全国の中小企業支援センター支援事例集1

 経営資源に余裕のないベンチャー企業にとって、公的支援制度は大変ありがたい。グリーンシート市場に株式公開するには一般に準備から半年程度の期間とそれなりの費用がかかる。当社の場合、専門家継続派遣制度を活用したため、審査が思った以上にスムーズに通り3カ月かからず、かつ、かかった費用も自社独自にやった場合に比べて数分の1で済んだ。
 当社は2年間の間に5人の専門家に来てもらいアドバイスを受けたが、専門家を依頼する際に支援センターにはいろいろ注文を出し、それをもとに適切な専門家を選定してもらったことが良かった。
■社長はスピンアウト起業家
独自開発のCRM(顧客情報管理)ソフト等が市場で好評を博し、中小企業・ベンチャー総合支援センターの専門家継続派遣制度の総合的な支援もあって最短の準備期間で今年1月にグリーンシート市場に株式公開したIT企業である。
 ※グリーンシート市場=未公開企業の株式を売買するための市場で、平成9年7月からスタートしたもの。
 創業者である江藤晃社長は、大学中退後、中堅オーディオメーカーで電子楽器の企画・海外業務に約10年従事したが、会社が経営危機に陥り、そのため1995年に退社し、資本金1000万円でエイジアを設立したいわゆるスピンアウトベンチャー起業家である。創業当初はマルチメディアを使った結婚式ビジネスを狙ったが、バブルがはじけ景気低迷に入った時期でもあり結婚式ビジネスも思うように収益があがらずに失敗した。その後、インターネット分野に進出してホームページ製作の請負から始め、2年目後半に事業として立ち上がり3期目から黒字化した。大手企業のソフト受託開発を主に行なっていたが、数年前から受託開発の中で得た経験・ノウハウをベースに営業・マーケッティング分野のソフト商品開発に注力してきた。電子商取引、顧客管理、携帯端末等のアプリケーションソフトを機能ごとのコンポーネントに分け、それらをJAVA、XML等のプログラミング言語で自由に編集出来る商品WEB CASを開発し、市場で好評を得ている。
■株式公開に向けた総合的な支援
 江藤社長は、創業当時から、株式公開を目標としてきたが、技術力強化に経営資源を優先的に投入してきたために株式公開に必要な社内体制が組めなかった。そのため、支援センターの専門家継続派遣を活用することで、その課題を打開すべく平成12年8月に支援を申込んできた。
 支援センターでは、まず、1年目に株式公開までのロードマップづくりと事業計画作成の支援で株式公開の専門家を派遣し、合わせて、少し時期をずらせて、自社開発のソフトの技術面での支援として他社出願特許調査やビジネスモデル特許取得等のために弁理士を派遣した。商品開発の目処がつき始めた2年目にはIT分野の営業・マーケッティング支援の専門家を派遣し、商品性のチェックや市場開拓の方法、営業活動の進め方など独自開発商品の販売立上げを支援し、また、販売代理店との契約等の問題解決のために弁護士も派遣した。さらに、株式公開に向けた最終支援として、社内諸管理規定の見直しのために社労士を派遣して仕上げとし、センターとしては2年間にわたり延べ5名の専門家継続派遣を行なってきた。
■短期間かつ少ない費用で株式公開を実現
 平成14年11月にグリーンシート市場に株式公開申請したが、既に支援センターの専門家派遣による支援によりしっかり準備が出来ていたため、審査を難なくパスして翌年1月には株式公開を果たした。申請からわずか3ヶ月未満で株式公開を実現し、江藤社長は「支援センターの支援のおかげで、極めて短い期間と少ない費用で株式公開が出来た。」と驚きの声をあげ、さらに「社員に約束してきた株式公開の第一歩を踏み出すことが出来、経営者として社員に対する公約を実現した。」と喜んでいる。
 当社が株式公開を短期間で実現出来たのは、社長以下社員が創業当初から株式公開を将来目標とした夢を抱き、業績低下により経営が苦しい時期があったにもかかわらず、公開の夢をあきらめずに、初志貫徹したことによる。
■経営が苦しい時期にも開発をあきらめなかったことが成長の秘訣
 同社が株式公開を果たすことが出来た最大の要因は成長のポテンシャルとして高く評価されている独自開発したコアのソフト商品があったためである。ソフト受注開発から自社開発品ビジネスに事業展開をめざすソフト会社は多いが、開発費用倒れや商品が市場ニーズにマッチせず売れないケースなど、成功する企業は必ずしも多くはない。エイジアも90年代後半ITバブルがはじけて、受注開発案件が減少、さらに受注単価の低下、納品したソフトのトラブル処理のための費用の持ち出しなどにより、経営業績が悪化し苦しい時期があった。しかし、それにもめげずに商品開発をあきらめずやり抜いて作り上げた商品が今になって成長の源として高く評価されている。独自商品によるビジネス展開が成長のためには不可欠であるとした経営判断が、適切な意思決定であったことを実証している。



■ 拡大を続ける中古住宅のリフォーム販売会社
中小企業・ベンチャー総合支援センター(中小企業基盤整備機構)
 当社は創業以来赤字を出したことがなく、業績も順調に推移してきた。しかし、今回の再生リフォーム事業への展開はまさに社運をかけたもので、従来事業はすべて整理して取り組みました。業種柄なかなか一般の金融機関にも理解され難く苦労したときもありましたが、このようなときに中小企業・ベンチャー総合支援センターの各方面からのアドバイスはまさに時宜を得たうえに的確なものでした。たいへん感謝しています。

