業して事業化することを決意。これから新会社の青写真もつくっていくことになるが、知的所有権センターから当センターに相談するように勧められてきたということだった。今後いろいろ相談にのってもらいたいとの話を受けて、エイムテックに対して総合的・継続的支援を開始した。


■ピンポイントの課題解決でなく総合的・継続的な支援を展開する

 当事例の場合は、1つの課題を解決するための支援ではなく、創業段階からの総合的・継続的な支援ということである。創業は未知への挑戦であり、変化に対応しながら、事業を軌道に乗せていくことが大切である。ひとつひとつの支援は小さくても、事業化に向かう企業のあり方に幅広く影響を与えていくことになる。
 時系列で支援内容を紹介していこう。
  1. 本社事務所の設置
     本社事務所探しの相談があり、当財団・電応研の事務責任者との交渉を経て、空研究室に入れてもらえることとなった。共同研究先の熊本大学・地域共同研究センターの付近に立地し、対外的には大きな信用力も得ることができた。

  2. 事業可能性評価委員会での発表
     初年度の2回目の事業可能性評価委員会で発表してもらうことになり、パワーポイントで資料を作成して発表した。このやりとりのなかで海外市場への展開を意識するようになり、国際人材の確保(2名)につながるとともに、事業化への注意点を得ることができた。その後、本人の希望で、別事業での事業可能性評価も当委員会で行った。

  3. 熊大・工学部教授を紹介
     熊大で大学院生に創業に関する話を行った際に、創業者の生の声を聞かせるために有馬社長を連れて行き、担当教授(現工学部長)を紹介した。このことで、別の先生との共同研究につながり、商品差別化力の高い特許の申請や、高付加価値商品の開発を実現。また全国規模での産学官連携会議の際に、好事例企業として発表の際に多用されている。

  4. 提携先製造企業の選定
     当社はファブレス企業であり、商品設計力をもった製造会社との提携が必要だった。当センターで候補企業を7社抽出し、一緒に訪問してプレゼンテーションを行った結果、4社からの提携希望があった。有馬社長が相性も含めて最もフィットできると感じる提携先を選定することができた。

  5. その他
     「創造活動促進法の認定による融資や助成金取得」「販路開拓支援による大手代理店との縁」「顧客管理サポートシステムの構築」「起業化支援センターからの投資」「熊大インキュベータへの入居・共同研究」「創造技術研究開発費補助金の採択」等へと広がっている。

■創業支援のポイントは変化への対応とコミュニケーション

 一般的にビジネスプランの作成支援などが重要といわれるが、創業段階においては変化への対応が、より重要性が高いと考えている。また有馬社長からは、「経営者は孤独である。くじけそうになることもある。そのようなときに、自分を支えてくれている人がいるという実感をもつことほど、心強いことはない」という話を聞くことがある。ちょっとした面談・電話・メールなどによる継続的なコミュニケーションも大きな支援ではないかと思う。
 一方で考えておく必要があるのは、「企業がうまくいかないときに責任をとるのは起業家であり、われわれではない」ということだ。創業支援において、われわれは「起業家の相談相手」や「アイデアの提供」「縁づくり(人や助成制度の紹介)」を行い、「事業化の成功確率の向上」や「課題解決の試行錯誤期間の短縮」を支援することを重要視する必要があるだろう。

 有馬社長が考える「企業成功要因」と「起業家へのアドバイス」は以下にようになる。

【成功要因】
  1. 付加価値が高く大手が余り力を入れていないニッチ分野を事業化する。
  2. いまからの社会に必要性の高いものを事業化する。
  3. 人とのつながりでいろいろと展開していった。
【起業家へのアドバイス】
  1. チャレンジ精神を常にもって成功を信じて行動
  2. タイミングがあるので、あせらずに冷静に判断する、急ぐと逆に失敗することもある。
  3. 物事は思惑どおりにはいかないもの。いろいろな手段を準備しておく(リスクへの対応)。
  4. 種を蒔いておかないと、芽は出ない。
  5. 技術のない自分でも知的ネットワークを活用し、商品開発ができ販売できるようになった。
 創業支援を通して成功の前提条件を考えると「まずは起業家資質(アントレプレナーシップ)であり、人との出会いが大きな要素」ではないかということを実感している。有馬社長は起業家資質の高い素晴らしい起業家であり、エイムテックは今後の発展が期待される企業である。








