異業種連携4



農業施設の高度化を通じ、
静岡県農業の基盤強化に寄与する

静岡県のJAと農業関連設備機器メーカーが組み、農業の高度化技術を模索。
製品化に重点を置いている。

農家が抱える課題に取り組む

 静岡県中小企業振興公社が主催していた異業種交流会を母体とする。1987年に農業分野に関心が高いメンバーが独立して、静岡県農業新技術開発研究会(和泉三雄会長)を立ち上げた。
静岡県は全国有数の農業出荷額を誇るが、農家では農業従事者の高齢化や海外産品との競合など多くの課題を抱えている。農技研では、農業設備メーカーなどを中心に企業と農家や農業団体とが情報交換、共同研究で連携し、農業を効率化できる新技術の実用化、さらには農業産品の競争力強化を目的としている。

商品化に向けた実証進む

 ここ数年の活動は、具体的な新技術や新設備の実用化、商品化に重点を置いている。活動成果として、2004年には温室栽培用の新蒸気暖房システムと、太陽光/風力発電機付き害獣防護柵を開発した。
 新蒸気暖房システムは温室栽培用ハウスを効率的に暖める設備として開発された。2重構造のパイプに蒸気を通す独特の構造を特徴とする。温室栽培で一般的に用いられている温水式暖房に比べてパイプなどの設備費を安く抑えることができ、燃料費も2割程度節約できる。
害獣防護柵は畑などの周囲に設置して電気を流し、イノシシなどの浸入から農作物を守るための設備。従来品はバッテリーを利用しており、充電のための農家のコスト負担が大きかった。これに対し、農技研が開発した新タイプは、太陽電池と風力発電機を組み合わせた自家発電式で充電が不要。運用コストゼロを実現した。
現在は新蒸気暖房システム、発電機付き防護柵ともに試作を終え、農家で実証運転を進めており、近く商品化する予定。会員有志から出資を募り、2005年度中をめどに農技研で開発した製品の販売会社を設立することも検討している。

商品化に向けて社内が活性化

 新蒸気暖房システム、発電機付き害獣防護柵はともに、会員各社がそれぞれの固有の技術を持ち寄り、開発に取り組んできた。会員の中には農業関連の商社もあり、商品化後は、この商社が販売を担当する予定。それぞれが得意分野を生かしながら自主的にプロジェクトに参加している。会員各社の担当者は、この自由な雰囲気の共同作業が刺激になり、前向きな姿勢を見せている。さまざまな課題を各企業に持ち帰ることで、会員個々の社内の活性化にもつながっている。

会員同士の共同出資で別会社設立を

 2005年5月に、新たに7つの分科会を立ち上げた。蒸気暖房システムや発電機付き防護柵の分科会ではいよいよ普及に向けた取り組みに乗り出す。新しい有機肥料の開発や、トレーサビリティー(農作物の履歴管理)システムの研究、防霜ファン発電システムの開発などの分科会もあり、農技研としての活動範囲が広がっている。将来は、会員同士の共同出資で別会社も設立し、それぞれの開発商品を自らが販売し、売り上げを開発費に再投資できるような体制を整えていく方針だ。



技術開発型ベンチャー企業と創業60年の中堅メーカー
との新規市場開拓のためのコラボレーション

ケイテックの半導体製造プロセス開発ノウハウと、ニッシンの長年のモノづくり経験という両社の持ち味を生かしプリント基板製造向けに新しい製造プロセス技術を提供する

マーケティング支援から製品開発に発展

 SPSプロジェクト(加藤聖隆代表)は、ケイテックリサーチの加藤社長がニッシンの竹内社長個人と知り合いだったことが発端で連携に発展した。当初はニッシンが製造する半導体製造装置の部品に対するマーケティング活動をケイテックが支援する関係からスタート。2002年にニッシン製のプラズマ発生装置を使い、プリント基板製造工程のデスミア(メッキ前)およびデスカム(エッチング前)表面処理に使う低温プラズマを使ったドライ式プリント基板洗浄装置の開発をケイテックで始めた。これは、マイクロ波電力で高密度の低圧プラズマを発生させ、基板を洗浄するもの。従来使われているウエットプロセス技術と比べ、微細な加工がしやすいことが特徴だ。
 試作を繰り返した後、2005年6月に研究開発向け、低価格、量産ライン向けという3機種のプリント基板洗浄装置を発売するに至った。すでに小規模量産ライン向けの機種が受注を得ており、今秋にはユーザー先で装置の立ち上げ準備に入る。