■新しいビジネスモデルで経常利益が3期で12倍に
 群馬県桐生市にあるやすらぎは、厳しいデフレ不況にもかかわらず、中古住宅販売で急成長をつづけている。売上高をみると、3期前の26億円から今期の161億円へ約6倍も伸び、経常利益に至っては同1億2000万円から14億8000万円へと約12倍に成長した。
 同社のビジネスは、競売不動産を落札することからはじまる。低価格で購入した物件に再生リフォームを施し、生まれ変わった物件を顧客に直接販売する。すべての工程を自社が管理することで価格競争力を確保すると同時に、消費者の住宅ニーズに即した物件を提供して新たな市場を開拓した。社会的な視点でみると、不動産の流動化と有効活用という役割も担っている。同社の事業は本社所在地である群馬県を中心に拡大してきたが、現在はほぼ全国に拠点が広がり、株式公開も視野に入ってきた。
 やすらぎが扱う中古住宅は、中心価格帯が18百万円台。仕入れからリフォーム工事までを一括して管理・合理化することで、最終的な販売価格を従来物件に比べて3割程度安くできる。
 売れ行きも早い。アフターサービスと品質保証が厚いことも顧客に安心感を与えている。
 顧客に低価格を提供する一方で、経営的には商品回転率の速さ(早く売る)、工事の企画・積算業務の合理化(未経験者を即戦力化するためのマニュアル作成等)、営業費の抑制(広告は手作りのチラシ配布程度)などで原価を抑え、利益を確保している。再生リフォームに対しても、独自のノウハウをもち、地元の工務店と協力するシステムを構築している。手抜きのない再生工事を行なうことから、品質の面でも顧客からのクレームはほとんどみられない。
 人材の開発にも注力している。大手外資系銀行出身者をはじめ、各業種で研鑽を積んだベテランを中途採用でそろえ、朝7時から研修を行う。意識改革を促し、なお一層のスキルアップを求めるよう社員教育を徹底する。これが奏効し、比較的新しい人材が事業拡大を支える基盤の1つを担っている。
■資金調達に役立てるため出版物で信用力をアップ  中小企業・ベンチャー総合支援センターによる同社への専門家派遣は、平成12年11月にスターとした。それから約3年間にわたり、株式公開へ向けた社内体制の整備、証券会社、監査法人の選定のしかたなど、さまざまなテーマでアドバイスを行なってきた。この結果。平成16年2月にやすらぎは、名古屋セントレックス市場に株式上場を果たしている。
 この3年間の歩みはおよそ次の通りとなる。まず1年目は、事業基盤を拡大するための多店舗戦略について、その考え方や事業計画書を作成するためのアドバイスを行なった。2年目は、株式公開のための各種申請書類を作成するためのアドバイス。そして、3年目は経営計画・資本政策の拡充を中心とする内容となった。3年目では、公開会社にふさわしい体制づくりや、業績拡大に対応できる体制づくりも大きな課題であったため、内部の管理体制の整備と拡充にも積極的にアドバイスした。 この業種では、事業の拡大には資金調達が欠かせない。その観点からのアドバイスにも注力した。当初は大手金融機関の理解がなかなか得られなかったため、地方の金融機関を中心に、小額ロットの資金を集めるためのPR戦略を提案した。新聞社から書籍を出版するなど、信用力を上げるための具体的な方策を練った。須田社長がつくり上げた住宅再生リフォームビジネスが、これから住宅をもちたいと願う若い人たちにどれだけ役立つのか、須田社長の燃える思いを直接知ってもらうことが有効であると考えたためだ。「大手新聞社から書籍を出した」と 大手の都市銀行との融資枠の設定、プロジェクトファイナンス契約、シンジケートローンの組成などが次々と実現し、調達手段の幅は年々広がっている。
 やすらぎの成功は、須田社長の起業家精神と経営手腕なくしてあり得ない。その社長からこのような評価をいただけたことは幸いだ。今後も同社の経営力には大いに期待していきたい。





■ クリーンルーム内昇降搬送機器でシェア8割を獲得した研究開発企業
中小企業・ベンチャー総合支援センター(中小企業基盤整備機構)

 開発型企業である当社にとって資金調達は大きな問題の1つでしたが、中小企業・ベンチャー総合支援センター主催の「ビジネスプラン発表会」では直接金融におおきな風穴を開けてもらえました。また、地方には、支援を要請できるような専門家が少なく、特に株式公開等については専門の人材があまりいません。その点でも、中小企業・ベンチャー総合支援センターのアドバイザー制度を有効活用し、たいへん助かっているのが現状です。
■非接触搬送装置の開発で新事業を展開
 第一施設工業は、エレベーターの据付工事や小型昇降機の製造販売などで36年前に創業した。平成2年、国際物流機器展示会に独自開発の「超高速リフト」を出展したところ、多くの半導体メーカーから引き合いを得たのを機に、同社は「大手メーカーの下請企業」という地位を返上し、研究開発型企業へと変貌する。主力製品であるクリーンルーム対応「無塵搬送昇降機」は、平成3年に開発して以来、日本と東南アジアの半導体工場で使われる昇降装置の約8割のシェアを誇っている。
 地上波放送のデジタル化を機に、テレビ受像機の買え替え需要が期待されている。液晶やプラズマなどの技術を使った、薄くて大型の受像機の市場が飛躍的に伸びるといわれており、国内外の多くメーカーは一斉に大型ディスプレイ用の新しい製造ラインを建設しはじめている。同社では平成10年から、液晶やプラズマディスプレイなどに使う大型のガラスパネルを運ぶ「非接触搬送装置」の開発をスターとした。開発は平成15年に終了し、現在は半導体メーカーを中心に営業をはじめている。
 大型ディスプレイの製造ラインでは、2メートル四方の巨大なガラス板を傷つけずに運搬しなければならない。同社が開発した「非接触搬送装置」は、大きなガラス板を立てて扱い、圧搾空気を吹き付けてガイドから浮かせたまま運べる。この方法だとガラスが傷つかないうえ、運搬のためのスペースも小さくできる利点がある。すでに、大学の研究施設で実用化のための試験が行なわれているほか、海外の大手メーカーでは、現場のラインに組み込んだ実地試験をはじめている。本格的な稼動へ向けて、活発な商談が進んでいる。
■事業展開と株式公開へ向けた専門家派遣
 篠原統社長は、同社の株式公開に照準を合わせ、社内体制の強化や経営基盤の整備を図りたいと考えていた。そのため、中小企業・ベンチャー総合支援センター九州を訪れ、株式公開を視野に入れた経営力強化の支援を要請する。平成13年から専門家が同社を訪れ、「非接触搬送装置」事業の立ち上げに関し、事業計画の立案等のアドバイスを行なってきた。必要な資金を調達するために、平成15年に実施した当支援センター主催のビジネスプラン発表会で、約50社のベンチャーキャピタルへプレゼンテーションを行なった。その結果、10数社から直接投資の打診があった。非接触搬送装置の技術レベルの高さと事業化の可能性、さらにクリーンルーム内の無塵搬送昇降機の実績などが投資対象として高く評価された結果だ。
 株式公開の準備は着々と進んでいる。資本政策の見直し、ストックオプションの実施等について、専門家が同社を定期的に訪問して段階的に検討している。特に、ストックオプションは、そのスキームづくりや実施手順、申込書や契約書などの書類のチェック、実務的なアドバイスに至るまで、入念に行なわれている。その結果、役員や中堅社員向けにストックオプションを実施する目処が立ち、それによって、社員の会社に対するロイヤリティの向上、業績に対する関心の向上、といった効果が期待できる。同時に、それは社員の全員参加による株式公開へ向けた活動となるため、広報面での効果も大いに出てくるだろう。
■新事業の立ち上げに企業等OB人材派遣制度を活用
 非接触搬送装置の事業化のため、支援センターの支援ツールの1つである「企業等OB人材派遣」が平成15年秋からスタートしている。この制度は、企業や研究所に長年勤めた経験をもつOBが、その豊富な実務ノウハウを中小企業の経営のために活かせる制度だ。この制度により、実際に地元の大手電機メーカーで事業部長や工場長を経験したOBが、同社の非接触搬送装置を事業化するための具体的なプランづくりに参画している。
 このように、同社はすでに市場で高いシェアを獲得している無塵搬送昇降機につづく次世代の主力製品として、大型ガラスパネルの非接触搬送装置の開発に全力を投入してきた。同製品の事業化に当たり、資金調達やビジネスプランづくりの面で支援を行なっている。また、ストックオプション制度など、株式公開へ向けた具体的な準備の支援も進めてきている。こうした支援により、将来の目標である株式公開へ向けた道が開けると期待している。




