元気印の企業16





昨年6月に特許出願、4月に商品化
 1分で貼(は)れて、3秒で剥(は)がせる−。モアクリエイティブは、のりを使わなくても、ぬらすだけで繰り返し貼ったり剥がしたりできる特殊透明シートを開発した。内側から外が透けて見える印刷技術と組み合わせ、新たな広告媒体とするビジネスを半年前に立ち上げた。
 「フレックスビジョン」と名付けたこの商品。最大の特徴は、ぬれたガラス面に密着させるだけで貼り付く点だ。メーカーの協力を得て同社がオリジナル開発したもので、塩化ビニールの自己吸着性を利用した。乾いた後も落ちないうえ、剥がすのも簡単で繰り返し使える。
 開発の原点は、川本健一社長がサラリーマン時代にかかわった熱転写式の大型印刷機にあった。内側から見たとき外側が透けて見えるには、外側に白色、内側に黒色をそれぞれ筋状に印刷する必要がある。川本社長は「この印刷ができるメカニズムを持つ印刷機は限られる。これを使えば、新たな広告ビジネスができるのでは」と考えた。
 ただ、市場に出回っているシートでは、のりを使うため視界の透明度が落ちる。また、プロの手を借りなければ施工が難しいうえ、シートが硬すぎて印刷がきれいに出ないといった欠点があった。
 このため、のりを使わないシートを開発。インターネット販売を考慮して、エンドユーザーに向け、だれでも簡単に繰り返し貼ったり剥がしたりできる点を追求した。03年6月に、この特殊透明シートで特許を出願、04年4月には商品化にこぎ着けた。
タクシー会社がリアウインドーに採用
 同社は93年に設立。カタログ、チラシなどの企画・製作やタウン紙の発行、インターネットサイトの企画・運営を手掛けている。特に、埼玉県の入間市、飯能市などで発行している部数9万部のフリーペーパー「もあくり」は10年以上の歴史を持ち、同社の売り上げの半分を占めている。
 地域に密着して広告事業を展開してきた同社は、特殊透明シートもまずは地元で需要を探っている。中でも有力とにらんでいるのは、タクシー会社による“走る広告”。シースルーで施工が簡単な「フレックスビジョン」は、車のリアウインドーに適しているうえ、数枚単位の注文にも応じられるからだ。すでに、採用を決めたタクシー会社もあり、出足は順調だ。
 また、店舗向けにコンサルティングや出力サービス事業を展開するシー・シー・ビー(東京都台東区)を通じ、各商店のウインドーディスプレー用としての販路も築いている。今後、ノウハウやシステムの提供も視野に、代理店を拡大し、事業のけん引役に育てたい考えだ。
フリーペーパーの限界見据え、事業拡大へ
 「もっとチャンスのある分野に進出したい」−。「フレックスビジョン」開発の原動力となったのは、川本社長の事業拡大への熱意だ。発行地域内で抜群の知名度を誇る「もあくり」を有するとはいえ、フリーペーパーの世界はライバル紙も多く、成長は限られているからだ。新事業の成功はまず、どれだけ代理店を獲得し、地域メディアとして根付かせるかがカギを握る。それが軌道に乗れば、全国展開も視野に入ってくるだろう。


会話を通じて顧客満足を追求
 1932年(昭7)、漢方の製薬会社としてスタートし、59年(昭34)に株式会社化した。現在の主力商品は基礎化粧品「ドモホルンリンクル」と、生薬製剤「痛散湯」。いずれも年齢を重ねて生じる肌の悩みや傷みを改善し、生き生きとした人生をサポートすることを狙いとしている。これらは自然治癒力、自己回復力という漢方の理念に基づく商品でもある。
 同社は原料選びから処方開発、製造、梱包、発送まで製造・販売の一貫体制を取る。販売の手法は不特定多数の顧客に売るのではなく、広告を見て興味を持った顧客が自らアプローチしてくれるのを待つ。社員は電話、ファクス、インターネット、はがきなどを通して直接顧客と会話しながら対応する。「売りっぱなしにしない。お客さまに心から満足していただき、末永くおつきあいする」(西川正明社長)というのが販売理念だ。
 主力商品の「ドモホルンリンクル」は全売上高(03年度211億円)の90%を占める。発売から31年間にわたり同じブランド、点数、価格で販売するロングセラー商品。三年に1回、原料、処方、容器などすべてを見直してリニューアルするからこそ、顧客のロイヤルティーが高く、リピーターが増える。
 経営理念は、商品やサービスを向上させて一人ひとりの顧客満足を追求すること。それを実現する会社組織は「厳しい中にも家族的雰囲気を持つ大きな個人商店でありたい」(同)という。これにより前年度比5%増の目標をクリアしながら14期連続で増収を続けている。
安心・安全のモノづくりを徹底
 同社の製品は小売り、卸をしない。毎日製造し発送する製品は、だれに届けるものかが分かる。だから工場の「再春館ヒルトップ・薬彩工園」では、何より安心・安全を大切にする。在庫を持たず、いち早く顧客に届けることを優先するため、大量生産をせずに多品種小ロット生産を行う。そして毎日16時半には製造ラインを止めて、4時間かけて装置を分解、洗浄する。また製品容器は3回、4回と人手によって全品検査する。その実践が顧客の信頼を得て、ロングセラー商品の地位を築いている。
 約23ヘクタールの広大な敷地の中にある「再春館ヒルトップ・薬彩工園」は、「自然の力を人の力に」を理念に「アースファクトリー」を目指している。基礎化粧品、漢方薬に使う水は地下から湧(わ)き出る阿蘇山系の伏流水を使用。商品の梱包にはタオル工場の残糸を使い、生薬の搾りかすはたい肥化して園内の土壌改良に活用する。また屋根、壁面には太陽光発電パネルを張り巡らして、「晴天時には工場全体の80%の電力をまかなう」(同)。これら環境への配慮は、理想に一歩でも近づこうと努力する同社の姿勢が表れている。
経営資源の集中をブランドの強みに
 化粧品業界では、新製品を出さず、30年以上も1ブランドで勝負する企業は極めて珍しい。しかし、再春館製薬所は経営資源の集中をブランドの強みにしている。「今後もこの方針は変えない」(西川正明社長)という。それは、不特定多数の顧客に大量の商品を販売するのではなく、「会社や商品を気に入ってくれたお客さまと長いおつきあいをしたい」(同)という経営姿勢からくるものだ。