「おからこんにゃく」の製造販売(マッチング事例)

青森県中小企業支援センター(財団法人 21あおもり産業総合支援センター)



 財団法人21あおもり産業総合支援センターに相談したことで、この「おからこんにゃく」と出会い、新規事業を立ち上げることができました。当社にとってはたいへん大きな転機となっています。 まだ立ち上げたばかりで、たくさんの課題がありますので、これからも継続的な支援をお願いしたいと考えています。
 今回の一連の支援で、数々の助言・アドバイスをいただきましたが、当初の計画どおりにすべてを行うことができませんでした。これはやはり、資金的な面や人的面が問題となっております。今後は、これらの点についての支援を望んでいます。



■相談者同士をマッチング効果的な出会いから支援する


 慶應年間から蒟蒻製造業を営んでいる老舗であり、これまで蒟蒻一筋に製造・販売を手がけてきた。
 しかし蒟蒻業界を取り巻く環境は、原材料のめまぐるしい変動にもかかわらず、販売価格は据え置かれ、また、食生活の変化による消費需要の低迷等により売上高は減少傾向にある。このまま既存商品の製造だけに頼っていては将来的に立ちゆかなくなる、という思いが工藤雅則社長にはあった。新たな商品を開発して活路を見出そうという試行錯誤をつづけるなかで、当センターへ相談に訪れた。
 また、「おからこんにゃく」の発案者である岡田哲子氏は、「おからこんにゃく」の特許を取得するため、青森県知的所有権センターを訪れ、その指導の下、特許を出願した。併せて、この「おからこんにゃく」を普及させたいとの思いから、どうしたらよいかと思い悩んで、当センターへ相談にこられた。
 そこで、相談を受けたプロジェクトマネージャーは、即座にその両者をマッチングさせた。その結果、社長は「おからこんにゃく」に惚れ込み、両者は業務提携して、当センターも支援していくこととなった。

■支援前の課題となった5つのポイント


 「おからこんにゃく」は食感が肉に似ており、カルビ風、ハンバーグ風、鳥の唐揚げ風といった料理となる。また、納豆の10分の1のカロリーで、ゴボウ並みの高繊維をもっており、肉食を控えている生活習慣病の患者や健康志向の人々に注目されはじめていた。製品を全国的に広めたくてもノウハウがなく、この事業を進めてくれる企業を探していたところだった。
 この事業を推進するにあたって、以下の点が支援前の課題として挙げられた。
(1)「おからこんにゃく」の特許取得による権利を確実にすること。
(2)そのうえで、越後屋商店と岡田氏の業務提携を円滑に進めること。
(3)量産化のための技術を確立すること。
(4)販売方法及び経路を検討し、販売計画等を策定すること。
(5)包装デザイン等の開発をすること。