■ 北の大地・札幌から多種多様な通信関連機器を送り出す
北海道中小企業支援センター(財団法人 北海道中小企業総合支援センター)



 未知の技術領域に挑戦し、確実に開発を成功し、製品化し、販売による成果を出すというごく当たり前のプロセスであっても、中小企業が独自の力で乗り越えるにはハードルは高いものです。私どもは、北海道中小企業総合支援センターに、資金的な支援だけでなく、IR活動も含めて後押しをしていただいております。
■「ニッチなマーケット」と「高度な技術」がキーワード
 ネイクスは、技術変革の早い情報関連及び計測機器の分野に開発の視点を置き、規模が小さく大手企業が参入しにくい市場、また、高度な技術が要求され同業の中小企業が参入できないような分野を探しながら、時代のニーズに応える製品開発を心がけている。
 当社の主な事業内容は次の2つである、
 (1)CTIソリューソン事業:コールセンター向け製品群であり、DP/PB変換装置がその主流となっている。一般の電話信号の大半はアナログ信号であり、そのなかでもダイヤル信号(DP)とプッシュ信号(PB)があるが、コールセンターではコンピュータが電話を自動受付するケースが大半で、ダイヤル信号にはサービス対応ができないのが現状である。そこで当社は、ダイヤル信号をプッシュ信号に変換する装置を開発・販売し、大規模コールセンターのほとんどで当社製品が活躍している。
 最近では、デジタル回線(ISDN−PRI)に対応する変換装置を国内で初めて開発。国内で唯一アナログ信号からデジタル信号まですべてに対応できる製品化を進めている。
 この他にも、コールセンター向け製品として、電光表示盤やコンピュータ用基準時計、回線端末監視切替装置、通話録音装置などを開発、製品化している。

 (2)データ通信ソリューション事業:高速通信モデムの開発、電力線搬送モデムの開発等得意技術であるデジタル信号処理技術によって新しい独創性の高い製品の開発に取り組んでいる。
■社是や企業理念に表れる技術に対する意識の高さ
当社の社是は「挑戦」であり、企業スローガンは「技で競う、次の一手」である。この言葉からも当社の技術に対する意識の高さが現れている。
 端一二社長は室蘭の高校卒業後、エンジニアリングやソフトウェア関係の企業で総務、営業畑を歩み、営業力は特に定評がある。
 当時勤務していたソフトウェア会社の事業縮小を機会に、技術者の現取締役を中心に当社設立に至ったもので、端社長の経営戦略に基づき、市場及び時代のニーズを見極めて部分的に特化した形で製品開発と営業展開を行ってきた。単なる流行ではなく、技術革新の早いIT化社会の要望に応えることにより成長を遂げている。
 また当社は経営理念である「品質こそわが社の命である」を表すものとして、ISO9001:2000、JISQ9001:2000の認証を同時に取得、モノをつくる喜びを決して忘れない会社として、新しい技術を積極的に取り入れる姿勢を貫きながら、ユーザーへより一層の満足と信頼を提供していく予定である。
■変換装置が高く評価され資金調達から支援を開始
 当社への最初の支援は、平成7年の増資新株の引受である。当時は会社設立1年半という時期にあり、開発・製造・販路開拓等の支出が先行して資金的にきつい時期であった。
 現在の主力製品となる変換装置が評価され、大手企業へのOEM供給がされはじめた時期でもあり、この生産資金の調達が必要だった。
 そこで端社長は当センター(当時は北海道中小企業振興基金協会)で独自に行っていた新株等引受事業の相談を申し込んだ。
 このときの当社の将来性を評価した出資をきっかけに、当社への支援をつづけることとなり、2年後には新たな基盤技術の研究となる多回線負荷試験機の開発にあたり、研究費の助成を行った。
 その後も当センターでは、株主という立場からの助言指導に留まらず、事業の進展に合わせ、展示会への出展助成やマーケティング調査への助成など必要な支援策を行った。また、創造的中小企業創出支援事業を含む投融資による資金的支援が、ベンチャーキャピタルをはじめとするその後の出資に有効な役割を果たし、近い将来の計画としている株式公開へ向けての基盤整備の一助となっていると考えている。
 当社のような高い技術力を背景に開発に特化したファブレス企業は、これからの中小企業のあり方の1つである。今後の活躍が大いに期待される企業であり、当センターとしては引きつづき支援していきたいと考えている。