厚板切断、少量多品種加工に強み
 一般鋼材や特殊鋼板、ステンレス鋼板などの切断、加工事業者。特に厚さ50ミリメートル以上の厚板切断の技術には定評があり、厚さ1500ミリメートルまでの加工に対応。“厚板の門倉”としてシャーリング業界でその名を知られている。
 また、こうした事業者には珍しく、メーカーの系列に属さない独立資本の企業だ。「メーカーや商社がバックにいないので、常に背水の陣の気持ちだった」と門倉治社長は話すが、逆にそれを強みとして精力的な営業を展開してきた。現在では九州地区、山口、広島両県で約800社の販売先を持つまでになっており、九州地区でトップクラスの事業者に成長した。
 同社は26歳で脱サラした門倉社長が、父親が経営する会社の一事業部門として69年(昭44)に仕事を始めた。71年に別法人として独立したが、鉄鋼メーカーや商社の後ろ盾がないため、営業面では苦戦を強いられたという。
 同社が生き残りのために取り組んだのが厚板加工だった。72年、1500ミリメートルまでの切断が可能な極厚精密溶断設備を導入したのをきっかけに、厚板加工を中心とする同社の現在の営業体制が形作られてきた。
 また厚板加工に加えて、同社は少量多品種の取り扱いで他社との差別化を図ってきた。一般鋼板に加えて、ステンレス鋼板、高張力鋼板や耐摩耗鋼板などの特殊鋼板それぞれにさまざまな形状、サイズの鋼材を取りそろえている。
機械加工事業を拡大
 「将来は鉄の総合デパートを目指したい」(門倉社長)という同社。その言葉通りに、ここ数年、鉄にかかわる事業の幅を広げている。
 その一つが機械加工事業の拡大だ。2年ほど前に近隣の企業が停止した機械加工ラインを引き継いだのが、この事業に参入したきっかけ。このところ産業機械や建設機械、造船など各分野向けの仕事量が増加しており、約2億2000万円を投じて加工能力の増強に踏み切った。
 05年夏までに子会社の若松メカニクス(福岡県鞍手町)に大型5面加工機を2台導入。さらに機械加工の技術者や設計者を新たに採用し、“製缶”と呼ばれる仕事を請け負うプロジェクトチームを結成する。1年後の06年夏には「機械加工部門だけで月間1億円の売り上げを目指す」(同)という。
 現在同社には六つの関連会社があり、グループ全体で約270人の従業員が働く。「いつも目標を持ち、それを達成すれば次のポジションを目指す。30年間そういうスタイルでやってきた」と振り返る門倉社長。持ち味の機動力を武器に「夢を追い続け、夢を実現する企業集団」の実現を目指している。
挑戦の姿勢、全社員に根付く
 鉄鋼メーカーが絶対的な権力を持っていた鉄の世界で、独立系企業として勝ち抜いてきた歴史が同社の血となり、骨となって生きている。難しい仕事に対して挑戦する姿勢が社員一人ひとりに根付いてきており、門倉社長も「私がいなくても会社は大丈夫」と話すほどだ。機械加工事業などに続いて、今後も“鉄”をキーワードに同社の活躍の場が広がりそうだ。


光学用フィルターに展開
 工業用特殊ガラス製造分野で安定した成長を続ける硝子製作所。原料から製品までの一貫生産体制を敷き、特に厚板ガラスの加工に強みを持つ。ハイテク分野向けの光学用フィルターにも力を入れており、04年10月に倉敷繊維加工(岡山県倉敷市)と共同で、特殊樹脂製フィルター「VR・NDフィルター=写真」を開発した。広範囲な波長の光を安定して均一に透過するもので、フィルターの厚さや濃淡によって、0−80%の範囲で目的とする透過率が得られる。価格は100ミリメートル角で600円。光学測定機器や光通信・光スイッチの光量調節、航空機・病院の照明調節用などに売り込む。
 今回のフィルター開発のきっかけは、ユーザーからの「近赤領域の均一透過」という要望。従来のガラスやプラスチック製のフィルターは、耐熱性や反射光の弊害などによって、波長700ナノメートル以上の近赤外線は透過率が上がり、均一な透過ができないといわれていた。不透明な乳白色樹脂が安定透過に向くのを利用して、ポリプロピレンに他の樹脂材を積層し、表面加工などに工夫を凝らして、1年がかりで開発した。
 耐熱温度をプラスチック製などの約2倍の150度Cに引き上げ、均一で安定した透過を実現した。可視光線は波長400ナノ−700ナノメートル、近赤外線は同700ナノ−2000ナノメートルまで透過できる。厚さは0.5ミリ−1ミリメートル。現在サンプル出荷中で、引き合いに対応するため営業担当者を1人増やした。初年度少なくとも1000万円以上の売り上げを目指す。
現状打破で価格競争を回避
 安中茂夫社長が常に心がけるのが「情報の入手」。40年近い経験を生かして業界ニーズをつかみ、大手が手の出しづらいニッチ製品を選び、市場投入する。「新製品は出してみないと分からない」ことが多く、「失敗もある」という。そのため技術を持つ企業との連携や下請けを利用するなど、できるだけ初期投資を抑える。現在、200度Cの耐熱性を持つ合わせガラスを開発中で、今後も価格競争を避けるために、他社にない新製品を投入していく考え。
 安中特殊硝子製作所は1949年に創業。東京と大阪に拠点を持ち、対応の早さで他社を圧倒する。耐熱耐圧強化ガラス、ボイラ用水面計など各種ガラス製造加工を手がける。05年5月期の売上高は10億円弱と、前年度比5%増を予想する。このうち、フィルター関連は10%。06年5月期も前年度並みの成長を見込む。
 経営理念は「現状に満足せず、革新を意識し、常に変化に挑み、無限の可能性を信じ、顧客に満足願える仕事を通じて、社員の幸福を増進し、社会に貢献する」−。現状打破を、前面に押し出す。
成長分野の見極めがカギ
 厚板ガラス加工分野に特化した事業で安定した業績を上げる。光学フィルター分野だけでなく、金属リングにガラスを完全に溶着した耐圧ガラスを開発するなど、技術開発力に優れる。工業用特殊ガラス業界は、扱う製品によって、浮き沈みが激しいことから、成長分野を的確に把握し、そこに適正水準の投資を行っていけるかどうかが課題となる。




脱臭除菌装置を商品化
 新陳代謝の活性化やリラックス効果など、身体への好影響が指摘されているマイナスイオン。大手メーカーが相次いでマイナスイオン関連製品を商品化する中、ベンチャー企業のアイ・テクノスは独自のマイナスイオン発生技術を開発し、04年秋に脱臭除菌装置を商品化した。05年は飛躍の年と位置づけ、アミューズメント施設や福祉施設などへの売り込みに拍車をかける構えだ。
 同装置は天井組み込み式で、ファンモーターを使わずにマイナスイオンとオゾンの混合風をつくり出すのが特徴。「病院など、静かな環境が求められる場所にも適している」(三田正行技術開発部本部長)という。ダウンライト型照明と同様の形状のため、設置工事も簡単。
 マイナスイオンとオゾンは、装置内に組み込まれた正、負2枚の電極間で起こるコロナ放電現象(高電圧下における負電極から正電極への電子放電)によって生成される。同現象を応用したマイナスイオン発生方法としては、これまでに3方式が実用化されているが、同社では新たに4番目の方式を独自開発した。
 四つの方式の違いは、正電極の形状による。これまでは正電極として、(1)タングステン線(線方式)(2)穴の空いた金属板(平板方式)(3)金属製の円筒(円筒方式)−の3種類が使われてきたが、同社では平板と円筒の両方式の利点を取り入れた新たな正電極の開発に成功した。
 具体的には、ステンレス板上に空けた穴の外周を、負電極側に向けて反り返らせている。この「反り返り」によって、秒速2メートルという円筒方式とほぼ同様の気流を発生させることができる。負電極とのユニット化も簡単で、製造コストも抑えられる。
起業支援施設を“卒業”、製販体制整備へ
 現在はインターネットでの直販のみ展開。すでに、東海地方の礼拝堂などでの設置実績があり、「四国や九州のパチンコ店や福祉施設などからも問い合わせが来ている」(同)という。
 ベンチャー企業のため、これまで資金面で苦労を重ねてきた。同装置は「自分自身の貯蓄の大半を研究開発に注ぎ込んだ末に生まれた商品」(同)で、思い入れも相当強い。
 商品化にこぎ着け、会社として一本立ちできるめどが立ったことから、入居していたMINATOインキュベーションセンター(東京都港区)を04年末に“卒業”した。現在は装置組み立ての新たな拠点の開設に向け、東京都大田区内を中心に場所を選定中だ。
 「今後はロット数の多い受注にも対応できるだけの生産体制の確立と、アフターサービスまで含めた営業の充実が必要」(同)とし、勝負の年に向けて気を引き締めている。
販路開拓へ公的制度活用も有効手段
 念願だった商品化も実現し、05年は今後の事業展開を占う大事な一年となる。脱臭除菌装置の販売が伸びなければ、第2、第3の新製品開発への道筋も見えてこない。自前で営業人員を確保できるようになるのが一番だが、東京都が実施している「ビジネスナビゲータ制度」など、ベンチャー企業の販路開拓を支援する制度の活用も有効手段となるはずだ。



