異業種連携3



「学」の後押しを受け、
夢のフィルターの製品化を実現

大学の先生方から学術面の
徹底サポートを受け、バネをフィルター
として使うろ過装置を製品化

技術的裏づけ求め「学」の門をたたく

 精密金属塑性加工を手がけるモノベエンジニアリング(物部長順社長)は、その高度な技術を応用し、1998年にバネのすき間をフィルターとして使う独自のろ過装置を開発した。バネの外側から汚水を流すと汚れがすき間に挟まり、きれいになって内側から押し出されるというしくみ。6年の開発期間をかけ完成させたが、製品として売り出すには、数値データなど技術的な裏づけがどうしても必要だった。そこで千葉工業大学生命環境科学科の瀧和夫教授、千葉大学工学部の立本英機教授らに評価を依頼した。

「学」のお墨付きを得て主力製品に成長

 瀧教授、立本教授らは、「バネのすき間をフィルターにする」というモノベエンジニアリングのユニークな発想に興味を示し、各種の評価試験やデータの分析などで積極的に協力した。その結果、バネ式フィルターの優秀性はデータで実証された。
  バネの表面に一定間隔で設けてある、高さ10?90マイクロメートルの突起の力により、直径0.1マイクロメートルの粒子まで除去できることが証明されたのだ。これは膜式の一般的なフィルターよりも高性能だ。しかも汚れた場合、液体を逆流させれば洗浄することができ、半永久的に初期性能を維持できることも分かった。
  これらの裏づけを武器に同社はバネ式フィルターの製品化に乗り出し、1999年に「MAXフィルター」としてろ過装置に組み込んで発売した。このろ過装置の噂は廃液処理の対応に苦慮していた大手企業の工場などの間でひろまり、相次ぎ採用された。今では同社の売り上げの半分以上を占める主力製品となった。

新たなパートナーが登場

 MAXフィルターの優秀性を聞きつけた産業機械商社の月島マシンセールスが、販売代理店としてモノベエンジニアリングの事業に参画。
  2004年、モノベエンジニアリングは、月島マシンセールス技術陣と瀧教授のアドバイスに基づき、MAXフィルターを使った防塵装置(ストレーナー)を新開発。従来の金網や穴を開けた金属板(パンチングメタル)をフィルターにした装置よりもろ過精度が高い、精密機械工場向けの理想的なストレーナーとして注目を集めた。

産学連携をより積極化

 より積極的に産学連携を進める予定。モノベエンジニアリングは、次のテーマとして、 レジオネラ菌など超微細な細菌を除去できるMAXフィルターや、廃トランス中に含まれている油からPCB(ポリ塩化ビニール)など有毒な物質を除去できるMAXフィルターの開発などを掲げている。これらを実現するには学術的な問題の解決が絶対不可欠だ。モノベエンジニアリングは「学」の力を借りつつ、さらに上を目指して日々研究に励んでいる。


来る者拒まずオープンに経営革新。
これが浜野流の産学連携

顧客分析や市場調査を目的とする営業データベースの作成。培ってきた現場の経験則とデータをマッチングさせ、マクロ経済や市場ニーズの変化に柔軟に対応する体制を築く。これにより販路や顧客のすそ野を拡大し、リスクを軽減する。

意気投合
地域産業論や中小企業論、中国産業論がテーマで、学生にとっては生の経営を学べる貴重な機会。浜野製作所は関ゼミとの連携母体として社内に「なんでもすぐやる課」を発足。ゼミ生がアルバイトとして同課に所属。社内ITインフラ整備や営業マンの行動分析、検索エンジンの最適化(SEO)、生産管理ソフトの手直し、CADプログラム作成などを補佐している。
インターネット経由の新規顧客が大幅アップ

 学生の協力を得てホームページ(HP)にSEOを施した結果、これまで営業が行っても相手にされなかったような有名企業や上場企業との取引が増えたほか、思いもかけなかった顧客から仕事が舞い込むようになった。即効性が高く、月間売上高の3割以上をこれらインターネット経由の新規顧客が占めることもある。営業の負担を減らし、仕事量の平準化にも貢献している。顧客から上がってくるさまざまなニーズを形にしていく中で、仕事の幅が金属加工以外にも広がってきた。