■ 実践経営塾による支援で生産体制の確立と販路開拓を実現
宮城県中小企業支援センター(財団法人 みやぎ産業振興機構)
当社は、健康で幸せな人生を送るためのフロントヘルスケア商品の開発と販売をテーマに設立した小さなベンチャー企業です。
 宮城県中小企業支援センターのPMやBPの方々には、生産をどうするか、販路をどうするかと悩んでいるときに、適切な助言をいただき、たいへん感謝しています。

■木のぬくもりを生かした健康・福祉用具の開発 遠藤孝一社長は、「人にやさしい木のぬくもりを生かした新しい健康・福祉用具を開発し、高齢者をはじめとした人々のために役立ちたい」という思いから創業を決意した。
 具体的には平成13年3月、宮城県が設けたインキュベーション施設である「21世紀プラザ研究センター」に入居し、創業に向けての準備に取りかかった。同センターのインキュベーションマネージャーや宮城県産業技術総合センターの支援も受け、「足裏マッサージ下駄」「昇降椅子」(宮城県と共同特許出願。平成13年度「みやぎものづくり大賞奨励賞受賞」)、そして商品化第1号というべきハンドマッサージャー「にぎりまんねん」(実用新案出願)を開発。平成14年7月に有限会社を設立し、本格的に事業を開始することになった。
■生産拠点の確保と販路開拓に苦慮
 「にぎりまんねん」は、2つに分かれた握り部分を、螺旋状のバネと2本の円柱でつないだもので、片手で握り部分を握ると円柱状の突起が突き出て、手の平のツボを刺激するという至ってシンプルなもの。試作品1000個を製作し、その一部を高齢者や大学生などに使用してもらって意見を聞いた結果、需要は見込めると判断した。しかし、生産体制と販売チャネルという大きな課題が残っていた。
 当社は、いわゆるファブレス企業であり、安定的かつ低コストでの生産体制を確立し、並行して販路開拓を行う必要があった。遠藤社長は、「にぎりまんねん」の値ごろ感を考えると小売価格を1個1000円以下に抑えられるコストで生産可能な外注先を探すこと、また、販路としてホテル・旅館の売店をターゲットと考えた。
 量産化にあたっては、試作品の製造を依頼した業者等と交渉したが、条件が折り合わず断念。
 販路についてもホテル・旅館への営業や同施設の売店に土産品等を卸している商社ルートを開拓しようと努力したが芳しい成果をあげることができなかった。
 こうしたなか、宮城県中小企業支援センター(以下「当支援センター」)の存在を知り、相談に訪れたものである。

■契機となったのは「実践経営塾」への参加

 当初は、外注先と土産品等を取り扱っている業者を探してほしいとの要望であった。当支援センターでは、受注登録企業や木地業者等を紹介したが、コストや数量などの問題をクリアできなかった。販路についても業者名を調べて提供したほか、仙台市近郊の有名温泉旅館を紹介し成約したが、期待どおりの結果を得ることができなかった。
 このため、新たな解決策を考えようと、当支援センターが実施している「実践経営塾」への参加を勧めた。実践経営塾は、創業や新規事業展開を考えている中小企業等の「経営企画会議」と位置づけ、当支援センターのプロジェクトマネージャー(PM)を塾長に、2人のサブマネージャー(SM)や全国各地で活躍しているマーケティング・営業・ベンチャー育成・生産革新・新事業立ち上げ・財務等の経験者をビジネスプロデューサー(BP)として委嘱した外部専門家十数人で支援チームを組み、複眼的かつ総合的なサポートを行うために考え出したしくみである。
 遠藤社長は、平成13年9月に初めて「実践経営塾」に参加。PM等の支援チームに対して「にぎりまんねん」のほか「足つぼマッサージ器」などの商品化計画や経営課題を説明した。特に試作品ができていた「にぎりまんねん」について、核心を衝く助言をもとに次のような継続支援を実施している。
 まずは生産方法である。製造コストを考える場合は、当然のことながら小売値ではなく卸値が重要である。卸値は、小売値の「半値8掛け」とも比喩されるほど厳しいものがあり、国内生産での対応は難しいと判断。このため中国での生産を提案するとともに生産管理を得意にしているBPが中国での提携先を紹介した。この結果、国内での製造コストを大幅に下回り、卸値に見合うコストでの生産が可能になった。
 次いで販路についても、大手量販店等のバイヤーとコネクションをもつBPの紹介で、首都圏を中心に生活用品を販売しているT社と契約することができた。また、ホームページ作成に対する支援も行い、国内大手の旅行代理店の関連会社や生活用品販売のO社との取引を開始している。さらに別のBPが生活用品を取扱うR社の商品担当者を紹介し、平成15年12月開店した仙台店での取り扱いが決まった。仙台店での販売実績は予想を上回り、他店舗でも取り扱いたいとの打診もきているという。

■継続性をもちながら適切なサポートを実施

 創業支援は継続性をもち、そのときどきによって適切なサポートを実施することが重要と考えられる。 当社への支援状況を時系列的に振り返ると、まず「窓口相談」で外注先や商社に関する情報提供。次いで「実践経営塾」において事業計画を評価し可能性があるとの判断のもと、生産体制確立及び販路開拓を支援。
 広報手段としてホームページ立ち上げに対する「専門家派遣」。さらに付け加えると、会社設立に際して「窓口相談員」による経理処理方法のアドバイス。このように当支援センターの支援ツールを駆使し、適切に活用したことが効果的だったと思われる。





EM菌による浄化槽前処理装置の商品化設計・製造支援による創業支援
栃木県中小企業支援センター(財団法人 栃木県産業振興センター)
 当社は、EM菌を利用した「EM汚水浄化装置:マシコクリーン」と「EM堆肥化装置」の製造販売及び浄化槽・浄化装置のメンテナンスを業としています。河川や湖沼の生活排水が環境問題となっており、当社の装置を使用していただくことによって少しでも環境浄化に役立ちたいと考えています。
■地域の環境問題がきっかけで環境ベンチャーに取り組む