■事業提携の円滑化を図り量産化や販促活動も支援


 最初に、今後どのように事業を進めていくか、ヒアリングを行いながら検討に入った。発案者としては、この商品を全国に広めたいと考えており、その方策についても検討を行った。 事業提携を円滑に進めるため、通常実施権を取得し、平成13年10月から試作をはじめ、製品化をめざすことになった。
 このことは、青森県特許流通支援事業の第1号となった。
 同社は、量産化に向けて試行錯誤を繰り返したのち、平成14年3月に製造機械を購入し、平成14年4月から販売を開始した。
 商品の包装等のデザインについては、県の工業試験場(当時)の専門家の指導を受けるなどして、「越後雪花」という品名で販売を開始した(現在は、「津軽雪花」という品名に変更し、包装も一新)。
 しかし、スーパーマーケット等で実演販売するとお客様の反応はよかったが、「家に帰って実際に調理すると思うとおりにいかない」という声もあった。また、「商品名からはどんな商品なのかがわからない」などといった消費者からの意見もあった。それ以前に、まだ一部の地域でしか販売されていないため、商品そのものが知られていない。今後、この商品をどのように販売拡大していくかが大きな課題となってきた。
 そこで、県版の経営革新計画の申請支援を行い、平成14年12月に承認を受け、「青森県指導経営革新支援事業費補助金」の補助を得て、正確な調理法を提示するためのビデオ制作など、PR活動をはじめとする販路開拓事業を進めていった。
 また、平成15年2月に東京都で、県内企業と都内の企業とのマッチングを図るために開催した「あおもりビジネスマッチング」に出展させ、プレゼンテーションの機会を提供した。

■商品は徐々に市場へ浸透継続的支援で今後に期待する


今回のケースは当センターが仲介役となり、マッチングが図られ、事業化まで進んだものである。当センターとしても、その時々において、両者に対する継続的支援を実施してきた。
 現在も実演販売等をつづけられ、商品は徐々に市場へ浸透している。県内はもとより、料理講習会がきっかけで、東京の生協ともつながりができた。しかし、まだまだこれからの商品だといえる。
 この「おからこんにゃく」を使った加工食品(レトルト食品)の開発については、他の企業との業務提携がなされており、これについても、当センターが支援を行っている。
 今後とも当センターとしては、さらなる普及をめざして、継続的に支援していきたいと考えている。



研究開発をはじめ2年で開発に成功、新事業を立ち上げる

岩手県中小企業支援センター(財団法人 いわて産業振興センター)


 製品開発し事業化までこぎつけるには、零細で経営基盤の脆弱な当社にとって資金調達や販路開拓が大きな問題でした。宮古地域中小企業支援センター主催の「みやこ起業家大学」を受講したのがはじまりとなり、同センターの専門家派遣、創業・経営革新相談会制度を活用させていただき、課題解決のために今後の方向性を提示していただきました。
 また、当社の社内事情をよく理解しているコーディネーターの勧めで、適切な専門家を選定してもらい、県支援センターの専門家派遣事業を申し込みました。コーディネーターと県支援センター担当者との連携で短期間に派遣決定いただき、タイミングよく派遣してもらいました。
 専門家と事業計画の再検討を行い、実現可能な計画に組み直す指導を受けたことで、平成15年9月、岩手県から中小企業経営革新支援法に基づく経営革新計画の承認を受けたほか、金融機関の具体的な支援を受けることができ、新規事業を立ち上げることができました。



■自然食品ブームで着実に業績を拡大


 当社は、海の宝庫として知られる「三陸漁場に水揚げされた安全で安心できる魚介類を提供すること」をめざし、島香鮮魚店として昭和59年に島香尚社長が創業した。平成9年に丸友しまか有限会社に改組。平成12年11月には水産物の加工分野に本格的に進出することを契機として宮古市千徳に本社・工場を移転し、自然食品を中心とする宅配ビジネス業界や首都圏の自然食志向のスーパーマーケットを中心に販売ルートを確立した。これまで自然食品ブームや安全で安心できる食品へのニーズの高まりに支えられて着実に業績を上げ、平成15年3月期には1億6000万円の売上高を達成している。
 当社の主材料は魚介類であるが、社長は近年の漁業用の餌の不足、特に真イワシの不漁に強い関心を抱き、餌となる魚の漁獲高の減少は原材料の高騰だけでなく、近い将来、当社の事業基盤である魚介類の入手そのものを危うくさせると考えて対応策を模索していた。
 こうしたときに県外の公設試験研究機関が公開した「残さを利用した新製品の製造技術の開発」についての情報を入手したことが今回の新事業に取り組む契機となった。

