DTP業(デザイン業)

DTP(デスクトップ・パブリッシングとは、編集や画像処理作業などのプリプレス(印刷前)工程をパソコン上で行ない、印刷やインターネットでのデータ送付を可能にした出版様式をいう。具体的な職種としては、デザインや編集作業の実務をこなすデザイン業や、DTPオペレーター業が該当する。広義では、印刷物の企画・デザインから印刷物の納入まで行なう印刷業も含む。


コンピュータや編集・グラフィックソフトの高機能化や低価格化を背景に、デザイン専門校でDTPを習得したオペレーターやデザイナーが数多く生まれている。また、開業にあたり、役所への届出が必要なく設備投資が少額で済み、自己の能力を基盤に、自宅を仕事場に1人で起業することもできる特徴を持つ業種である。


1. 起業にあたって必要な手続き

  DTP業を起業するにあたって、とくに必要となる行政手続きや法規制はない。


2. 起業にあたっての留意点・準備

1)業態

  DTP業の業態は、デザイン業、DTPオペレーター業、印刷業の3つに大きく分けられる。

 ・デザイン業
  クライアントのニーズに沿って、画像処理ソフトによるデザインや画像処理を手掛ける。企画提案力、デザインセンス、CG(コンピュータグラフィック)などの技能習熟度が収益性を左右する。

 ・DTPオペレーター業
  出版社のラフ原稿を元に、文字データ、画像データを差し込んでレイアウトを作りこむ。収入は1頁あたりの単価を積み上げる従量制であるため、1人で稼ぐ収入には上限がある。業務経験とオペレーターが有する技術によって単価が決まる。

 ・印刷業
  企画、デザイン、編集から印刷物の納品までを一貫して行なう印刷業の業態である。通常の印刷業は、自社で印刷設備を保有する製造業を指すが、ここでは、製版や印刷工程を外注することによって、印刷物を生産・納入する業態を指す。企画提案力、営業力、コスト管理力が収益性を左右する。

2)必要設備
  パソコンは、従来は「Macintosh」で十分であったが、一般企業がクライアントの場合、「Windows」データでの入稿が増えており、MacintoshとWindows両方のパソコンを用意する必要が出てきた。アプリケーションソフトとしては、「Quark Express」に代表される文字編集ソフト、画像やイラスト処理を行なう「Illustrator」「Photoshop」を揃えることが最低限必要である。さらに、最近では三次元CGなどを扱うことで、付加価値を高め、顧客の幅を多角化できる。

3)経営上の留意点
  供給過剰が顕著な印刷業界では、どの工程も値下げ圧力が強く、DTP技術の進展によりデザイン品質が均質化してきたため、価格本位で発注されることが増えている。顧客上位3社を集めると7割以上の売上を依存する業者がほとんどであり、大手顧客を取り逃がせば、一気に資金繰りに支障をきたす不安定な問題も抱えている。

製品の良し悪しを客観的に測ることが難しく、たぶんにクライアントとの人間関係によって受注が決まることが多い。人間関係の構築を伴う新規顧客の開拓には、少なくとも1年程度かかるため、当初1年間は起業前に確保した顧客からの収入で生計を立てられる目処を立てておかなければならない。

季節によって仕事の繁閑差が大きく、繁忙期には外注を使い、閑散期には同業者から仕事を回してもらう人的ネットワークが欠かせない。自社で処理できない特殊作業を含む仕事であっても、元請けとして受注して専門業者に発注する形で売上を確保していくことが必要である。

また、パソコンは使えるが印刷技術に習熟していないデザイナーが増えており、彼らがプリプレス工程を担当すると印刷の質が低下する恐れがある。後工程の印刷工程に精通すれば、それだけ関係者による評価が高まる。

3. 必要資金例

  自宅を仕事場に使用し、今まで使用したパソコンを流用して、また、従業員を雇わなければ初期投資はほとんど必要ない。起業リスクを最小化できる。

ここでは、仕事場としてマンションを借りて、パソコン機器類を新規調達し、アシスタント1名を雇用する形でのデザイン業を起業する際の
資金例を示す。
 
(単位:千円)
項目 初期投資額
物件取得費 保証金(賃貸料3カ月分) 300
仲介料(賃貸料1カ月分) 100
小計 400
設備・備品費 パソコン2台、ソフト一式 2,000
カラーコピー機 1,500
事務用品・備品 1,000
小計 4,500
開業費 人件費(2名×3か月分) 2,400
その他開業前諸費用 1,000
小計 3,400
総計 8,300

4. ビジネスプラン策定例

1)売上計画例
(単位:千円)
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年間売上高
初年度 2年度 3年度 4年度 5年度
出版社A(○○課) 6,000 6,000 6,000 6,000 6,000
広告代理店B 3,000 3,300 3,600 3,900 4,200
出版社A(△△課) 1,500 1,600 1,900 1,900 1,900
広告代理店C 1,500 2,000 2,500 3,200 3,900
その他(D社、E社、F社など) 2,000 2,500 3,000 4,000 5,000
合計 14,000 15,400 17,000 19,000 21,000
注) 特定少数の顧客からの受注形態であるため、顧客別に年間受注額の計画を立てる大口の顧客でも発注元の部署が異なる場合、出版社A(○○課)、出版社A(△△課)など、部署別に細かく顧客管理を行なう

2)損益計算のシミュレーション
 
(単位:千円)
  年間増加率 初年度 2年度 3年度 4年度 5年度
売上高 上記計画通り 14,000 15,400 17,000 19,000 21,000
売上原価(主に外注費) 8.0% 2,000 2,160 2,332 2,519 2,720
売上総利益   12,000 13,240 14,668 16,481 18,280
諸経費計   13,390 13,880 14,530 15,180 15,830
  人件費 5.0% 10,560 11,000 11,600 12,200 12,800
  地代家賃 0% 1,200 1,200 1,200 1,200 1,200
  減価償却費 5年償却・定額 630 630 630 630 630
  その他経費 5.0% 1,000 1,050 1,100 1,150 1,200
営業利益   -1,390 -640 138 1,301 2,450
営業利益率   - - 0.8% 6.8% 11.7%

売上原価:繁忙期、特殊デザインにおける外注制作費
人件費:経営者(デザイナー)1名、アシスタント1名

必要資金、売上計画、シミュレーションの数値などにつきましては状況によって異なります。
また、売上や利益を保証するものではないことをあらかじめご了承ください。