 レックEM益子の河原弘道社長は、陶芸家(益子焼)として陶芸を業としていた。地域の環境問題に関わることになり、行政に要求を出してばかりいては環境問題は解決しない、住民自らの問題であると気づいたことが創業の背景となっている。
 地域の勉強会で、琉球大学の比嘉照夫教授によって発明されたEM菌(Effective Micro−organisms:有用な微生物群)に出会い、益子町環境基本計画策定委員などを務めるなかで、生ゴミ処理や地域の河川の浄化に関わり、EM菌が、し尿処理や土壌の改良に使えないかと考えるようになった。
 近辺の川でEM菌を利用し、根気よく河川浄化を検討していくうちに、実際に河川がきれいになっていくのを自ら確認でき、これは使えると判断。独自に浄化槽前処理装置を考案し、試作と実験を重ね、浄化槽の臭いなどで困っている近辺の住宅数軒で実験を開始した。実験の結果が非常に良好だったことから、河原社長はこの装置をぜひ商品化したいと考え、栃木県中小企業支援センターを訪れた。
■事業の可能性は高いが新規創業として課題は山積
 相談を受けた支援センターでは、まずマネージャーが実験現場を訪問し、実験の結果を確認するとともに試作品を実際にみて、事業としての可能性について検討することになった。
 実験結果は良好だとわかったものの、商品として販売するには、試作品をさらに練り直す必要があると判断された。同時に、河原社長にとって工業製品のモノづくりは初めての経験であるから、商品設計及び製造方法についての課題もあると判断された。
 そのほかにも、販売で新規にルートを構築する必要があるなど、新規創業に伴う課題は山積していた。この写真が当時の試作品である。現在の商品写真(左上)に較べてみると、外観にもかなり違いがある。商品化にあたっては、再設計が必要であった。

■商品設計、法人化販路開拓からサポートを開始
 1:商品設計
商品の再設計では、専門家からのアドバイスが不可欠であると判断し、当センターでは専門家派遣の検討に入った。
センターのすすめにより、河原社長は「平成14年度栃木県ベンチャーモデル企業」に応募した結果、同社はモデル企業に指定された。これで専門家派遣を受けることができるようになり、専門家からアドバイスを受けながら商品設計、製造方法、製造価格の検討に入った。
 2:会社設立
この装置を製造・販売するためには、個人事業よりも法人化するほうがよいという判断の下、有限会社設立に向けてのアドバイスも行った。
 3:販路開拓
商品化ではネーミングが重要であることから、商品のネーミングをともに考え、最終的には地元益子町から名を借りて、「マシコクリーン」という商品名をつけた。
 まずは広く世の中に商品を知ってもらうために展示会への出展をすすめ、当センターの「起業化需要・販路開拓事業」を利用し、東京で開催される「エコプロダクツ2003」や「とちぎ産業フェア」にマシコクリーンを出展した。展示会での反響は高く、この製品を販売したいという希望もいくつか寄せられた。
 また当センターが実施する「市場展開支援事業」を利用し、豊富なビジネス経験をもつ支援団体から、販路開拓について支援を受けるという話も現在進行中である。
■実験結果からみた事業性のたしかさとタイミングのよい支援が奏功

 当初の試作品は商品として練れていなかったものの、それでも試験結果が極めて良好で、技術的に筋のよいものであったということは大きい。また、専門家派遣による商品設計、会社設立、展示会出展など栃木県中小企業支援センターの支援がタイミングよく実施されたことも成功の大きな要因になっている。
 今後はマシコクリーンの販売拡大をめざし、新たな支援活動を展開していく方針である。



スピードを旨としたIT関連事業の立ち上げ
東京都中小企業支援センター (財団法人 東京都中小企業振興公社)
 人生で決定的に重要な岐路である「転職」。情報化が進む世の中にも関わらず、転職に関する情報を効率よく集めることはまだ容易ではありません。
 「《多数の情報源》にアクセスしなければ、充分な量の情報を得ることができず不便だ」
 私たちは、このような声をたくさん耳にしてきました。「JobDirect」は、転職に関する情報不足を解消するための1つの試みです。皆様の転職活動を少しでもサポートできるよう、企業がインターネット上で発信している求人情報を一括で検索できるようにしました。まだ、インターネット上の求人情報すべてを網羅しているとはいえませんが、今後の努力により、少しでも多くの情報を提供できるようにしたいと考えております。
■"求人情報専門の検索エンジン"で注目されるネットベンチャー
 ジョブダイレクトは、平成15年5月に当公社のインキュベータオフィス「ベンチャーSUMIDA」に入居、同年7月に法人化を果たし、7月下旬にはシステムの運営を開始した。
 東京都の空き庁舎利用型インキュベータオフィスは、「ベンチャーSUMIDA」「ベンチャーKANDA」「ベンチャーHACHIOJI」の3カ所で合計63室あり、賃料無料で原則2年間の入居期間となっている。  ベンチャーSUMIDAへの入居審査時、審査員である当公社サブ・マネージャーが、同社の事業の有望性に注目し、事業可能性評価委員会でのプレゼンを勧め、ビジネスプランの作成支援に取り組んだ。 ジョブダイレクトの事業内容は、インターネットのホームページ上で、各企業や機関が発信している多種多様な求人情報を、独自に開発した日本語解析機能をもつ検索エンジンによって自動的に検知・収集・分類し、求職者に統一フォーマットとして無償で提供するというものである。検索性と閲覧性に優れたエンジンとなっている。 同社の課金システムは、ポータルサイトのトップページ等の有利な場所に掲示を望む企業に対する有料サービス 収入と、登録企業からの広告料収入とを得るというものである。
 求人情報を提供するWebサイトは数百を超えるが、民間の最大手でも求人情報は3000件程度にすぎず、雇用のマッチング機能としては極めて不十分な状況といえる。
 ジョブダイレクトの「求人情報検索エンジン」は"求人情報専門の検索エンジン"というまったく新しいビジネスモデルによる、日本で唯一のポジションをめざしている。
 7月下旬に運用を開始し、8月6日には正規に事業開始(サイトアップ)の運びとなったが、これに合わせて日本経済新聞に紹介記事が掲載された(平成15年8月6日朝刊)。
 現在では約1万5000件・4000社の求人情報件数を有し、アクセス件数は1日1万件を超えている。また、広告掲載企業も順調に拡大している。このように8月の事業開始以降、極めて短期間に1万件の大台を超え、事業基盤が確立されている。検索エンジンの優秀性に加えてビジネスモデルとしての新規性・優秀性が市場で評価されたものといえる。
■1日も早く事業を立ち上げビジネスチャンスを逃さない
まず、ビジネスプランの作成にあたっては、
(1)資金計画について公的融資制度を利用すること、(2)課金システムをより魅力的なものにすること、(3)ユーザー(求人企業及び求職者)に認知してもらうことなどの方法についてともに検討した。同時に、事業の特性から転職・中途採用市場が活発化している"いま"を逃がさないように、1日も早く事業を立ち上げるべく方策を検討した。
 その結果、平成15年4月1日に事業可能性評価事業に申し込みを行い、早くも4月24日の事業可能性評価委員会において、「求人情報検索エンジンの運営」事業のビジネスプランをプレゼンし、「事業の可能性あり」という評価を得ている。
 その後はこの成果をふまえて、4月に(財)東京都信用保証協会の保証付き創業支援融資を受け、7月には株式会社として法人化を遂げた。この間、(1)サイト運営に関する法的問題の整理・検討、(2)ビジネス特許を含めた特許戦略の策定、(3)必要となる従業員の確保、(4)早期の事業立ち上げのための新たな資金確保策の検討、(5)実績の推移に合わせた柔軟な事業計画の修正等について引きつづき支援を実施している。
■大きな意義をもつ情報産業への支援 経済産業省の「特定サービス産業実態調査報告書」によると、東京の情報サービス産業の年間売上高は急速に増加しており、平成13年には前年より35.7%も増加して7兆8376億円となっている。この結果、東京の情報サービス産業の年間売上高は、全国の57.2%を占めるほどとなり、金額とシェアの両者において極めて重要な産業となっている。また、世界的な産業構造の変化等を背景として、わが国全体の産業競争力を高めるためにも情報サービス産業の強化が不可欠の課題となっている。
 先端的な動向が顕在化しやすいという特徴をもつ東京の産業ではこうした動きが顕著となっており、当公社の事業可能性評価事業の申請件数でも情報サービス分野が3割近く(29.0%)を占める状況となっている。 また、東京の入職率と離職率の推移をみるとやや上昇傾向となっており、特に転職による入職率は一貫して上昇して、労働移動の活発化が示されている。こうしたなかで、転職市場における「求人情報検索エンジンの運営」は、雇用ミスマッチの解消に加えて中小企業に対する高度な人材の円滑な提供による産業競争力の強化にも役立つものといえる。
 このようにジョブダイレクトは、社会的ニーズに自社のシーズを適合させることに成功し、情報産業に不可欠であるスピーディーな事業立ち上げに成功し、現在、Web上の求人情報市場を席巻している。