両社の持ち味を生かし、
付加価値の高い製品を開発

 まず挙げられるのがシナジー効果。ニッシンが持つ電源やプラズマ発生装置などの部品・製品を、技術開発型ベンチャー企業のケイテックリサーチの市場開拓力と合わせることで、プリント基板製造工程向けという市場を見つけ出した。さらに、両社の技術の融合で、同分野に適した付加価値の高い製品を開発、提供するというメリットを生み出せた。
 次は人材育成。両社の技術者が開発を通じて交流することで、社風の違うお互いの企業に触れ、異なる技術力やノウハウなど幅広い経験を得られることは技術者にとってメリットとなった。
 市場開拓の効率化も成果の一つだ。社歴や業務範囲、得意分野が異なる企業同士が連携することで、お互いの販路を有効かつ効果的に利用し、新規開拓できる。
 最後に挙げるのが「中小企業におけるMOT(マネジメントオブテクノロジー)の実現」。技術開発型ベンチャー企業であるケイテックリサーチは、自らが持つアイデアを製品化する際に必要となる、(1)機械設計、(2)製造、(3)品質保証、(4)財務、(5)市場からの信頼性などの要素を、ニッシンとの連携で得ることができた。加藤社長は「ベンチャー企業にとって大変なのは起業よりも製品化。その点ではお互いの不足を補い合えるニッシンとの連携はベストの形だった」と振り返る。

製品化へのスピードアップがメリット

 今回の連携では、開発から製品化へのスピードが単独で開発した場合よりも早められたことが連携の効果として大きい。ベンチャー企業は主に資金面から、早期に成功することが求められる。すでに地位を確立しているニッシンと連携できたことは役立った。
 また、新たな技術分野、例えば半導体製造の後工程やテスト工程、フラットパネルディスプレイの製造などの開拓を積極的に進められるのも大きな波及効果だという。
 通常、ベンチャー企業は、ある一分野に向け製品を開発した場合そこで開発をストップせざるを得ない。次の開発にかける資金的余裕がないため、一度開発した製品で元をとらないと次の開発に着手できなくなるためだ。これら以外にもさまざまな効果があったという。

参加企業を増やし的確な市場開拓を目指す

 今後はSPSブランドに参加する企業を募る。新規分野を積極的に開拓するには、多くの分野の企業が集まった方が都合がいい。また、現状のプリント基板向け洗浄装置でも、「市場の変化に迅速に対応するには、得意な技術を持つ企業と手を組んだ方がやりやすい」と加藤社長は話す。
 ケイテックリサーチが描くのは技術の流れづくり。装置メーカーだけでなく、商社や材料メーカーがSPSブランドに参加することで、各社の持つノウハウとケイテックリサーチの市場開拓・分析・判断を組み合わせ、より的確な市場に向けた製品開発が可能になると考えている。



廃棄の合板を再利用し、
100%木炭の土壌改良材を製品化

ナカダイが100%木炭の土壌改良材を考案。製品化に向け、木炭の安全性評価と土壌改良材としての効果を群馬高専と共同研究

実証データを整え、製品の信頼性向上を狙う

 ナカダイ(中台正四社長)は群馬県を中心に事業展開する産業廃棄物中間処理業者。廃合板の有効再利用を図る中で、合板を木炭化し土壌改良材として活用することを考えた。製品化の可能性を探るため、炭の研究に力を入れている群馬工業高等専門学校に相談を持ちかけた。木炭を土壌改良材として畑などに散布するのは珍しくないが、その効果を科学的に実証した例はないことがわかった。実証データを整え製品化すれば、「信頼性の高い差別化商品になる」(ナカダイISO事務局中台澄之)と判断。群馬高専も研究の新規性に興味を示し、すぐに連携がスタートした。