■協力会社と連携し短期間に商品開発


 この技術はイカの内臓(通称「イカゴロ」)などを活用し、加熱処理をして人工餌を製造するという内容だが、民間企業では商品化の動きがないことが判明した。その背景には、製造過程において加熱処理を行うことから、蛋白質等の成分が変質し、イカゴロのもつニオイ等の本来の魚餌に必要な特性が失われることで、期待した漁果に結びつかなかったことが原因と考えられた。そこで当社は、販路開拓などで付き合いのあった九州の漁具製造販売業者で釣具関連製品の特許を多数もっているベンチャー企業とのあいだで平成14年から共同研究を開始した。
 製品開発にあたっては、大分大学微生物研究室、北里大学、海洋水産研究センター、宮古地域中小企業支援センター等の支援を受けて取り組み、まったく加熱せずに、かつ一定以上の硬さを有する人工餌に固化する技術を開発した。この製品を延縄船でキンメダイへの釣果をテストした結果、従来のイワシ以上の効果を得ることができた。

■自社生産を決意し専門家派遣を求める


 社長は当初事業化にあたり、生産を外注方式とし、製造委託企業の開拓に努めた。しかし、製造設備を保有している企業がないこと、原材料となる新鮮なイカゴロの安定供給にはイカの産地でなければならないなど立地条件の制約があり、また、製造価格や製品の保管体制など契約条件の調整が難しく、自社生産とすることを決断した。
 平成15年6月、自社生産への方針変更によって設備投資等のリスクを伴うことから、11月稼動に向けた事業計画の見直しと、新商品の開発、生産に関する経営革新支援法の承認申請のため、当センターの専門家派遣事業による支援を申し込んだ。その結果、9月には経営革新計画の承認を県から受けている。また、生産設備については小規模企業者等設備資金制度の優遇措置を受けて導入することとなった。

■新しい取り組みによる積極的な事業展開を評価


 丸友しまかでは、タラなど他の魚介類の餌をつくるための商品改良研究、三陸沿岸の漁協や一般釣具店などの釣り愛好者ルートで販路開拓など、新たな取り組みもスタートしている。当センターでは、当社が本格的な漁業用の餌分野への市場参入をめざし、積極的に事業展開をつづけている点を評価し、FS調査事業による支援対象企業として、現在、事業可能性評価のための市場調査等の支援を行っている。また、人工餌生産の新規事業の立ち上げに際して大きな課題であった人事制度及び経理システム等の整備を図るため、より強固な社内体制の下での事業推進を新たなテーマに掲げ、11月以降も継続して専門家派遣事業による支援を行っている。
 当社の新事業の立ち上げが実現したのは、有力な協力会社との共同開発、大学や研究機関との連携による技術支援等があったことが大きな要因であるが、何といっても社長自身の独自の発想力、支援制度を活用した経営面における各種課題への即応力なくしては、道のりは厳しいものとなっていた。いままた新規市場への製品開発が検討されており、今後、さらなる躍進が期待される企業である。








専門家の助言・指導により事業計画の見直しからよみがえった経営

秋田県中小企業支援センター(財団法人 あきた産業振興機構)



 男鹿戸賀湾を一望する小高い丘に立つ「帝水」。 約1年半の休業を経て、平成15年7月、装いも新たにリニューアルオープンした。「モダン和風」がコンセプトという当館の客室はすべてオーシャンビューで、大きく開かれた窓から沈みゆく夕日を眺めながら、日本海の旬の素材を味わうことができる。