創業わずか2年半で国内外2600社と取引
 横浜市の閑静な住宅街に、急成長を遂げている個人・小規模事業所(SOHO)企業がある。インターネットを駆使し、電子部品の購入と販売の代行を手掛けるフィギュアネットだ。島崎ふみひこ社長が02年、大手電機メーカーからスピンオフして創業。03年6月期売上高2600万円でスタートし、04年6月期7000万円、05年6月期は1億5000万円に達する勢いで伸びている。
 創業からわずか2年半で国内1000社、海外1600社と取引するまでに成長を遂げた。03年には「かわさき起業家創業賞」を受賞、「かながわビジネスオーデション」に入賞するなど、公的機関からも着実に同社のビジネスプランが評価されつつある。
 研究開発の分野では、たった一つの部品がないために、プロジェクトが頓挫(とんざ)するケースもある。島崎社長は大手電機メーカー社員時代に苦い経験をしたことから、「市場では入手困難な部品の調達に関するニーズが強い」と確信した。これが会社を興すきっかけになったという。
 同社は急に必要となった部品や生産中止品、半端品など入手困難な部品をインターネットの中から探し出す。メーカーからの注文は24時間いつでも、電子メールで受け付ける。注文を受けてから、平均3日以内で製品を納入できる体制を敷いている。欧米からの調達でも、約1週間で届けられるという。この迅速さが同社の成長要因の一つとなっている。
余剰部品の流通市場開拓へ
 インターネットの普及に伴い、ネットを介したBツーB(企業間取引)ビジネスが本格化している。だが、顔の見えない企業同士の取引のため、納期が遅れたり、注文したものと違うものが届くなど、トラブルも多発している。同社を利用する利点は「部品購入のリスクヘッジの側面もある」(大手メーカー)という。同社は部品調達先のデータを徹底管理し、トラブルを未然に防ぐ工夫をしている。
 最近では、メーカーの電子部品の余剰在庫リストを預かり、購入先を見つけるサービスに力を注いでいる。余剰在庫を現金化することで、企業の財務内容を改善できるという利点があり、注目される。世界には倉庫に眠っている余剰部品が1兆2500億−2兆5000億円あるといわれる。同社は、世界の余剰部品の流通市場を4000億−8000億円と見ている。今後は商社との連携など「営業分野へ本腰を入れる」(島崎社長)ことで、未開拓の同分野を拡大する。
 島崎社長は「“電子部品のお助け隊”になりたい」と笑顔で答える。現在は社長を含め3人の自宅をオフィスにしたSOHO企業だが、「会社をパブリック(公的)なものにしたい」(同)と、株式上場を目指す。
リスク回避の“目利き”力が信用に
 インターネットの中から電子部品を探すというビジネスモデルは一見単純だが、そのカギを握るのは与信力。ビジネスのマッチングにおいては、リスクを回避する“目利き”力が重要となる。同社は海外企業を含む2600社との取引状況などをデータベース化。納期遅れや製品の質が劣る会社は、ブラックリスト化する。このトラブル軽減策が、同ビジネスモデルの特徴だ。




資本参加、一貫体制築く
 学生服や事務服などのユニホームを開発・販売している「つちや」は、環境をキーワードに新ビジネスの開拓を図っている。03年にペットボトルの再生糸を使ったユニホームを発売し、これまで3万着を販売。年間数千万円を売り上げている。
 深谷慶仁社長は東京都文京区にある呉服店「槌屋服装店」の二男として生まれた。学生時代、父親に「服をつくるのはほかの店に任せ、その服に槌屋のマークを入れて売った方が効率的」と進言したという。今でいうOEM(相手先ブランド)生産委託だ。
 だが、それを採用することは、呉服の世界にまだ残っていた徒弟制度を覆すことになる。結局、父親に一喝された同氏は「それなら自分がやってやろう」と決意。79年、同店ののれん分けとしてつちやを開業した。23歳の時だった。
 開業時の決意通り、製造は他社に発注し、自らはデザインなどの商品の企画と営業活動に力を注いだ。そして、納入先の学校や企業で制服のファッションショーを開催するなど、ユニークな手法で着実に販路を拡大していった。
 ペットボトル再生のユニホームに取り組んだのは、02年12月の初めに大阪府忠岡町のエコ忠岡が「ペットボトルを再生してつくったニット服を買ってほしい」と接触してきたことがきっかけ。大手メーカーの環境配慮型製品の品質やコスト、品ぞろえに満足していなかった深谷社長は、さっそくエコ忠岡の工場を訪れ、その生産や管理の体制を見学した。
でんぷんを原料に生分解性繊維の白衣も
 ニットもまた、生産の海外シフトによる空洞化が著しい業界。エコ忠岡はニット服メーカーのヤマカワ(大阪府忠岡町)などが、新事業による生き残りをかけて01年に立ち上げた会社だった。ニットは製造技術が特殊なため、製品の企画や販路開拓のほとんどを商社に任せているのが業界の実情。エコ忠岡は再生糸でバージン品と変わらない製品を、同等のコストでつくる技術を持ちながら、営業のノウハウを持たないために、販売面で苦戦していた。
 一方、つちやは製造能力はないが、商品の企画や営業力によって、縁もゆかりもない土地で業績を伸ばしてきた。両社が組めば、満足できる環境配慮型製品がつくれる−と深谷社長は読んだ。
 03年3月、つちやはエコ忠岡に資本参加。出資比率は25%で、深谷社長は会長に就いた。これにより市場調査から企画立案、製造、販売までを商社を介さず一貫して行うシステムを確立。このビジネスモデルによって、04年2月に経営革新支援法の認定を受けた。
 05年度には社員を1人増やして営業体制を強化。深谷社長はペットボトル再生ユニホームの売り上げを、「今後5年の間に年間400万着にしたい」と意気込む。現在は官庁が主な顧客だが、今後はこれまで開拓した販路を生かし、学生服や事務服、介護服の市場も取り込んでいく考えだ。
 さらに04年末にはでんぷんを原料にした生分解性繊維の白衣を売り出す。でんぷんを原料にしているため、燃やしても有毒ガスが出ず、埋めても自然分解される。環境に優しい作業着として各種の作業場に販売していく。
環境ビジネスは営業力が重要
 環境配慮型製品の場合は、コスト、品質の両面で不利な競争を強いられるため、「いいものをつくれば売れる」という構図は成立しない。再生糸のユニホームが軌道に乗ったのは、つちやが製品を売り込む営業力を持っていたからだ。環境ビジネスで新事業を開拓しようとする中小企業は、営業力のあるパートナーを見つけることも大きなポイントになるという好例だろう。