広がる交流範囲

 関ゼミは中国の深セン・テクノセンターや地方の中小製造業とつながりを持っており、浜野製作所も島根県斐川町の産業振興団体である「NPO法人ビジネスサポートひかわ」と定期的に交流を深めている。2004年から2005年にかけて合計3回、浜野社長は現地を訪れ、「浜野塾」と題して若手経営者の考え方やプレス板金業界の状況・展望などに関する講演を行った実績がある。参加企業と交流し、失敗、成功体験などを話し合うことで、浜野社長にとっても得るものが多かったという。

ゼミ生との交流で社内の新陳代謝を進める

 一橋大学近くの東京都国立市に新オフィスを構えることで、連携作業の業務効率を上げる。マンションの一室を賃貸し、なんでもすぐやる課の4、5人が入居する。インターネットを通じて本社とデータのやり取りを行う。同オフィスでは、中国をはじめとする海外企業との取り次ぎなども検討している。今後も学生の意見に耳を傾けることで、積極的に社内の新陳代謝を進めていく考え。


火災現場で空気充填
30メガパスカルのオイルレス高圧コンプレッサーを搭載した消防用空気充填車の開発

得意の技術で連携

 消防自動車メーカーの野口ポンプ製作所(野口和秀社長)が品揃え強化の一環として数十年前に空気充填車を開発することに。ボディーに搭載する空気充填用コンプレッサーの開発メーカーとして東亜潜水機(佐野弘幸代表取締役専務)と出会った。東亜潜水機は潜水服の製造・販売で創業、近年は産業用高圧コンプレッサーで業績を伸ばしている。潤滑部に油を使わない無給油コンプレッサーを得意としており、野口ポンプ製作所の構想と一致。野口ポンプの製造する空気充填車の一部機種について東亜潜水機が専用のコンプレッサーを開発している。

都内事業者の連携で意思疎通が図れ、
アフターサービスも充実

 空気充填車を所有していれば、火災現場で消防士が背負っているボンベの空気が無くなった際、すぐに油混じりのない澄んだ空気を充填できる。火災現場に代替ボンベを大量に持ち込む必要が無くなる。人命救助の迅速化に貢献している社会性・公共性の高い特殊車両である。船橋市や市原市、市川市、松戸市など千葉県内の消防局などで採用が進んでいる。東亜潜水機製コンプレッサーは小型で、かつエンジンの動力でコンプレッサーを駆動するため発電機やモーターが不要。3トン車程度のコンパクトな空気充填車に仕上げることが可能だ。狭い場所で発生した大規模火災などに活躍する。空気充填車用のコンプレッサーを製造しているメーカーは世界でも少ない。都内事業者の連携ということもあり、意思疎通が図れており、アフターサービスも充実している。

製品ラインアップの拡充で提案営業実を結ぶ

 野口ポンプ製作所にとって製品ラインアップの拡充に伴い、顧客満足度や企業イメージの向上が図れている。ただし、製品の特性上、一気に大量販売できるものではなく、入札ベースの足の長い案件が一般的。各自治体とも空気充填車に対する関心は高いが、予算が減る中で即決とはいかないのが現実だ。また、高圧ガスの取り扱いなどに関する条例が各自治体で異なっていることも多く、普及までには時間がかかりそう。ただ、空気充填車の存在は着実に浸透してきており、地道な提案営業が実を結んだり、リピーターが増えていくのはほぼ確実とみられる。今後は技術を応用した特殊な救命救助作業車などの開発も考えられる。

