喫茶店

外資系を含めたセルフサービススタイルコーヒーショップの進出やファストフード店の喫茶需要への対応などにより、コーヒーや軽食を安く・手軽に・手早く提供する店が増え、従来型の喫茶店は顧客を奪われている。


厳しい競合状況のなかで安定的な収益を上げるには、その時代の消費者ニーズを把握し、それらに基づいた経営コンセプトを設定したうえで事業に取り組むことが重要となる。


1. 起業にあたって必要な手続き

1)食品衛生法に基づく営業許可

  飲食店の開業には保健所の許可が必要である。喫茶店の場合、「飲食店営業」か「喫茶店営業」のどちらかを申請する。「喫茶店営業」とは、「喫茶店、サロンその他設備を設けて、酒類以外の飲食または茶菓を客に飲食させる営業」のことを指す。食事メニューの充実を考えるのであれば「飲食店営業」の申請が必要である。


  飲食店の開業にあたっては、営業許可を所轄保健所の食品衛生課に申請する。また、食品衛生法では、各店に1人、食品衛生責任者を置くことが義務づけられている。
食品衛生責任者となるには、調理師、栄養士、製菓衛生師等の資格が必要である。資格者がいない場合、保健所が実施する食品衛生責任者のための講習会を受講すれば、資格を取得できる。


2)深夜酒類提供飲食店営業の届出

  深夜(午前0時から日の出前)において酒類の販売を行なう場合、「深夜酒類提供飲食店営業」として公安委員会への届出も必要になる(問い合わせ先は地域の警察署・保安係)。


2. 起業にあたっての留意点・準備

1)立地条件

  喫茶店に対する顧客ニーズは立地によって大きく異なるため、まず立地ごとの特性や顧客ニーズを把握することが必要である。
 ・駅前立地…人の流れは早朝から深夜にまでおよび、客層・ニーズともに多様である。競合店が非常に多い。
 ・オフィス街… 平日(とくに昼どき、出勤前の朝と退社後)は安定した集客が見込めるが、土日は極端に減少する。 企業への宅配ニーズも見込まれる。
 ・学生街… 低価格が望まれる。学生が休みの時期には客数が減少するほか、学生のたまり場となりやすく、客回転率が低い可能性が高い。
 ・繁華街…人通りが多いため、比較的容易に集客することができる。土日に客数が増加する。客層は不特定多数である。
 ・ロードサイド…車で30分以内の近隣住民や、車での通勤通学途中の客などが固定客となる。ファミリーレストランと競合しやすい。
 ・商店街…客数が出店する商店街の集客力に左右される。客層は近隣商店の従業員や住民、来街客が中心となる。
 ・住宅地型…顧客の多くが固定客となる。ファミリー、とくに主婦層のニーズへの対応が重要視される。

候補地が、コンセプトにあった立地条件なのかを確認しておく必要がある。周辺の状況や競合店舗、交通量などをチェックしておく。
<チェックポイント例>
 ・交通量はどのくらいあるか?…前面道路の歩行者を男女別、年齢層別、職業などのタイプ別や時間帯別に確認
 ・周辺の人口はどのくらいか?…市町村役場にある世帯数や人口に関する統計などで確認
 ・競合店はどんなところが何店舗くらいあるか?…タウンページで調べたり、周辺を実際に見回って確認
 ・競合店の営業状況はどうか?…客数、売り場面積、席数、営業日数、店員数、営業時間帯、メニュー、評判などを確認