取扱先400社に拡大、東日本の販路開拓強化
伝統産業や地場産業の匠(たくみ)の技と若いデザイナーのアイデアを融合し、和風雑貨を商品化している。創業期の販路開拓の苦労を乗り越え、現在、商品取扱先は全国400社にまで成長。04年9月には東京都大田区内に事業所を開設し、東日本での販路開拓を強化するなど、「2010年の株式上場」(大村智則社長)という目標に向け、事業展開を加速している。
 京ちりめんの生地を組み込んだ携帯電話用ストラップや髪飾りなど、コラゾンの商品は独特。02、03年度には経済産業省のコーディネート事業認定を受け、新潟県燕市の金属加工業者と共同で着物生地を組み込んだ食器類を商品化した。
 「商品は消費者が買ってくれて、初めて価値が生まれる」(大村社長)との信念の下、同社では新商品開発のプロデュースだけではなく、販売も手掛ける。事前に綿密な市場調査を行い、「売れる商品づくり」を徹底している。
 松下電器産業やP&Gのマーケティング部門を経て、大村社長がコラゾンを設立したのが01年8月。商品を通じて利用者の心を豊かにすることを目指し、スペイン語で「心」を意味する単語の「corazon」を社名とした。
 「おじが静岡の伝統工芸品『井川メンパ』(ヒノキ材を使った弁当箱)の職人だった」(同)こともあり、伝統工芸品の持つ独特の“ぬくもり”に着目。すでに一般的な商品でも、伝統技術をミックスすることで新たな価値が創造できると判断し、和風雑貨を商品化していった。
デザイナー・加工業者と協力、株式上場も視野に
 ただ、それまでの電子部品や洗剤の販売と、雑貨の販売は全くの畑違い。販路開拓はゼロからのスタートで「バッグパッカーのような格好で、全国に飛び込み営業していった」(同)という。
 ギフトショーなどの展示会にも積極的に出展することで会社の知名度は徐々に向上し、現在の商品取扱先400社の素地ができていった。「06年3月期までに取扱先を全国1000社に拡大する」(同)のが目標で、今後は大田区の事業所を拠点に、東北や北海道の地場の小売店なども開拓していく。
 一方、商品開発では、現在約100人のデザイナーのほか、アクリル加工や金属加工など約50社の加工業者と協力関係を結んでいる。雑貨だけでなく家電などの機構製品を商品化する計画もあり、「高度な技術を持つ大田区周辺の機械加工業者とも交流を深めていきたい」(同)としている。
 事業計画は、05年3月期の年商で前年度比約3倍の3億円を見込んでおり、3年後の07年3月期には同15億円を目指す。将来は自社店舗の開設や海外輸出を本格化する構想もあり、株式上場に見合うだけの事業基盤を整えていく。
人材確保がカギ握る
 在庫のリスクを承知で販売まで手掛けることで、「売れる商品づくり」を徹底している。年商も順調に伸びており、その方針は間違っていない。一方で、現在の社員数はアルバイトも含めて12人と、まだ心もとない。株式上場も見据えるだけに、優秀な人材の確保が「一ベンチャー企業」から脱皮できるかどうかのカギを握りそうだ。





13人同時会話機を2000事業所に
 離れた場所にいる多くの人と、直接向き合っているように話せたら−。いろいろな場面で出てくるこの要求に、無線機の技術で応え、注目されているのがケイヨーだ。
 同社は73年に、電子機器メーカーとして創業した。その後、各種環境機器の製造を行っていたが、大手企業を中心に、工場案内や改善活動などに適した無線機のニーズが高まっていることを知った。そこで92年に、電子機器の製造で培ってきた技術を応用して、無線機の製造販売に乗り出した。
 当時もいくつかの大手通信機器メーカーから、工場案内や改善活動用の無線機は販売されていた。しかし、「製造現場は騒音がひどいうえ、体を使った作業が多い。このような作業環境まで考慮した機種はなかった」(五十嵐明雄社長)という。そこに目を付けた同社は03年1月、徹底して使用者側の立場に立った無線機を開発した。
 主に工場案内や改善活動用として開発した「Fragor(フレガー)」は、独自開発のノイズキャンセル機構を搭載し、雑音を拾わないため、耳に負担がかからない。送受信機のサイズは名刺大とし、機動性を高めた。使用エリアは100メートルと広いため配線工事も不要。最大の特徴は、13人が同時に会話できること。別々の周波数に設定した送信子機からの音声を、親機が受信後、一つの周波数に変換して送り返す仕組みだ。
遊技場向けに32人同時会話機を開発
 使用者が求める機能を追求した製品づくりが功を奏し、フレガーは大手メーカーの工場を中心に、2000事業所以上の販売実績を持つまでになった。売上高自体は約2億円(03年12月期)と環境機器開発販売のころとあまり変わっていないが、工事が不要で従業員数が削減でき、固定費の低減につながった。フレガーの販売が軌道に乗り、次に五十嵐社長が目を付けたのが、パチンコなどの遊技場業界だ。
 「遊技場に連絡用無線機は欠かせないが、相互連絡が必要な人数が多いうえ、工場と同様に騒音がひどい」(同)ことにフレガーの技術が生かせると判断、04年9月に最大32人が同時に会話できる無線機「YouYou」を開発した。
 子機を送受信一体型で厚さ20ミリ×幅60ミリ×高さ100ミリメートル、100グラムと小型軽量化した。出力や使用エリアを電波法で認められる上限まで高め、アンテナ設置の有線工事も不要とし、導入しやすくした。フレガー同様、ノイズキャンセル機構も搭載している。
 ほしい機能を満たした無線機として、YouYouの販売は好調なスタートを切った。「モノづくりの基本は顧客の視点から考えること。つくり手の押し付けでは受け入れられない」(同)と、顧客第一の製品開発でまい進している。
顧客の視点で製品開発
 社長が絶えず口にするのが、「顧客の視点に立ったモノづくり」という言葉だ。新製品のアイデアの源も、すべて顧客から聞いた生の声だという。ユニークな発想にこだわりすぎ、人の意見に耳を傾けなかったら“売れるモノづくり”はできない。顧客の意見を尊重しつつ高い技術力をフルに発揮することで、同社はさらなる飛躍を目指す。