循環型社会形成をめざして「パスコン」が貢献
愛知県中小企業支援センター(財団法人 愛知県中小企業振興公社)
 ベンチャー企業にとって、社会的な信頼や認知を得ることは簡単にはできません。中小企業支援センターの事業可能性評価において、支援をいただいた結果「A」ランクを受け、その後の支援でも融資交渉、販売先への営業交渉に弾みがつきました。今後さらに基盤強化のための支援、応用開発のための技術支援などにも期待するものです。
■明確な経営理念の下リサイクル製品を開発 「21世紀の環境型社会形成に基づくクリーンな環境と社会を、次世代に誇りを持って残せる商品を創造開発することこそ、我々の使命である」という経営理念の下、廃棄物として処分されている廃プラスチックスとフライアッシュを、有効的な資源として利用できる製品を開発、「パスコン」として商品化に成功した。「パスコン」製品は、従来のコンクリート2次製品とプラスチック成型品の中間に位置するもので、軽量化、耐久性、経済性にも優れた商品として、トラフに利用されている。
■韓国企業との共同開発で困難な再生加工製品を実現

 韓国トッコ社との共同開発技術により、リサイクル製品の開発をはじめている。再利用製品化が困難な、一般廃棄物である容器包装プラスチックの再生加工製品に着目し、さらにフライアッシュの混合を可能にした世界でも類をみない製品を誕生させることに成功した。この製品が日本国内規格適合となり、循環型社会形成(図参照)に貢献することを目標としていた。
 平成14年10月より国内第1号プラントを奈良県下に導入し、成型を行った。つづいて埼玉県にも設置し、製造を開始した。
■販売ルートの開発と製品の知名度アップが課題に

課題は、「パスコン」の販売を確立しながら、高価なプラント販売をいかに有利に展開するかにあり、そのためには国内販売ルート開発と製品のブランド知名度を高める必要があるかが課題であった。
 製品化への自信はあったものの、ベンチャー企業の共通した悩みである、知名度、信頼度をいかなる方法で得るかを模索していたところ、中小企業支援センターのホームページにおいて事業可能性評価のためのビジネスプランを公募していることを知り、平成14年に応募した。
■ビジネスプラン作成では新規性と独自性を打ち出す

 応募したプランは、当支援センターのプロジェクトマネージャーらにより、ビジネスプランの作成方法などについて、「新規性」「市場性」及び「雇用創出」をキーワードとして、技術の先端性、ノウハウの独自性を打ち出すという観点から支援を進めた。特に、韓国のトッコ社の開発商品であることから、独自性の違いを明確にすることなどのアドバイスを行った。
 新たにつくられたビジネスプランは、14年度の事業可能性評価委員会で発表され、審査の結果、高評価の「A」を受けた。
 その後の支援としては、新聞等へのメディア紹介支援、販売計画支援、各種展示会参加支援、当支援センター主催の有望ビジネスマッチング交流支援等の支援活動を通じて知名度、信用力の向上に努めた。
■支援の全体的な流れと10倍近い売上向上という成果「パスコン」の製品ブランド力を高めるため、平成15年度5月には、エコマークの認定を受け、平成16年には、国土交通省の新技術情報提供システム認定を「ケーブルトラフ」で取得した。
 また、平成15年5月に東京ビックサイトで開催された「2003New環境展」への参加、中小企業支援センター開催の「有望ビジネスマッチング交流会」への参加でも好評を得た。
 さらに、中小企業支援センターの紹介で中部経済新聞の新企画「ベンチャー企業列伝 成長への序章」に掲載(平成15年6月12日付)された。
 事業可能性評価委員会においては、「A」評価を受けることにより、愛知県経済環境適応資金の融資対象となるとともに、有望ビジネスマッチング交流会への参加等により、複数の大手企業からの引き合いや、投資育成会社、ベンチャーキャピタルなどからの直接金融、ビジネスパートナーからのアプローチがあった。
 その結果、売上高としては、平成15年9月期には前年比の10倍弱の7億3000万円を計上することができた。
■商品の優位性を活かし継続的支援を進める