■経営危機に見舞われ新築開業を決断する


35年の年月とともにホテル施設の老朽化が目立つようになってきた。と同時に、他の観光地においてはホテル・旅館設備の近代化やサービス面の向上が見受けられ、このままでは、ますます競争力を失うことが予想された。
 このことは全国に知れ渡っている当地、男鹿半島地区の観光産業をも脅かすことにもつながると、鈴木利一社長は危機感を抱いていた。
 開業以来、大幅な改修工事がなかったことから、施設の老朽化が激しく、建物、付帯設備の修繕費用が年々かさみ、比例して宿泊客の伸び悩みから売上の減少も余儀なくされていた。
 そのため、経営の見直しを模索検討しようとしていた矢先、突然、経営の危機に見舞われた。
 平成13年12月に男鹿地区を襲った暴風雪である。強風により建物被害が発生し、営業中止を余儀なくされ、施設の老朽化、宿泊客の伸び悩みに加え後継者問題等とも相まって、一時はこのまま廃業することも考えた。
 しかし、国民の休日が増加傾向にあるなかで、レジャー産業の充実が期待されている時代である。秋田県の代表的な観光ルートにもなっている知名度の高い男鹿半島から、他観光地に比べて極端に少ない温泉宿がさらに減少することは、観光地としてイメージを低下させることになる。
 このようなことから、新築開業を決断した。
 計画は、総事業費15億円を投じ、平成15年春の営業再開をめざすものだった。

計画新旅館規模
・鉄筋造 3階建て   ・客室総数 47室
・宿泊人員 216名   ・大広間 250名収容
・中小広間数カ所    ・多目的ホール1室
・レストラン 100席   ・コーヒーラウンジ40席
・カラオケクラブ50名収容 ・館外レストラン等
備える総床面積4795平方メートルの再建計画設計図ができあがった。



建設資金調達計画
・建物本体工事費     1,224百万円 
・既存解体・調査費       40百万円 
・設計・申請料          36百万円 
・運転資金           200百万円 
 営業必要資金      1,500百万円
(内借入額    1,440百万円)

 このように規模、資金面のほか、売上、収支、営業の具体策等再建計画ができあがったものの、資金調達に難航、進展しない状態になってしまい、当機構に対し、専門家の派遣要請となった。

■支援前の課題は適切な経営計画の立案


 平成15年の春オープンに向けて経営全般、施設、組織・人材、営業・販売、食事・調理、接客等について計画を立案したものの、銀行から計画を認めてもらえず、特に建築資金の借入依存度が高く融資の目途が立たないという課題を抱えてしまった。  当初の事業計画書は、過去の経営・営業実績の分析、地域の現状分析、また、今後の予測等綿密な分析結果をもとに作成したものだったが、いざ、検討を加えると、どこをどのように、どの程度変更したら適切なのか、判断に迷うことが多く、大きな壁にぶちあたっていた。

■専門家が指摘した6つの改善ポイント


専門家に指摘された問題点は次のとおりだった。
(1)基本的コンセプトが明確でない。
(2)投資規模が過大であり、投資後の資金回収や経営を考えると縮小案が妥当。
(3)設計プランニングが適切でない。
 旅館業としての商品価値・経営の効率性面等基本的な設計がまずい。
(4)最高責任者としての社長の存在感なく、責任の所在が不明確。
(5)要因計画にもムリ・ムラが感じられる。
(6)資金調達手法がはっきりしていない。
 以上の6項目から大幅な改善を要すると指摘、「適正な方策を模索し、有益な設備投資を実現させたい」というのが専門家の考えであり、この点が支援のポイントといえる。

■投資額を抑えた計画が認められ資金調達が可能になる


 専門家の指導・助言に従った結果、投資規模を縮小、全面新築を止めて、既存建物全体の40%を活用した。投資額は当初計画の約43%に縮減し、必要最小限に留めた。これが金融機関等に評価され、資金調達が可能となり着工することになった。平成15年7月にオープンしたあとは、以前に比べて客足も好調で、売上を含めて経営はおおむね順調に推移しており、今後に大きな期待ができる結果を示している。成功要因は、代表者の地域を思う気持ちと経営革新に取り組む姿勢が専門家による大胆な改善計画とベストマッチしたことによるものと考える。