軽量、簡単施工、楽な維持管理に着目
 山や渓谷、神社、古寺など、日本では古代から宗教・文化と深いつながりがあるコケ。しかし、その実利的な利用は庭園や園芸などに限られていた。そのコケを活用した緑化資材の商品化に取り組んでいるのがモス山形。二酸化炭素の増加による地球温暖化、緑の喪失による都市部のヒートアイランド現象を緩和させる切り札として、コケ緑化システムを社会に提案しているベンチャー企業だ。
 同社はもともと、間伐材を利用したログハウス販売などを行っていた。「仕事で森林に入り、コケの強い生命力に魅せられたのが緑化資材開発のきっかけ」と山本正幸社長は話す。
 コケの特徴は乾燥しても枯れず、水を与えれば一時的な仮死状態から再生し、土がなくても生育できること。ビル屋上などコンクリートの無機質空間に草花や木を植栽して緑化するのは困難だが、その点、コケは軽量で施工が容易。さらに自然の雨水だけで生育できるので維持管理が楽だ。
 5年前にはビル屋上や壁面などの緑化を目的に、コケを根張り(根がらみ)によって人工的に固定化した「モスキーパー」を開発。生きたコケがマット状になった製品で、平地や立体的な物件に簡単に施工できるようにした。ポイントはイネの根でコケを固定したこと。農業出身の山本社長のアイデアだ。
ロックウールに植生し、断熱効果さらに
 農業と工業のコラボレーションにこだわるのも同社の特徴。材料のコケは山形県の荘内浜で種苗を栽培し、山形市郊外で育成する。休耕田を活用して栽培しており、「農家が工業製品づくりに携わることによって、農業活性化にもつながる」(山本社長)としている。
 このほか、ポーラスコンクリートへの植生工法、吹き付け工法、植栽ネット工法などを実用化。これらはゼネコンや建築設計家らへの提案を通じて普及を図っており、ビルや外資系商業施設の壁面、公園、道路分離帯など全国各地で徐々に採用され始めた。
 一方、園芸用プラスチックトレーを使った個人住宅向けのコケユニットに続き、このほど断熱材のロックウールにコケを植生させた新ユニットを開発した。ロックウール採用で断熱効果を一層高めており、冷暖房の省エネ効果拡大を狙った。そのため都市部のビルだけでなく、郊外の工場でも採用が増えそうだ。
 屋上緑化の市場規模は樹木、草花の植栽も含めて230億円程度にとどまっている。その背景には社会の問題意識の希薄さと、緑化に対する優遇制度が未発達であることなどが挙げられる。そこで山本社長は「国や県が積極的に試験採用し、良しあしを市場に判断してもらうような制度がほしい」という。資金面はもちろん、ベンチャー支援のソフト面の充実を求めている。 
工場の電気代10%節約へ
社長はロックウールのコケユニットについて、「工場内の温度が安定して電気代を10%節約できるとしたら、厳しいコスト競争にさらされている製造業者にとって魅力的では」と話す。事業を本格的に軌道に乗せるために年商2億円を目安としており、その目標達成に向けた主力製品に成長することを期待している。





へら絞り加工の技術生かす
 医療・通信機器、家電、車両部品などのスピニング(へら絞り)加工メーカー。軟鋼、ステンレス鋼、アルミ、銅などの金属板をさまざまな形に冷間一体成形している。しかし最近は、製造業の空洞化などから年商が7000万円台に下がり、材料費アップも経営を圧迫している。
 こんな中で約6年前からチャレンジしているのがシンバル製作。試作で苦労を重ねた後、04年春から本格販売した。現在は従業員4人で、月産200枚。国内唯一のシンバル量産メーカーとしての体制を整えた。
 「KOIDE」ブランドのシンバルは、打楽器専門卸のコマキ通商(東京都荒川区)を通じて販売。関西のプロ、アマドラマーや打楽器奏者を中心に知られてきている。「シンバルの盤面に印刷されたブランドのロゴが気に入ったといって、工場を訪ねてこられ、注文をいただいたこともある」(小出俊雄社長)という。販売は順調で、年商の10%弱を占めている。
05年は米国西海岸への進出狙う
 しかし、世界のシンバル需要をみると、やはり米国が第一。あらゆるジャンルのミュージシャンが集まるだけに求められる製品レベルも高いが、米国のジルジャン、スイスのパイステといった有名ブランドに対抗していくためには、米国で評価を得ることが必要。小出社長は「普通に使いやすいシンバルを開発中で、05年中にまず米国西海岸へ持ち込む」方針だ。
 小出製作所の創業は1946年。兵隊から帰った小出茂雄現会長が兄弟で鍋(なべ)、釜(かま)の絞り加工から始めた。50年代半ばに大阪市平野区の今の本社工場へ移り、写真引き伸ばし機の丸いランプハウスの生産などで事業を拡大した。
 小出社長は70年代初めの大学卒後、しばらくへら絞り機メーカーのドイツ・ライフェルト社に絞り技術の修行を兼ねて留学。帰国前後にニクソンショック(円切り上げ)が襲い、続くオイルショックなど日本経済の荒波を身をもって体験した。
 そんな中で絞り加工の対象製品もいろいろ変わってきた。60年代末のグループサウンズ全盛時には、真ちゅう製の低コストシンバルやティンパニーなども作ったことがある。今の青銅製シンバルは、ドラマーの経験がある若い従業員の提案から始まった。
 青銅板を任意直径の円盤にカッティングし、中央のカップ部分を絞り加工して、機械ハンマー、手ハンマーで叩(たた)き、必要なら表面を削って音溝加工を施す。
 特にシンバルの盤面へ微妙な凹凸を加えるハンマー打ちには苦心した。シンバルの振動に変化を付け、音に豊かな表情を与えるが、「叩き過ぎても駄目で、加減がいる」と小出社長。
 また大小2台ある機械ハンマーは小出社長が独自に設計し製作したもので、写真撮影などは禁止。青銅の素材も現在使っているものよりスズ含有量が多く、硬いものがいいらしいなど、まだまだ技術の底は深いようだ。
材料メーカーとの協力体制構築が飛躍のカギ
 弥生時代の銅鐸(どうたく)や、お寺の鐘、そしてシンバルは、いずれも青銅製。シンバルはトルコの軍楽隊をルーツに欧州、世界へ広がった。トップメーカーのジルジャンもトルコ系で、ジャズの歴史とともに歩んできた。鐘やシンバルの素材を探ると銅80%、スズ20%の青銅に行き着く。スズ含有量が多いと連続圧延が難しく、小出社長も今はスズ含有量が最大8%の市販青銅で我慢しているが、材料メーカーへのアプローチを続けていく考えだ。



高い安全性能を実証
 車両用の衝突緩衝装置を製品化した。大阪府立産業技術総合研究所(大阪産総研、大阪府和泉市、松田治和所長)と共同開発した。
 緩衝装置は、自動車事故から人命を守る製品だけに、高い性能が要求される。国土交通省が実施した実証実験で、ドラム缶を並べた通常の緩衝装置に比べ、安全効果の差が歴然としていることを証明した。
 製品化した緩衝装置は高速道路と一般道路向けの2種類。いずれもアイデアを満載している。
 高速道路向けは、車両がぶつかると、ポリエチレン製の緩衝ボックスが、アコーディオンをたたむように次々とつぶれ、衝撃を和らげる。近畿圏の高速道路で70%のシェアを確保。時速100キロメートルの衝突でも乗員の命を守った事故事例が続々と報告されている。
 一般道路タイプはコーン型の形状で、基盤のプレートを地面に固定しておく。車両の衝突時、120キロニュートンの力でポールが折れ、衝撃力を20G以下に抑える。ポールが倒れても、ワイヤロープで飛散を防止する。衝突の危険性が高い中央分離帯などに、大阪府堺市や静岡県浜松市の県道で採用が決まった。
国内、中国を皮切りに販売提携
 振動を抑制する技術開発を手がけていた。防振ゴムを製品化し、電子顕微鏡の台座として大手電機メーカーへの納入実績もある。しかし、車両用の衝突緩衝装置のような大がかりなものを、中小企業が独力で製品化するのは難しい。開発環境が整っていないからだ。
 開発の実現にこぎ着けたのは、公的機関の大阪産総研が実用化を後押ししたことが大きい。きっかけは大阪府からの紹介だった。97年から大阪産総研の担当者と交流を開始。初めは道路のガードレールの素材開発に着手し、その実績を生かす形で、緩衝装置の開発に至った。
 大阪産総研は、研究員が企業に直接出向き、サポートする実用化支援制度を始めている。NKCはこの出張指導の制度をフル活用し「何度も技術相談した」(山崎誠開発室室長)。大阪産総研はNKCの熱意に感化されて本気になり、密な技術交流に発展していった。
 課題は、販路の開拓。国内向けは全国に営業支店を持つ日本ライナー(東京都港区、水垣章社長)と組み、全国の道路公団に営業展開している。海外向けは、東亜技研(大阪府泉南市、舩野淳社長)と中国における販売委託契約を結んだ。東亜技研に販売や道路への設置作業を委託する。
 中国はオリンピック開催を08年に控え、急ピッチで道路整備が進むことから「乗員の安全を守る緩衝装置の需要が高まる」(同)と期待する。韓国やシンガポールでも販売を請け負う企業を募っており、中国を皮切りに海外展開を本格化する構えだ。
“助走”から“離陸”へ
 交通安全施設用品は公共設備の性格が強く、採用に至るまでの評価期間が長い。製品の販売開始当初は、なかなか売り上げが立たないつらさがある。新規参入のNKCは中小企業ながら、その苦しみを耐え抜いた。一度軌道に乗ってしまえば、安定した受注を見込める強みを発揮できるだろう。海外の販路が確立できれば、より大きな成長を見込めそうだ。