さらなる性能向上を図る

 連携をより親密にして、空気充填車のさらなる性能向上を図っていく。具体的な新製品開発の予定は今のところなし。



大学発ベンチャー
木材の不燃化プラントの開発、
光触媒能力検査機の開発

産・学連携のスキルを培う中で生まれる

 大学発ベンチャーは珍しい存在ではなくなってきている。マロニエ技術研究所は宇都宮大学発のベンチャー第二号として、中井俊一工学部電気電子工学科教授(同学科長)が木材加工業のシスコム(宇都宮市、菊地諭社長、028・659・8209)と誕生させた。
 宇都宮大学では「とちぎ大学連携サテライトオフィス」などを通じて中小企業から技術相談を受けており、産学連携のスキルを培う中で生まれた事業だ。

三つの製品を開発

 現在、開発した製品は木材の不燃化プラントのほか、不燃化材料の計測システムとして開発した検査機(試用機)と同検査機の技術を応用して作った光触媒の検査機(試用機)の三つがある。今後は検査機器と不燃処理技術の高度化を進める。
  不燃化のために、乾燥システム使用場所に応じた含水率にしておくことによって収縮膨張による狂いを防止できる。また、変色菌、腐朽菌などは含水率20%以下に乾燥すればほとんど発生しないほか、含水率約30%以下では乾燥するほど木材の強度が高くなるなどのメリットがある。さらに、塗装性および加工性がよくなり、また乾燥すると軽くなり輸送費が安くつく。

市場ニーズ把握の重要性などを学ぶ

 大企業と大学での産学交流は盛んな一方、中小企業にとって大学は「敷居が高い」とのイメージが強い。また、「技術相談のレベルから先に進まない」などの声が聞かれる。そうした立場から企業化によって、大学側が一歩前に出ることは重要であると中井教授が考えたことが設立につながった。民間との協業で、大学も市場ニーズ把握の重要性などを学んでいる。

販路の開拓などに注力

 不燃化プラントは既存製品が1億円以上のコストを要したのと比べると、大幅に低減できるが、販路の開拓等、ビジネスとして成り立たせるには課題が多い。ホームページは近日中に開設する予定だ。




先人達から受け継ぎ、
知恵と技術を融合した「匠の心」

「花・香・音を生かした地域づくりプラン」の一環として、花屋、建具屋、材木屋などのメンバーが今市市杉並木公園の13機の水車の年間メンテナンスに取り組む

「木材、木製品」など地域産業育成ビジョン策定が原点

 1999年に設立された協同組合無垢の会(沼尾公司理事長)の原点は1987年まで遡る。この年、今市市は国の支援を受け「今市市産業育成ビジョン策定基礎調査」を実施し、長い歴史と文化の中で育まれた地域産業の中心である「木材、木製品」産業などのビジョンを作成。その検討母体として、建具、木工、線香、木材業界などから構成された委員会を設置した。無垢の会の原点はそこに参画したメンバーを核にしている。法人化により、現在は14社13人が参加している。メンバーは花屋、建具屋、材木屋など多岐にわたっている。
 その後も「花・香・音を生かした地域づくりプラン」の策定支援や勉強会を行い、画一的業界の枠を超えた交流、情報交換、啓発運動などを行政と連携しながら、また、新しいメンバーの参画を得ながら進めてきた。
  1993年には、これらメンバーを核にそれまでの学習活動から事業化活動への転換を目指して、同志的集団として「無垢の会」を設立。さらに、業務委託を受けるチャンスを得、その社会的責任を果たす基礎として法人格を有するために「協同組合 無垢の会」を設立、今日に至っている。

今市市杉並木公園の13機の水車の年間メンテナンスに取り組む

 水車や文化財、道具の修復を「無垢の会」として請け負っている。また、「協同組合」によくある資材の共同購入、製品の共同販売といった「協同」でありながら、「競争」するような行動は行わず、それぞれのメンバーがもつ「技・匠」、「情報」、「ネットワーク」、「知恵」などを融合し、しかも地域に根ざした事業である水車、山車の車輪、学童用木製机・イスなどの共同研究・開発、製作・修理を主な業務してとしている。学校の教室向けの机・イスは200‐300セットを市内小学校から受注しているほか、シクラメンをホームページでも販売している。