 このように,ベンチャー企業として、成長が予測される新分野の「環境」というテーマに取り組んできた。周到な市場調査や資金面での問題からファブレス企業をめざし、良質な「パスコン」製品を製造するための資源(原材料)の手配、加工、販売までのルートづくりを構築した田口代表取締役の経営手腕はすばらしいものがある。この点が、これまで順調にビジネスが推移してきたポイントと思われる。
 これから先、起業家から事業家へと、規模を拡大していくうえでの課題は山積している。経営基盤の強化、高価なプラント設備のコストダウンをするための検討、「パスコン」の多分野への応用と用途開発、技術開発のための資金調達など、解決すべき課題はたくさん残されている。
 同商品がもつ他社にはない優位性(廃棄物を資源とし、軽量かつ耐寒冷性が高いこと)から、光通信ケーブル埋設管への利用、建築・土木材への利用といった幅広い商品に活かされる可能性は高く、当支援センターとしても今後成長していく過程で継続的支援を進めていきたいと考えている。さしあたっては、経営基盤強化のための専門家派遣事業による経営専門家の支援、他分野への応用開発研究のための、大学・研究機関との連携支援等が挙げられる。



フランチャイズの支援なしに独自で構築したマンガ&インターネットカフェ
岐阜県中小企業支援センター(財団法人 岐阜県産業経済振興センター)


 長く以前から、定年退職後の残りの人生は、自らビジネスを手がけてみたいと考えていました。そこでマンガ喫茶に興味をもち、自分で調べて研究し、本当に経営したいという思いが強くなりました。それが実現できたのも、当センターの専門家はじめ、多くの人々の協力によるものと深く感謝をしております。
■起業家育成セミナーで探し求めていた専門家に出会う

 商工会議所が主催した起業家育成セミナーに参加され、そこで当センターの専門家が講師を務めた講義に、「ある確信めいた閃き」を感じたという。
 高橋氏は前々から、マンガ&インターネットカフェを構築する場合に店舗のレイアウト、インターネット、コンピュータ、経営等の専門知識が多岐にわたるため、それを総合的にサポートしてくれる専門家を探していた。セミナーでは、ITコーディネータと一級建築士の資格をもち、自ら会社を経営する岐阜県中小企業支援センターの専門家と出会えたのである。「これで、なんとかなる」と思い、この専門家に相談して、県の専門家派遣制度を知り、7月に申し込んだ。また、その事業で指導の最中(経営戦略におけるビジョン策定が終了したとき)に急遽、具体的に運営を行う店舗がみつかり、2カ月という短期間で実際の構築作業を行って10月1日にオープンした。

■構想段階で見出した数々の問題点
自らマンガ喫茶を経営しようと脱サラしたあと2年間、独自の調査や研究を進めていた。その結果、マンガ喫茶だけでは今後の競争に勝てないと考え、インターネットカフェとして複合喫茶にしなければならないという結論を導き出した。そこで、マンガ喫茶のフランチャイザーやコーヒー及び食材納品業者との協議を重ねた結果、下記の問題点が判明した。
  1. フランチャイズ契約は、立ち上げについてノウハウの提供があって安易であるが、ノウハウ提供料やロイヤリティ等の費用がかかり、費用対効果を考えた場合にメリットがあまりない。
  2. マンガ&インターネットカフェは歴史が浅く、ノウハウと呼べるほどのシステムが確立されていないことがわかった。
  3. フランチャイズ契約には縛りが多く、食事のメニューや仕入れ先、他の関連業者を選択することに対して、各フランチャイザーから制限を加えられることがある。
  4. まだ具体的に事業を行う店舗が決定していないため、条件の想定が不可能で、具体的な計画を練ることができない。
■経営ビジョンを明文化し"思い"を形にしていく


 支援を開始する時点では、具体的な資料や経営計画書といった明文化されたものはなかった。そこで、専門家がヒヤリングしてビジョンの明文化を行い、整理することからはじめた。
 それに伴い、高橋氏のイメージに近いマンガ&インターネットカフェを3店舗ほど選び、専門家と同行して見てまわり、具体的な説明を受けた。 それにより、ビジョンの策定及び基本コンセンプトが明確になった。
 高橋氏がこのビジネスで実現したいと考える"思い"は、主に次のようなものである。
◎顧客のニーズを満足させ、飽きられない店舗をつくり生き残ること。他店との差別化を図る。
(具体策)

  1. レトルト食品ではなく、コックが調理した食事を提供する。
  2. 豊富なコンテンツの供給。
    (1)オンラインゲームタイトル数3以上
    (2)コミック最低1万5000冊
  3. 個室を全席の2割以上にする。
  4. 顧客ニーズに応じて店舗内レイアウトを変更できる設計にする。

 上記の具体策のなかで、支援に力点を置いたのは、第一に2.—(1)に関連したコンピュータシステムの設計である。
 将来の拡張性を想定した汎用性の高いネットワークの構築を考慮に入れ、一般に利用できる汎用LANと、外部からの侵入やゲーム端末から書き込みができないセキュリティLANとに物理的に分割した。汎用LANは、将来的にセキュリティLANに組み込めるように2重化した配線を行った。これが、安定したサービスの供給につながった。また、コンピュータやネットワークに対してほとんど知識のないスタッフでも運営できる可用性をもち、セキュリティとメンテナンス性を保持できるハードウエアとソフトウエアとしてXCフレームを採用した。システムとしてネットカフェで運営するときには、スタッフにパソコンのスキルを要求しなくてよいのが最大の利点である。これが、省力化につながった。
 また、3.と4.については、専門家のもつ一級建築士の知識で、動線を整理し、お客様の使い勝手とサービスの提供しやすさを実現できる平面計画が作成できた。これも重要な成功要因である。