中小集積・東大阪でも異色の存在
 全国一の中小企業集積地、モノづくりの町・東大阪といえば機械、金属加工の分野で、匠の技を持つ技術職の人たちが多い。そんな中、ユウビ造形は、異色ともいえる“ホビーの分野”で独自の「遠心力技法」を駆使して細密造形物を手掛け、成長を遂げている。
 同社のホビー商品は、人気キャラクターのイラストを基に企画、デザインしてシリコン型で立体物をつくり、その原形に樹脂を注入して細密造形商品に仕上げていく。樹脂を注入する過程で、たまる空気をどこに逃がすかが問われるところ。真空状態の中で注入作業を行っている。
 森田寿一社長はサラリーマン生活から全く違う道に飛び込んだ。見よう見まねの技法について、空気が100%抜けていないことに疑問を感じた。悩んだ末に考えついた空気抜きが、遠心力を利用した技法。型精度を高め、「微細加工」につながる技術を確立した。92年の会社設立から3年目の出来事だった。
 「その瞬間は今でも思い出す」という。円盤上でシリコン型を回転させ、遠心力を利用して注入樹脂を先端まで詰め込み、空気の逃げ道を設けた技法は、細かい線、人形の髪の毛、爪(つめ)の先までもきっちりと仕上がる。卸問屋の評判になった。
 さらに、シリコン型に使う離型剤を開発した。従来のオイル状シリコンは成形品に浸透し、べたつくため、後処理の洗浄が難作業だった。注入するポリウレタン樹脂の分子量より離型剤の分子量を大きくして成形品に浸透するのを防ぎ、洗浄しやすくして成形品の品質を高めた。「寝ずの苦労で、テストの繰り返しだったが、ここで基盤技術が確立できた」(森田社長)。
ホビーから自動車分野へ
 同社は、卸問屋からの注文が殺到するだろうと予測した。しかし、森田社長は「確かに評価は受けたが、受注量は急激には増えなかった」と笑いながら話す。逆に、入る注文は「ユウビだったら難しいものでもやってくれるだろう」と、条件的に厳しいホビーばかりが舞い込んだ。
 いま挑戦しているのは、多品種少量生産のホビー商品の工程短縮だ。原形づくりまで10日間を要するほど大変な作業。中小企業基盤整備機構が設置したインキュベーション施設「クリエイション・コア東大阪」に8月に入居し、前川佳徳大阪産業大学教授の力を借りて、3次元CADで3日間に短縮することを目指している。
 一方で経営安定化にも余念がない。スポーツ関連、国内のテーマパーク向けの商品開発に力を入れた結果、ホビーの売上高比率は5年前から40%台に下がってきている。
 ホビーの基盤技術が認められて自動車産業の分野にも進出。今後、期待するのはワイヤハーネス(樹脂製)製品の加工だ。すでに取引先の製品精度検査に合格し、設計段階からの製作を任された。ITでスキルアップし、次の事業の柱に育てていく。
次々と課題を掲げ挑戦
 創業当時、昼夜の別なく働きづめの森田社長の姿を見た幼稚園児の長男が「大人にはなりたくない。あんなに働きたくないから」と言ったように、幾度か“死の谷”を乗り越えてきたベンチャー企業。次から次に課題を掲げて果敢に挑戦、クリアする経営姿勢は見事としか言いようがない。ホビーでは、次のテーマとして各地域の祭りを演出する御輿(みこし)、だんじりを造形品で残す企画を提案、ウレタンのリサイクルも考えている。誠心誠意の経営には協力者が多い。







トータルでつくり込み「世界最小・最速」実現
 精密金型分野で業界をリードする型研精工。世界トップレベルの製品開発を掲げ、新しい金型生産システムを世に送り出している。対応業種は電気・電子部品、自動車、精密機械、繊維など幅広い。「現場に出向くことで顧客ニーズがつかめる。常に開発テーマはある」(濱田一男社長)と意欲的だ。
 これまでに数々の「世界最小」や「世界最速」といった金型生産システムを開発してきた。例えば、半導体のリードフレームは幅0・15ミリメートル、128ピンで世界最小幅を実現。また、3ミリメートル径のボタン電池の陰極を1分間に400個生産できるシステムは世界最速を達成した。
 こうしたシステムを開発できたのは、会社の設立当初から、金型やプレス加工に至る一連の工程を、トータルシステムとしてつくり込んできたためだ。金型をつくるうえで必要な材料や送り装置も自ら開発し、進化させてきた。金型やプレス加工業者が、事業分野を広げてシステム化できない中で、型研精工の存在は際立っている。
 また、新しい生産システムを開発するたび、常に高い目標を掲げる。生産スピードは最低でも倍速、材料は最低30%減のコストダウンを実現する。「従来にはない発想で考える」(同)ため、完成したシステムも、既存製品と格段の性能の違いをみせる。
アイデアと開発力をベースに世界へ
 最近では、半導体測定子ボディーの高速加工トランスファープレスシステムを開発した。加工能力は1分間あたり150回と従来システムの5倍で、世界最速を実現した。従来システムは、引き抜き加工した金属を切断していたが、新システムでは、超深絞り加工部品として生産している。
 そのため特殊な絞りダイの形状を採用し、通常2回目以降の絞りに必要な「しわ押さえ」を使わなくても済むようにした。また、プレスのパンチが真っすぐに被加工材におりるように、精度を高めた独自開発のプレスシステムを使用した。高速加工するために必要な点から、加工技術を考えた結果だ。
 こうした新システムの開発は、会社の理念として表れている。「精密加工技術の開発を通じて、一、新しい製品の製造に貢献し、一、社会を豊かにし、一、社員の生活の向上を目指す」というもの。「技術力がなければ日本は生き残れない」と濱田社長は強調する。そのために、技術力や開発力を磨き続けることにこだわる。
 「当社の事業形態は大量生産を行うものではない。アイデアと開発力がベースとなる。将来も精密加工技術を中心とした製品開発を手掛けていく」(濱田社長)と、方向性にブレはない。あくまでも「日本発世界」のモノづくりを目指していく。
日本でのモノづくりを強調
 型研精工はこれまで、世界トップクラスの精密金型の生産システムを開発してきた。これらは日本のモノづくりを支え、競争力を維持するうえで欠かせないものになっている。顧客は世界が相手だが「生産面で海外進出を強化する予定はない」(濱田社長)と、日本でのモノづくりを強調する。常に先を見据えた開発力で、さらに新しいシステムを生みだしていきそうだ。