各社の売り上げにも寄与

 法人化までは、注文を取ると、本業ではない仕事している負担感があった。しかし、一定程度以上の仕事量があり、手分けをする仕組みができたことで、各社の売り上げにも寄与している。1999年に法人化。沼尾公司理事長は法人化後では2代目理事長で、4代目の代表者。年間の受注額は2000万‐2500万円ほど、公共事業的なものは補助金を受けてやっている。

次世代へと技術を継承していく

 祭礼用の屋台修理を軸に技術を広範囲に普及していく。屋台のカルテの作成も進めている。若い世代として技術を継承していく役目を担うことを自覚し、次世代へと伝承を図っていきたい。


安全・安心な天然除虫剤を
産学連携により開発、商品化

にんにく、トウガラシなどの植物エキスから作った、家庭園芸用除虫剤を、大学との連携により農業用資材としてパワーアップし商品化に成功

かながわ環境コンソーシアム事業認定を受け開発が加速

 セプト・ワン(岡野国昭社長)は、自動車用部品など金属加工を主体とする製造業であるが、企業体質強化の一助として、企業間連携や異業種交流などで構築したネットワークにより数々の新規開発品を手がけてきた。今回の天然除虫剤もそのひとつであり、宮崎県の花苗生産農家で代々伝承されてきた無農薬の除虫剤をアレンジして家庭用商品として発売を続けてきた。しかし、自社独自の開発には能力的に限界があり、外部資源の活用を図るため「かながわ環境コンソーシアム事業」に応募したところ、2005年度の「神奈川県産学連携事業化促進委託事業」による支援を得ることができ、開発を加速することができた。

大学と中小企業とのコーディネートが功を奏す

 家庭園芸用除虫剤を有機栽培専業農家向けへ展開するためには、まず効果の向上が求められた。除虫性能強化のため、ひば油の添加が効果的と判断され、非水溶性のひば油を混和させるための純植物性資材の選定までを東海大学理学部化学科の研究テーマとして委託実施した。また、実際の圃場による効果確認データも不可欠であり、日本大学生物資源科学部応用昆虫学研究室に実験を委託、害虫防除データの取得を完了することができた。上記2大学よりの研究報告を基に商品化を完了し、天然除虫剤「草宝」として2004年春に全国発売を達成した。大学との連携には、県内の中小企業の支援、育成を進めている(財)神奈川中小企業センターの支援があった。専任のビジネスコーディネーターのアドバイスが大学との共同研究を可能にした。以降、ビジネスコーディネーターによる助言は現在も続いている。

米どころ宮城県での好事例が話題に

 宮城県登米市では、有機JAS認証水田でも使用できる除虫剤として、同製品を使用する生産者が増えてきた。お米の袋にすでに農薬不使用と記載してあれば、収穫前に突然害虫の飛来があっても黙って見ているしかなすすべが無かった生産者にとって、同製品の発売は朗報となった。同社では毎年収穫したお米を取り寄せて社員一同でお米を食べている。

量産化へ新たな取り組み

 東北地区での評判により、他県での取り扱いが増加し、従来の自然浸漬法では生産量が追い付かない危機感を生じてきている。よって量産生産方法の開発(強制抽出法)研究をテーマに、(財)神奈川中小企業センターの「新製造コンソーシアム」として応募、認定を受け、研究を進めることとなった。また、家庭園芸用として、(株)レインボー薬品との連携を強化し、小売店流通をさらに促進していく方針である。


振動で粉体を効率よく分離する装置の開発
粉体に振動を与えて分離させ、異物を除去する装置を三昌製作所が開発し、神奈川工科大学がデータなどを解析する。

大学活用してデータの信頼性を確保

 三昌製作所(鈴木輝良社長)は汎用ガイドローラーや光ファイバー製造設備など、設備機械の設計・開発を手掛ける企業。「中小企業が生き残るためには自社製品の拡充が必要」(鈴木社長)と研究開発に着手した。同社で研究開発を主に担当する鈴木譲治取締役は神奈川工科大学に在学中、振動工学を専攻していたことから、振動を利用して粉体中の異物を除去する装置の開発に取り組んでいる。神奈川工科大学には、同社が様々な実験を進めて異物の除去に効果的な振動の波形などのデータを収集できたところで、データ解析を依頼し、大学からデータの裏付けを得ることで装置の信頼性を高め、事業化を促進していく。