ハウス栽培のキュウリで実証実験し、効果を確認

 まず、ナカダイが製造した木炭の分析作業から共同研究をスタートした。X線分析などを行った結果、一般的な木炭に比べ、ナカダイの木炭は表面積が広く、土壌改良材としての機能を左右する保水性、透水性などに優れることがわかった。同時に成分分析も行い、安全性を確認した。続いて実際の効果を測定する実証実験を実施。プランターでの予備実験を経て、自社の近隣にある農家の協力を得て、2004年8〜12月にかけてビニールハウスでキュウリを栽培した。それによると、木炭を散布した土壌で栽培した場合、一般土壌と比べ、最大で収穫本数が29%、糖度が14%増加した。また農作物の栽培に大きな影響を与える地中温度も1.3度上昇した。2005年3〜6月には2回目の実験を行い、同様の結果を得た。現在は、より高い効果が得られる条件を探るため、1平方メートル当たりの散布量と、木炭1個当たりの最適サイズを見極める共同実験を続けている。

企業が主体的に動く姿勢が重要

 ナカダイにとって、産学連携による共同研究は初の取り組みだっただけに、さまざまな問題に直面した。一連の研究が終わってから、意図する研究が行われていないことに気が付き、やり直したケースもあったという。この原因を「実験手法やデータ収集など多くを群馬高専に任せてしまったため」(同)と分析する。「会計士や弁護士とのやり取りと同様に、産学連携でも大学や高専に任せきりになってはダメ。他機関と連携する際は、自社が主体的に動く姿勢が重要と改めて実感した」(同)と話す。

土壌改良材以外の用途開発も視野

 ナカダイは木炭土壌改良材の量産体制を確立するため、自動パッケージング装置、粉砕機などの設備を近く導入する計画。2005年内の発売を目指す。廃材利用により、価格は競合の土壌改良材の半値以下になる見込み。実証データによる製品の信頼性と低価格をピーアールし、県内の農協や園芸店に売り込んでいく計画だ。
共同研究の過程で、土壌改良材以外の利用用途が見込めることがわかった。このため新分野への応用製品の開発も視野に、木炭事業の拡大を図る。



金属繊維を織り込んで
蓄熱保温性を高めた繊維を開発、
事業化を急ぐ

本格販売に向け群馬大学の協力を得て実証実験を実施。販路開拓ではNPO北関東産官学研究会と連携

NPOの仲介で群馬大学とのマッチングが実現

 竹村(田島洋一社長)が蓄熱保温性金属繊維「SUNHOLO(サンホロ)」の原型を開発したのは約10年前。以来、特徴とする蓄熱保温性が生かせる分野として、シーツやガウンといった寝具、アンダーウエアなどの商品を開発してきた。しかし、製品の安全性や効果に関する実証データが乏しく、販売は鳴かず飛ばずだった。田島社長は「市場に受け入れられるためには、第三者による評価が必要」と判断。産学連携を支援するNPO北関東産官学研究会(桐生市)に相談し、群馬大学とのマッチングが実現した。実証実験が終わった後は、北関東産官学研究会が販路開拓をサポートした。

共同研究で製品の効果と安全性を確認

 SUNHOROは、化学繊維にアルミ皮膜を蒸着させた金属糸と、化学繊維や天然糸などを複合させたもの。人が発した輻射熱を金属糸が反射し、熱を逃がさないという。この効果を実証するため、群馬大学医学部と工学部とそれぞれ連携し、研究を行った。医学部との実験では、SUNHOROブランドの「健康快適シーツ」を使用した被験者のうち、82%の人が保温効果があると回答。さらに体調不良などの悪影響もなく、安全性を確認した。
 工学部との研究では、蓄熱保温機能のメカニズムも科学的に解明した。実証データを整えた後は、北関東産官学研究会が販路開拓で協力。大手企業OBや流通業者のバイヤー、商業デザイナーなどが参加する「販売戦略会議」の対象企業に、採択された。田島社長自ら足を運び、今後の商品開発の方向性、需要が見込める業種などに関して専門家と数回にわたり議論を重ねた。SUNHOROのブランドロゴ制作など側面からの支援も受けた。