市場と商材を見定め攻めの営業
 製造・物流管理システムのソフトウエアを開発・販売している。社長が約25年前に耳にした、大手電機メーカーの特異な営業戦術にちなんで名付けた。小売店を経由する従来型の製品販売ではなく、異業種に拡販する取り組みが脚光を浴びていたという。その中核部署の愛称がアトム部隊。それを模して命名した。
 その精神は、「Attack(攻めの)営業」。技術者が受け身の姿勢に陥りがちな中で、「自分たちでマーケットと商材を見定める」(片岡社長)ことを主眼としている。「ソフトウエアの会社は、技術と経験の積み重ねで信頼を得る」(同)からだという。そこにアトムエンジニアリングの戦略がある。
 情報技術(IT)機器を活用し、オフィスや現場の改善を提案するソフトウエア業界は、企業の乱立が百花繚乱(りょうらん)ともいえる状態で、対象とする事業の間口が広い。そこで同社は、倉庫や物流センター、製造現場のロジスティクスを主戦場に選んだ。「絞り込むことによって、中小企業でも市場を深耕できる」(同)からだ。
上海に事務所開設、第二創業期と位置づけ
 同社のコア技術は「通信制御」。倉庫などで、モノ(箱)の動態をセンサーと端末の両方を使って管理する。その技術を具現化したのが、5月に発売した物流倉庫管理システム「KANZEN」シリーズだ。
 同システムは、入庫から出庫、出荷までの一連の工程をコンピューター上で一元管理する。ベルトコンベヤーやフォークリフトに自動位置認識端末を装着し、モノの動きをリアルタイムで捕捉する。同時に、受発注費用や保管料など、各工程で発生する費用を、システム内に請求データの作成機能を持たせたことにより、モノの流れと連動してデータ化できる。
 「OA機器上での作業を『商流』、モノの動態管理を『物流』と位置付け、その両方の管理システムを提供する」(同)のがこだわりであると同時に、勝ち残り戦略だと強調する。
 03年には中国・上海に事務所を開設した。国内で設計したプログラムの生産を担当している。日本企業が中国・アジアにシフトし、「現地法人でも、国内と同様の管理システムを求められる」(同)。その需要拡大をにらんで進出した。現地とは、テレビ会議とメールで緊密な連携を図っている。
 創業から22年目を迎えたが、まだ成長期はきていないという。創業期、停滞期、転換期を経て、今を第二創業期と位置付ける。物流改善に向けて「Attack」はまだまだ続く。
物流改善の提案力が強み
 製品(モノ)がメーカーから消費者の手に渡るまでの情報を一元管理する「SCM(サプライチェーンマネジメント)」を、社長は伝票上の作業である『商流』と位置付ける。一方、モノの動きそのものを絶えずとらえることを「SCL(サプライチェーンロジスティクス)」とし、その両方で物流改善を提案できることが同社の強みとなっている。




高調波診断解析ソフトを開発
 電気機器設備の内部に異常が発生すると、基本周波数(50−60ヘルツ)の整数倍の周波数の「高調波」が発生する。セフティトップは、これを検知して、モーター部のベアリングやインバーター部のコントロール基板など内部部品の劣化状態を診断する高調波設備診断解析システムソフトを開発した。このソフトを使えば、測定から評価までの時間を大幅に短縮でき、設備トラブルを未然に防ぐことができる。これまで診断精度の高い解析ソフトがなかったせいか、自動車メーカーなどが採用している。
 同社は貝沼輝彦社長が脱サラして74年に設立した。自社ブランドの工事現場用機器を製造販売するほか、大手ゼネコンなどの安全設備、安全教育、環境改善を行ってきた。高調波診断機器の販売を始めたのは03年。62歳になる貝沼社長は、「今になってベンチャー企業を立ち上げ、それを育成するようなもの」と意気込む。
 高調波診断では、配電盤やケーブルにセンサーを近づけ、高調波を検出、部品の劣化具合を調べる。“ピックアップ”と呼ぶ棒状のものをモーター周辺部にあてて劣化具合を診断する「振動法」が主流になっている。しかし、「診断の信頼性と解析時間の短縮が課題になっていた」(貝沼社長)という。
10万件のデータ収集、測定時間は75分の1に
 高調波診断に対するニーズの高まりを受けて、同社は開発に着手した。まず全国300事業所、10万件のデータを収集した。得られたデータを「振動法」で得られたデータと比較し、解析精度を高めていった。「地道な手作業と、考え抜いた後の“ひらめき”の連続から生まれたソフト」(同)と振り返る。また、「実際の経験値からつくったので、よそはまねすることができない」(同)と自信をみせる。
 測定内容にもよるが、振動法で測定から評価まで750秒かかっていたものが、わずか10秒で完了できるようにした。振動法のデータとほぼ一致し、信頼性も大幅に高めた。結果は「正常」、「異常・保全対象」といった項目にそって○×△が付けられていく。前回の測定値との比較も可能で、部品の劣化度合いが瞬時に分かる。
 ソフト開発にはかなりの投資をしたようだが、「昨今の工場火災などでプラント点検の重要性が再認識されている」(同)と、需要に手応えを感じている。大阪と東京の両本社で、今年6月からソフトの本格販売を始めた。すでにソフトはトヨタ自動車、東レ、日本道路公団などに採用された。今後は総合商社や機械商社を対象に拡販を図る。
 「工場間でのオンラインによるデータの共有化、ICタグによる情報管理などでニーズは高まる」(同)とみている。同社の従業員数は現在15人に過ぎないが、将来的にはソフトだけで100億円の売り上げを目標にしている。

人の心のケアも
 貝沼社長は、脱サラして31歳の時に建設現場向けの保安用品などを製造販売する大阪安全電機(現セフティトップ)を設立。03年には空気清浄器をレンタルするカンキョー技研(東京都江戸川区)も設立した。このほか、企業に出向いては西野流呼吸法によるメンタルヘルス、ヒューマンエラー教育を行う。その回数は200回以上に及んでおり、設備診断だけでなく、人の心のケアにも熱心だ。