研究は道半ば

 粉体に振動を与えると、形状や質量、比重、硬さ、表面の粗さなど、性質の似通ったものが同じ方向に動く性質がある。この性質を利用したのが、三昌製作所が開発中の装置だ。
ひと口に振動といっても要素はさまざま。振幅や波形、振動数など組み合わせパターンは膨大になる。効果的な組み合わせを見つけるために気の遠くなるような作業を繰り返している。データがまだ出そろっていないのが現状だ。
 従来、粉体の異物を除去するにはCCDカメラで異物の位置を特定してエアーで吹き飛ばす方法がある。これだと多くのカメラが必要になるうえ、異物以外も同時に吹き飛ばしてしまうため効率が悪い。粉体を薄く広げるため、大量の処理にも向かない。
 また粉体を気体に乗せてフィルターに通す方法もある。この方法だと、大きさが違う物質でないと除去できない。フィルターの目詰まりも発生する。
 振動により分離する方法が実現すれば、大量の粉体を効率よく分離できるようになる。従来の方法に比べて低価格で装置が導入でき、省スペース化も可能になる。ただし、研究の裏付けとなるデータ収集にはもう少し時間がかかりそうだ。

研究開発費の充実のため、本業を強化

 中小企業にとっては厳しい経済情勢が続くなか、余剰な資金や人員があまりないのが実情だ。大学側からみても、恵まれた予算や設備を持つのはむしろ少数派といえる。
 生き残りのために新事業の研究開発に着手した同社だが、研究開発費を充実させるため、現在は本業の設備機械の設計・開発に注力している。振動による粉体分離装置の開発には膨大な時間が必要。まずは足元をしっかりと固めてから研究に取り組む構えだ。

あらゆる粉体の分離に効果

 現在、取り組んでいる装置は、あらゆる粉体から異物を除去することができる。今のところ小麦粉から異物を除去する研究を進めているが、「食品以外でも応用できる」(鈴木取締役)とみる。「セラミックスを粉末から成形する際、質量を均等にして混ぜることができる可能性がある」(同)という。振動の波形を研究する以外にも、振動を与える対象となる粉体の種類にも研究の幅を広げていく方針だ。研究を進めるため、実験装置などを提供する企業の参加を求めている。挑戦はこれからも続く。



障害者や高齢者も楽しくスポーツを
障害者や高齢者でも簡単に操縦できるカヌーを開発し、障害者や高齢者が手軽にスポーツを楽しめるようにする。

産学官で連携

 簡単に操縦できるカヌーの開発を通じて、障害者や高齢者が手軽にスポーツを楽しめるようにとの思いから、湘南工科大学工学部機械デザイン工学科の和田精二教授がカヌーのデザインを発案、これまでも同大学と連携した実績のある湘南技術センター(原田宏一社長)が無償で設計と製作にあたった。神奈川県公園協会は出来上がったカヌーを実際に利用する場所として辻堂海浜公園(神奈川県藤沢市)の池を開放した。三者が連携することで、デザインや設計技術、場所など、それぞれが持つ能力・施設などを最大限に活用した。こうした取り組みを通じて、障害者や高齢者がスポーツを楽しむ機会を増やし、健康増進に役立てる。