連携効果で信用力が向上

 SUNHOROに対して第三者が評価した実証データを得たことに加え、大学とNPOと連携した実績そのものが、販売活動に与えた影響は大きいという。「地方のいち中小企業である当社は信用に乏しかった。各機関との連携で信用度が増した」と田島社長は言う。実際に展示会などに出展した際は、連携の実績を全面に押し出すプレゼンテーションで、引き合いが増加したという。これをきっかけに昨年冬に仙台市の商社1社と初の本格契約にこぎつけ、建設現場の作業者向けにインナーパンツ、ベストなど数1000枚を販売した。

衣料メーカーとの共同製品開発も視野

 一部で需要が出始めたとはいえ、販売が軌道に乗ったとは言えないのが現状。そこで、まずは医療、福祉分野にターゲットを絞り、既存商品を売り込んでいく。田島社長自ら関連施設をまわり営業するほか、セールスレップの活用も視野に、核となる販路の確立を急ぐ。市場にSUNHOROブランドが浸透してきたところで、スポーツウエア、アウトドア商品、作業着など新分野へ参入。将来は素材としての採用を各メーカーに提案し、共同製品開発も描く。「いずれにせよ、当社1社では限界がある」と田島社長。今後も北関東産官学研究会と連携を密にし、製品開発と販路開拓を進める意向だ。



地域 ONLY ONE 企業の独自技術力が結集
‐ものづくりの∞(無限大)の可能性‐

加工系企業5社で共同受注組織を構成。
メンバーの1社の歯科用治具開発を相互補完で
後押し。同社は医療分野に新規参入

全国の異業種5社が連携

 電子ビーム加工機、レーザー加工機などを使ったハイテク加工を専門に行う東成エレクトロビーム(上野保社長)は、顧客サービスの充実と受注拡大のため、兼ねてから取り組んでいた地元異業種企業ネットワーク構築による受注コーディネートの範囲を全国に拡張。2004年、工具製造の中村超硬(大阪府堺市)、光学研磨のクリスタル光学(滋賀県大津市)、金属切削のスズキプレシオン(栃木県鹿沼市)、微細加工機製造のピーエムティー(福岡県須恵町)と「ファイブテクネット」(上野保代表)を組織。経営資源を相互に補完することで、1社ではできなかった付加価値の高いサービスや製品づくりを目指している。

製品作りをメンバーがサポート、
さらに新しい製品も

 メンバーの1社、中村超硬は特殊材料の精密加工技術を活用した新規事業の立ち上げを計画していた。歯科用インプラント手術支援のシステムの開発と製造を行う大阪大学発ベンチャー、アイキャット(大阪府吹田市)とインプラント(人工歯根)手術用の使い捨ての位置決めガイドと歯茎の切削用ドリルを共同開発。ドリルには差し込み深さがわかるしるしをつける。このときレーザーマーカー装置を使用するが、条件設定などには熟練の技術を要する。中村超硬とパートナー関係を結ぶ東成エレクトロビームが、装置の選定から条件の設定まで手がけたことで生産開始時期を早めることができた。中村超硬はこれにより2005年4月医療事業部を立ち上げ。初年度は、歯科医など400カ所分のドリルとガイドを生産する見込みで、2010年の売り上げ目標は10億円にのぼる。さらに、ファイブテクネット内の別企業との連携で医療用器具を新たに開発予定という。

他社の経営知る良い機会

 ファイブテクネットの参加企業は、関東・栃木から、九州・福岡まで広域に及ぶ。距離や時間など物理的障害を乗り越えるため、多くの大企業で用いられている理論「triz(トリーズ)手法」などを導入し、技術や製品の発明に対してこれまで以上の高い意識を持つようになった。他社の経営方法や、業務への取り組み姿勢などを知ることになり、お互いに刺激を受けるばかりでなく、スケジュール管理方法の効率化といった社内業務の改善などに生かされているという。

全社が参加して製品開発

 5社は、定例報告会の開催、展示会への共同出展、共同パンフレットの作成による連帯意識の作り、トリーズ手法の導入などにより、目的の共同開発への『土台』を固めてきた。目指してきたメンバー全員参加による製品開発案が具体化。メンバー企業うちの数社での共同受注などはこれまでもあったが、全社が揃えて取り組むのは初めてのこと。2005年度末には形が見えてくる見込みという。