■二人三脚で計画を実行し短期間で店舗をオープン
 実際の運営店舗は8月半ばに内定した。その時点では、8月末日まで店舗が営業中であり、9月1日からしか工事がはじめられないことがわかっていた。コンセプトを基に設計のレイアウト(平面計画、ネットワーク構成、システム設計、導入するオンラインゲームの決定)を8月末までに詰め、その後、専門家が主となり、前記作業の取りまとめを行うとともに、高橋氏とコーヒー納入業者が食材や本の仕入れ、人材募集などを行うという二人三脚で構築していった。これも事前にコンセプトや設計で戦略が練られていたことが功を奏した結果になった。
 最も重要であったことは、実際に投資できる金額が決定されており、その資金がいつでも使える状況であったことである。そんな環境を自ら切り開いた高橋氏の行動力と決断力が、この店舗をこんな短期間かつ順調にオープンさせる最大の成功要因だったといえる。




「アルコール体質判定パッチ」の販路開拓などを支援
富山県中小企業支援センター(財団法人 富山県新世紀産業機構)


 当社は研究開発型企業であり、製品開発に専念していた当社の事情をよく理解してもらえました。経営を進めていく段階ごとに、時宜を得た適切なアドバイスと各種支援事業などの紹介をいただき、たいへん感謝しています。
■世の中にない製品をつくり"医薬品のソニー"をめざす


 社長は、製薬メーカーに29年勤務したあと、平成9年に独立し、設立以来、一貫してヘルスケア関連の新しい医療用具等の研究開発・製造に取り組んできた。
 当社は典型的な研究開発型の企業で、世の中にないものをつくり出すことを目標に事業を展開してきた横井社長は薬学博士である。冷却シートの製造方法をはじめ、米国特許を含めると14件もの特許を保有する。
 平成10年、今後の新製品開発の基本をなす頭部用冷却シートの特許を出願。これらの研究から透明な含水ゲルにエチルアルコールのアレルゲンを溶解分解させ、貼付したまま簡単に飲酒の可能量の判定ができる「アルコール体質判定パッチ」ができることがわかり、製品化するに至った。
 「アルコール体質判定パッチ」は絆創膏程度の大きさで、中央部にアルコールのアレルゲンを溶解分解させた含水ゲル薬剤を固定したもので、腕などに20分程度貼ると酒類に強い人は皮膚の色がほとんど変わらず、弱い人は赤くなるものである。
 このパッチは自己の飲酒可能量、特に体内のアルコール分解酵素量を把握することにより、飲酒の可否や限度を知り、飲酒による種種の事故防止や健康管理に役立てることができる。
 当社は、これまで生産および販売はメーカーに委託し、当社は製品開発に専念してきた。しかしながら他社に製造販売を委託する方式では、特許をもっているにもかかわらず、マーケットにおける価格競争の影響をまともに受け、収益性が悪化し、経営体質が弱体化するところとなった。
 今後は自社内で製造することで収益力を向上させ、経営基盤の強化を図ることとした。そこで今回の新製品については、自社で製造販売することを決意し、本製品を自社で製造するための設備導入から販売までの計画を進めていたものである。

■事業計画から資金調達まで多方面からのアドバイスを実施


 新製品の製造設備の導入には多額の設備投資が必要なため、その資金調達や今後の進め方について当センターへ支援を求めていた。
 当社は資金面を中心に経営体力が不足していたことから、「創造的事業活動促進法」の認定を取得し、信用力のアップと各種の助成策を受けることで体力不足をカバーし、この大事業に踏み出していくことを企図した。しかしながら、創造法認定について社内では推進できないため、外部からの支援を検討していた。
 承認申請書は所定の様式があり、それに記入して申請窓口に持ち込めばよいが、当社ではこれまでビジネスプランを作成したことがないことから、社長を中心としてやってきた開発やマーケティング活動を整理し、ドキュメントにすることからはじめた。また、今後の経営計画や資金計画も、その数値の妥当性を検証する必要があった。そこで当支援センターではビジネスプランを内容とした申請書類の作成からプレゼンに関するアドバイスなど協力体制をとり、平成14年8月、創造法の認定を取得することができた。
 その後、平成14年11月には、創造法の認定が前提となる創造的中小企業創出支援事業の対象企業に選定され、県新世紀産業機構の保証つきで新株予約付き社債を発行し、ベンチャーキャピタルに引き受けを依頼して、設備資金にあてることができた。
 この際、ユニークな新製品を生み出す開発力を持つ当社が、成長企業となる高い潜在力をもつ企業として、創造的中小企業創出支援事業に選定されるようビジネスプランについても詳細に検討し助言した。
 また販売についても、それまで製造と販売を他社に委ね、研究開発だけを行ってきた企業であったために販売力がなかった。そこで平成14年11月、当支援センターが呼びかけ、商品化・事業化支援交流会の場でほぼ完成に近づいたアルコール用テストピースの紹介と販路開拓のプレゼンテーションを行った。
 さらに市場の反応を窺うために、平成15年10月に中小企業テクノフェア(東京会場)、同年11月ビジネスフェアイン名古屋に出展し、市場投入への自信を深めた。いずれも当支援センターが小間無料の展示会を紹介し、小間への展示方法や装飾についてきめ細かい助言を行った。

■特許の連鎖から次の新製品へ展開する


 今回の支援により設備導入を図り、生産体制を確立して販売も目途がついてきた現段階で、第2弾として現在まで培った開発力を基本とした「皮膚水分インジケーター」を開発し、商品化することとなった。この製品も絆創膏程度の大きさで、中央部に無機系の薬剤を固定したものである。皮膚に貼ると皮膚から蒸発する水分がフィルムに吸着し、薬剤と結合する。水分量が増加すると、薬剤と水分の化合物が青色から赤色へと変化し、赤色が濃くなればなるほど皮膚が乾燥していることを示し、逆に青色が濃いほど水分蒸発量が少ないことを示す。皮膚の特性に適した保湿剤や化粧品を選ぶのに役立つとみられる。さらに近い将来、花粉アレルギーや金属アレルギーなどの簡易検査が可能となる商品を出していくことをめざしている。
 セルフメディケーションの必要が問われるようになってから久しく、国民医療費の増大、健康への関心の深まりから自己チェックへの潜在的ニーズは高いと思われ、当社の商品の開発が待たれるところである。