2)店舗タイプ

  業態の多様化が進んでいるため、あらかじめコンセプトを定め、それに沿って店舗のタイプを選定することが重要となる。
 ・コーヒー専門店…"よりおいしいコーヒー"を追求している。コーヒーの品揃えは豊富で、オリジナルブレンド商品なども提供する。
 ・軽食喫茶…飲み物とともに、サンドイッチやスパゲティ、トースト、カレー、ピラフなどの軽食も揃えている。
 ・セルフサービス型… 急速にシェアを拡大している。価格帯や商品内容、雰囲気などから以下のタイプに分けられる。
低価格型: ブレンドコーヒー1杯150〜240円程度、客単価400円未満の店。都市部のビジネスマンを中心に強いアピール力を有している。レイアウトをはじめ全体的に機能性を重視しており、メニューもコーヒーやパン類に絞り込まれている店舗が多い。
高価格型: ブレンドコーヒー1杯250円以上、客単価400円以上の店。外資系が多く「シアトル系コーヒー」「スペシャルティーコーヒー」などと呼ばれている。差別化された商品、お洒落なイメージから集客力を高めている。
 ・カフェ型… 軽食喫茶よりも食事に比重をおき、「喫茶+食事」を提供している。独自性ある付加価値のフードメニューを揃え、他業態との差別化を図っている。フードメニューの充実から客単価が高い。
 ・付加価値型… マンガを豊富に揃えたり、ジャズを専門に流すなど、喫茶以外を目的とした店。二等立地へ出店しテナント料を抑えている店が多く、時間による課金制をとっており、滞在時間の長さを収益につなげることを可能にしている。
 ・甘味喫茶… 和菓子や軽食がメニューの中心。煎茶や抹茶などのお茶のメニューを主体とした店もある。幅広い年齢の女性を集客している。


3)メニューづくり

  ターゲットのニーズに合わせた訴求力のあるオリジナルメニューを作ることが重要である。価格は店舗のタイプや競合状況によってそれぞれ異なるが、付加価値を高めることで値頃感を出し、利益率の高いメニューを作る工夫が必要である。


3. 必要資金例

  駅前立地に店舗面積20坪、席数42席の喫茶店を開業する場合の必要資金例

 
(単位:千円)
項目 初期投資額
物件取得費 保証金(賃借料の10カ月分) 2,400
仲介料(賃借料の1カ月分) 240
小計 2,640
設備工事費・
什器備品費等
内装工事費 16,000
厨房設備工事費 1,800
空調設備 5,500
什器・備品他 2,000
看板 1,000
その他 1,000
小計 27,300
開業費 市場調査費 500
印刷・DM等販促費 300
社員・アルバイト募集費 100
開業前人件費 500
開業前賃借料 240
開業前水道光熱費 150
その他 705
小計 2,495
総計 32,435
(注)減価償却額の計および総計は3年度までの金額


4. ビジネスプラン策定例(モデル収支例)

1)売上計画例

  客数(人/日) 客単価(円) 客席回転率(回) 日 商(円)
営業日数(日/年)
年商(円)
平日(週5日営業)
210 600 5.00 126,000
256 32,256,000
土曜
230 600 5.48 138,000 52 7,176,000
日曜 230 600 5.48 138,000 52 7,176,000
合計 360 46,608,000


2)損益計算のシミュレーション

 
(単位:千円)
  年間増加率 変動費率 初年度 2年度 3年度 4年度 5年度
売上高 1.0%   46,608 47,074 47,545 48,020 48,500
売上原価   27.0% 12,584 12,710 12,837 12,965 13,095
売上総利益     34,024 34,364
34,708 35,055 35,405
諸経費合計     28,335 26,759 27,021 26,986 27,254
  人件費     14,892 15,057 15,224 15,393 15,564
  不動産賃借料 1.0% - 2,880 2,909 2,938 2,967 2,997
  水道光熱費   4.0% 1,864 1,883 1,902 1,921 1,940
  販売促進費   1.0% 466 471 475 480 485
  通信費   0.5%
233 235 238 240 243
  消耗品費   2.0% 932 941 951 960 970
  修繕費   1.5% 699 706 713 720 728
  減価償却費   - 2,203 2,203 2,203 1,903 1,903
  初期投資一括計上分   - 1,835 - - - -
  その他経費   5.0%
2,330 2,354 2,377 2,401 2,425
営業利益     5,689 7,605 7,687 8,069 8,152
営業利益率     12.2% 16.2% 16.2% 16.8% 16.8%

※人件費:社員1名、アルバイト5名


必要資金、売上計画、シミュレーションの数値などにつきましては出店状況によって異なります。 また、売上や利益を保証するものではないことをあらかじめご了承ください。