6種類のカヌーを開発

 さまざまな障害に対応できるように、6種類のカヌーを開発した。和田研究室の学生らが同公園の池で「試乗」を繰り返している。2004年の9月から10月にかけて、障害者も実験に参加した。
 開発中のカヌーのベースは一般的に販売されているもの。これにポンプを搭載し、空気で推進力を得る。タイプは6種類。手だけでポンプを操作するタイプのものや、足のみを使うものなどがあり、さまざまな障害に対応できるようにした。船尾には浮きを設置して浮力を確保、簡単に転覆しないようにするなど、安全性にも配慮している。
 「あくまでも運動するのが狙い」と湘南工科大の和田教授は話す。「あまり効率が良すぎると運動にならなくなる」という。手や足で操作するポンプをあえて採用したのも、運動することを目的としているためだ。最初は不安そうにしている障害者も、乗り終える頃には満面の笑顔をみせるという。「障害者のスポーツの可能性が広がる」と和田教授は期待する。

癒し効果にも可能性広がる

 カヌーを水面に浮かべると、カヌーがわずかに揺れる。「この揺らぎが自閉症などに効果があるのでは」と和田教授はみている。
米国などでは障害者が乗馬をするセラピーが実践されている。乗馬を通じて心身に刺激を与え、健康増進や平衡感覚を向上させる。知覚を敏感にするのにも効果的とされる。
「カヌーに乗ったときの揺らぎ体験が、乗馬セラピーと同様の効果があるのでは」と和田教授は話す。障害者向けカヌーの開発が、今後、癒し効果の研究に広がる可能性がある。

プールで使える障害者向け小型カヌーの開発

 和田教授や湘南技術センターがこれまで開発してきた障害者向けカヌーは、池などの広い場所で使うことを前提としている。現在は、プールでも使えるような小型カヌーの開発が進む。
 通常のカヌーは全長3?4メートルほど。今回は2メートルのカヌーを開発中だ。全体的に小さな作りのため、水深40センチメートルほどの浅いプールでも使用できる。
 「この小型カヌーが実用化すれば、夏期以外でもプールが有効に活用できるようになる」と和田教授は話す。




高性能空気清浄化装置の開発を通じ、
工場環境の改善に貢献する。

工場内のオイルミスト対策用に、直径2マイクロメートル未満の超微粒子まで100%近く回収できる高性能集じん機を開発、商品化した。

工場内のクリーン化に貢献

 配線パーツや制御盤用熱交換器を主力とするオーム電機が、新事業を開拓するべく環境分野に着目。工場内に飛散するオイルミストを回収する装置「ミストキャッチ」を開発、商品化した。しかし、このミストキャッチは直径2マイクロメートル未満の微小なミストは十分には回収できず、課題を残していた。そこでオーム電機は、より高性能のオイルミスト専用集じん機を開発すべく、協力会社3社とともに1999年5月に協同組合クリンテック(戸塚利郎代表理事)を設立した。現在も、工場内のクリーン化に貢献するため、会員各社の技術ノウハウの融合を図っている。

高性能のオイルミスト専用集じん機を商品化

 オーム電機が先に独自で開発していたオイルミスト専用集じん機「ミストキャッチ」は特殊ファンによりオイルミストを含んだ空気を吸引し、遠心力と慣性衝突によってオイルミストを分離する。この方式は直径2マイクロメートル以上の比較的大きいオイルミストでは大きな効果を発揮するが、直径2マイクロメートル未満の微小オイルミストの捕集率に課題を残していた。
そこでクリンテックではミストキャッチに、微小ミストの捕集に威力を発揮する電気集じん機を組み合わせることを決断。新タイプオイルミスト専用集じん機の試作品第1号を2001年に完成し、サンプル出荷を始めた。2002年には販売戦略を練るためのマーケティング調査も開始した。サンプル納入先の意見を採り入れながら改良を加え、2003年2月に製品を完成して関連の展示会に初出品。その後、オーム電機が「ミストキャッチ?」の商品名で同年の10月に発売した。
このミストキャッチ?は、直径が2マイクロメートル未満の微小オイルミストでも100%に近い捕集率を誇る。小型軽量で価格も抑えており、工作機械など油性オイルミストが発生する個所に1台ずつ設置し、分散処理ができる。

