人材派遣会社


派遣対象業務の原則自由化など規制緩和が進み、人材紹介会社、求人情報誌発行会社など、人材関連ビジネスの企業が本格的に参入している。


従来は対象業務の規制によりサービスが限定されており、運営にも独自性が少なかったが、サービスの特徴が必須となっている。とくに中小業者では一部のサービスに特化することが望まれる。


派遣事業が成熟時代を迎えるなかで、自社の特徴を打ち出せる経営方針が必要になっている。


1. 起業にあたって必要な手続き

人材派遣業には、登録したスタッフを派遣依頼時に雇用して派遣する一般労働者派遣事業と、常時雇用しているスタッフを派遣する特定労働者派遣事業がある。前者は労働者保護の観点から参入には厳しい審査が行なわれており、厚生労働大臣の許可が必要である。後者は、コンピュータソフトの開発、機械設計業務などでみられ、開業するには厚生労働大臣への届出が必要である。


1)一般労働者派遣事業を行なうための要件と手続き

  認可を得るためには、公共職業安定所(ハローワーク)に相談のうえ、書類を提出する。一定の欠格事由に該当しないことのほか、次の許可要件を満たす必要がある。


(a) 当該事業がもっぱら労働者派遣の役務を特定の者に提供することを目的として行なわれるものでないこと
(b) 申請者が当該事業の派遣労働者に係る雇用管理を適正に行なうに足りる能力を有するものであること
(c) 個人情報を適正に管理し、派遣労働者などの秘密を守るために必要な措置が講じられていること
(d) 申請者が当該事業を的確に遂行するに足りる能力を有すること(財産的基礎に関する判断、組織的基礎に関する判断、事業所に関する判断、適正な事業運営に関する判断)


  民営職業紹介事業を兼業する場合、あるいは海外派遣を予定する場合についても、許可を受けるためにそれぞれ所定の要件がある。

一般労働者派遣事業許可申請書、事業計画書のほか、所定の書類を提出しなければならない(許可申請書や説明書は公共職業安定所に用意されている)。


2)特定労働者派遣事業を行なうための要件と手続き


  一般労働者派遣事業許可の場合と同様に、事業主が欠格事由にあたるときは事業を行なうことはできない。その他の要件としては、前述した一般労働者派遣事業で定められている要件のうち、(a)、(b)の一部、(c)は特定労働者派遣事業においても満たす必要があるとされている。

特定労働者派遣事業届出書、事業計画書のほか、管轄公共職業安定所を通じて所定の書類を厚生労働大臣に提出しなければならない。


2. 起業にあたっての留意点・準備

●個人情報の保護

  派遣会社は、派遣労働者の個人情報を保有することから、その取り扱いには十分に気をつけなければならない。個人情報は、業務の目的の範囲内でのみ使わなければならず、その個人情報を使ってダイレクトメール(DM)を送付する、他社に不用意に個人情報を漏らす、などの行為は禁じられている。


●差別の禁止

  「男女の雇用機会均等」を推進する目的から、原則的には、派遣会社にスタッフの派遣を依頼する際、年齢や性別を特定することはできない。年齢・性別・既婚未婚などによって派遣スタッフの採用を決めるなどの行為は労働者派遣法に違反する可能性がある。

従来、派遣会社同士の競合が激しい場合、派遣先企業が複数の派遣会社の派遣労働者を事前面接するなどということがよく行なわれていたが、原則としてこの行為も禁止される(行きすぎた違反行為の場合には社名が公表されるなどの措置がとられる)。


●派遣対象業務

  派遣対象業務は原則自由化されているが、例外として、以下のような適用除外業務がある。


  <労働者派遣事業の適用除外業務>
 
・港湾運送業務
・警備業務
弁護士、外国法事務弁護士、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、弁理士、社会保険労務士、行政書士の業務
・物の製造業務
・建設業務
・医療関係の業務
建築士事務所の管理建築士の業務・人事労務管理関係のうち、労使協議の際に使用者側の直接当事者として行なう業務


3. 必要資金例

  20坪の事務所を開設する際の必要資金例

 
(単位:千円)
項目 初期投資額
事務所取得費 保証金(賃借料の10カ月分) 5,000
不動産紹介料(同1カ月分) 500
小計 5,500
設備・備品費 オフィス家具、OA機器、備品 1,500
販促物(パンフレット、名刺など) 700
帳票類、消耗品 300
小計 2,500
開業費 事務所賃借料(初月分) 500
社員募集費 500
その他 1,000
小計 2,000
総計 10,000
※法人登記に関わる費用などは含まない


基本的に大型の設備投資の必要はなく、派遣スタッフをマネジメントできるオフィスがあれば開業できる。


ただし、本社の場所は、単に費用だけではなく、登録スタッフの確保に有利な人が集まる場所(駅の近くなど)、効率よく営業できる立地(オフィス街)を考慮する必要がある。また、顧客開拓に必要な販売促進用に多くの費用を充てなければならない。


4. 売上計画例

1)売上見込みの見積もり例

 
稼働スタッフ数 10名 30名 50名
延べ派遣時間/月(時間) 1,500 4,500 7,500
派遣単価(円/h) 2,000 2,000 2,000
月間売上高(千円) 3,000 9,000 15,000


2)月間損益例

 
稼働スタッフ数 10名 30名 50名
売上高 3,000 9,000 7,500
売上総利益(売上高の25%) 750 2,250 2,000
諸経費計 3,700 3,700 3,700
 人件費(社員5名) 1,800 1,800 1,800
 事務所賃借料 700 700 700
 通信費 250 250 250
 交通費 100 100 100
 派遣スタッフ募集費 500 500 500
 その他 350 350 350
営業利益 -2,950 -1,450 50


派遣単価の見積りは各社のノウハウのひとつになる。固定費には、スタッフの社会保険や福利厚生費用、事業所税なども考慮しなければならない。また、登録スタッフの募集コストが大きくなる傾向にあることや、スタッフ賃金の前払いが発生することにも留意する必要がある。


損益分岐点売上高(上記の例では50名のフル稼働)を一定の期間で達成するための売上計画が必要である。スタッフの問題などによるトラブルの防止策や、発生した際の対応によっても売上計画が大きく左右される。