技術交流が日常業務にも生きる。

 一般に技術者は社内に閉じこもりがち。部品加工や装置組み立てなどを主業務とする企業の技術者ではなおさらだ。しかし、クリンテックの共同開発では各社の技術者同士が自由な雰囲気の中で交流した。これにより会員各社の活性化につながったばかりでなく、会員各社の技術者同士が共に苦労した仲間となり、日常の受発注や打ち合わせにおいても、従来にないつっこんだ意見交換や交渉ができるようになった。またミストキャッチの製品化を目指す過程で、各技術者に市場の生の声を聞こうという意識が高まり、ユーザーの目線で商品開発ができるようになった。これらの成果は共同開発だけでなく、各社の日常業務にも大きな効果をもたらしている。

コスト面の改良が課題

 オーム電機が中心となって販売戦略を本格化して拡販に努める。販路の強化に加え、このためには市場での認知度を高めていくことも必要だと考えている。また、ユーザー要求に答えるべくより良い製品を目指してさらに改良も加えていく。特に、同装置を広く普及させるためにはもう一段のコストダウンが重要になると考えており、部品加工、組み立てなどの工程改善はもとより、設計や材料の見直しも進めていく。製品の高性能化と低コスト化をさらに進め、工場のクリーン化に貢献していく。




「売れるモノ」にこだわり、
汎用性の高い商品を開発する

高性能の計測制御ユニットと
3次元レーザースキャナーを共同開発し、
商品化している。

「売れるモノの開発」がポリシー

 新日本特機は、自社製品である自動車用検査装置の性能を向上させるため、高性能の計測制御ユニットを必要としていた。そこで親会社であるFA関連商社の電興社やソフトウエア開発のアルモニコス、検査システムメーカーのパルステック工業と共同開発に着手した。その後、中小企業庁の融合化開発促進事業にあわせ、1990年3月に浜松システム開発協同組合(山内致雄理事長)を発足させた。1994年には第2弾の開発テーマとして3次元レーザースキャナーの開発も始めている。組合の運営は交流や情報交換より、具体的な製品開発を重視。開発テーマの分野は限定していないが、売れるモノを開発することをポリシーとしている。

販売好調の開発商品

 高性能の計測制御ユニットは1990年11月に完成し、新日本特機のブレーキ検査装置等に採用された。この計測制御ユニットは改良を加えながらその後10年間に渡って採用され続け、累計売り上げは1億5000万円に及ぶ。
さらに同協同組合は共同開発の第2弾として1994年に3次元レーザースキャナーの開発に着手、1997年には会員企業のパルステック工業が「TDS」の商品名で商品化した。このTDSは用途別に機種を増やしてシリーズ化しており、現在までに累計で4億円以上を売り上げている。2004年からは3次元レーザースキャナーの市場が本格的に拡大し始めており、販売台数が伸びており、パルステック工業ではこの3次元レーザースキャナーを新たな経営の柱に育てる方針だ。
計測制御ユニットと3次元レーザースキャナーの商品化において、浜松システム開発は会員企業からロイヤリティーを受けている。

広がる会員各社の事業領域

 3次元レーザースキャナーはハード、ソフトの両面で新たに開発すべき技術が多く、会員企業各社の技術力向上に役立った。共同開発を通じて技術者同士の交流が深まり、日常業務にも好影響を与えている。また、開発した3次元レーザースキャナーの「TDS」は単体での需要ばかりでなく、ロボットと組み合わせたシステム製品としての需要もある。実際、電興社ではTDSを搭載した自動溶接システムも開発し、自動車メーカーなどにテスト販売を始めている。TDSを核にして事業領域を拡大できそうだ。

第3の開発テーマを模索

 3次元レーザースキャナーは基本技術の開発が完了し、販売も軌道に乗り始めた。今後は会員各社の業務ベースで同製品の拡販や、システムへの応用に取り組んでいく。一方、浜松システム開発では新たな開発テーマを模索している。2005年度中にはテーマ選定し、2006年度から共同開発をスタートさせる予定。開発テーマに特定の分野は設けていないが、環境対応などがキーワードになりそう。現在のところ「太陽光の利用技術」などが開発テーマの候補に挙がっている。