 国内初の公道走行実験
 
今年2月、福岡県内の商店街にロボットが現れた。同県などが認定を受けた「ロボット開発・実証実験特区」に基づき、国内で初めて公道でのロボット走行実験を行った。道行くお年寄りが目を丸くし、遠巻きに見ていた子供たちが恐る恐るロボットに近づいていく−。“ロボットが身近にいる生活”がもうそこまでやってきていることを感じさせる光景だった。
 この実験で活躍したような実用性の高いロボットを次々と生み出しているベンチャー企業が、北九州市に本社を置くテムザックだ。父親が営んでいた会社を引き継いだ高本陽一社長は、93年に自社用の受け付けロボットを完成。これをきっかけにロボットの開発にのめり込み、2000年にはロボット開発専業の新会社、テムザックを設立した。
 ソニーの愛犬型ロボット「アイボ」やホンダの人型ロボット「アシモ」など、一般に知られたロボットたちは動きもコミカルで、親しみやすい外観をしている。だがテムザックがつくるロボットたちは、高本社長いわく「決してかわいくない」。同社のロボットは何よりも機能優先。「ロボットという単語にこだわらなくてもいい」とさえ、高本社長はいう。
「レスキュー」「巡回警備」商品化
 同社は今年に入って二つのロボットを製品化した。災害現場などで活躍するレスキューロボット「T−52援竜」は、人が近づけない危険な地域や、がれきの除去などの作業を想定して開発された。全高3・45メートル、全幅2・4メートルの巨体。人が乗り込んでの操作と、移動体通信などを使った遠隔操作の両方が可能だ。現在、全国の消防署を中心に売り込みを図っている。
 巡回警備ロボットの「T−63アルテミス」は、あらかじめプログラミングした経路に沿った自動巡回のほか、遠隔操作が可能。頭部に備え付けたカメラでリアルタイムの映像を映し出せるうえ、蛍光塗料入りのカラーボールを発射する機能を備える。
 2機のロボットは、同社が長く待ち望んでいた販売の核となる商品。これに合わせて9月には、顧客の細かい要望に応じた提案型営業を推進する「事業戦略部」を新設。これまで研究開発に傾きがちだったエネルギーを、販売に注ぐ体制ができあがった。
 多くの中小企業と同様、同社も資金面が経営上の最大の課題だ。ロボット開発には、材料費だけでも億単位の資金が必要になる。100億円単位で開発費を投入しているソニーやホンダに負けない技術レベルを保つために、テムザックは周辺の企業や大学との連合軍を結成している。レベルの高い製造業者や研究者が集積している“モノづくりのまち”北九州ならではの環境をフルに生かし、独創的なロボットの開発を続けている。
販売面の強化が課題
これまで10数種類のロボットを世に送り出してきた。しかし、いずれもデモ機的な意味合いが強く、実際に販売まで至るケースはまれだった。販売面の強化がこれからの課題だが、販売網を持たない一企業の力では限界がある。これまで研究開発で周辺企業や大学からの協力を得てきたように、販売面でも他者との連携が必要となりそうだ。



多摩美大教授との出会い生かし、蓄光式路面標示板を開発
 災害時に、確実に避難場所にたどりつく自信がある人はどれくらいいるだろうか。崩壊する建物、火災、街は混乱する。避難場所を知っていても簡単ではないだろうし、ましてや避難場所を知らなかったら−。
 ブリッジワークスは、コンクリートメーカーのフジコンテック(北九州市八幡区、鍋島峰一社長、093・621・1331)と共同で、暗闇(くらやみ)で発光し、夜間でも避難場所の方向が一目で分かる「蓄光式路面標示板」を開発した。
 ブリッジワークスは、美術大学との産学協同のコーディネートを業務とする。避難誘導の標示板を手掛けるのは、太田幸夫多摩美術大学教授との出会いがきっかけだ。
 太田教授は、85年に国際標準となった屋内の非常口サインの作製に、一から携わった。その実績から、02年のサッカーW杯に向けて屋外の避難誘導に使うピクトグラム(絵文字)の作製を任され、それがJIS(日本工業規格)となった。さらに、この絵文字を使った屋外避難誘導サインの普及を図るため、民間非営利団体(NPO)サインセンターを設立した。
避難誘導デザインの普及で、美大学生の就職拡大に貢献
 美大の学生は、その専門性ゆえに就職先が限られる。だが、避難誘導サインという実社会に結びついたデザインを普及させれば、それにかかわるビジネスが拡大し、学生の就職先が広がる。この太田教授の考えに共感し、ブリッジワークスはサインセンターの会員となった。
 ブリッジワークスが共同開発した蓄光式路面標示板は、レジンコンクリートの表面にJISの絵文字をデザインし、その周囲に蓄光顔料を混入した。これが暗闇で発光し、夜間の災害でも確実に避難誘導する。また災害が起きると、標識などは倒壊したら用をなさない。そこで耐摩耗性と防水性を付与し、避難の邪魔にならずに確実に誘導する埋設式とした。
 標示板の発光度合いは安全標識板のJISの基準をクリア。しかし、より高い視認性を目指し、発光度合いの向上に取り組み、その製品化にもめどを付けている。
 また、壁面のパテ部分に蓄光顔料を利用して避難方向を矢印で示すパターンや、同様に歩道のブロックで方向を示すパターンも構築。これらと標示板をシステム化した屋外避難誘導表示の提案を行い、自治体などに採用を働きかけている。
 産学協同は、取り巻く環境の変化で大学側からも積極的に乗り出す時代となった。しかし理工系の大学が中心で、美大との産学協同をコーディネートするブリッジワークスは稀(まれ)な存在。
 内藤昭資社長は大手広告代理店の出身で、デザインとのかかわりが深く、デザインとビジネスの融合を思い描いてきた。その思いと経験、ネットワークを生かして今、美大と産業界を結びつけている。さらに避難誘導標示板という“アイテム”を開発したことで、事業展開は複合化し、広がりをみせている。
コーディネートの差別化で事業拡大
 美大と企業の産学協同は、緒についたばかりで、そのコーディネートを行うブリッジワークスはベンチャー企業そのもの。ただ、コーディネート自体は他にまねができないものではなく、事業としてさらに拡大するには、差別化が必要。それを実現するのは実績とオンリーワンの特徴。標示板はそれを具現化するものになりそうだ。





「パルプクラスト」で血清を吸収拡散
 資金と販路が決定的に不足する研究開発型ベンチャー企業が成長するには、独創的な技術力や開発力の存在が欠かせない。その独創性も市場に受け入れられるものでなければならず、独り善がりの“大技術”では単なる絵に描いた餅(もち)に終わってしまう。その分岐点に立っているのがメディカルサプライだ。
 同社は02年4月に設立した研究開発型ベンチャー企業。しかし、試作品が完成した「応急用止血用具」は「20年来の取り組みの成果」(島貫武志社長)であり、技術的なめどがついたのを機に、個人の取り組みを会社組織へと衣替えしている。
 応急用止血用具は、パルプ綿を材料にした外傷用の止血布。外傷発生直後の緊急用で、医師の診療を受けるまでの間、同用具で止血しながら時間を稼ぐのが狙いだ。
 同社の製品は、血液中の凝固成分である血餅(けっぺい)と、非凝固成分である血清に着目して開発した。ガーゼ状の3層構成とし、出血している皮膚に触れる第1層に血餅だけを残す。第2層はパルプ綿を圧縮加工した「パルプクラスト」でできており、血清をいち早く吸収拡散。そして第3層は高分子ポリマー入りパルプ綿とし、血清などの水分をゲル状に凝固させ、トータルで迅速な止血を促す仕組みだ。「血液が出れば出るほど、第1層の血餅が濃くなり、瘡蓋(かさぶた)ができやすい」(同)という。
紙おむつは特許取得済み
 技術的なポイントはパルプクラストにある。パルプ綿自体は、板状のパルプをたたいて発生させた綿状パルプを積み重ねただけのもの。これに圧力をかけるなど、独自のノウハウで加工を加えたものがパルプクラスト。吸水保持性については、日本化学繊維検査協会東京事業所の試験証明を受けている。
 試作段階ではA4判、B5判、はがき大の止血具各2枚の計6枚のセット商品で、市販価格800円を想定している。自治体、学校、家庭など幅広い市場を見込む。
 パルプクラストを使った紙おむつでは、すでに特許を取得済み。また今回の止血用具のほか、パルプクラストの製法と製造装置の特許を出願済みだ。並行して、埼玉県の特許流通アドバイザーの助言を求める一方、特許事務所も積極的に活用し、技術の確立と売り込みに余念がない。研究開発型ベンチャーの一手法といえるだろう。



東京電機大の濱田教授が立ち上げ
 東京電機大学発の大学ベンチャー企業。東京電機大学情報環境学部教授の濱田晴夫氏が、99年に日本初のTLO(技術移転機関)認定企業として立ち上げ、会長兼社長を務める。
 同社は濱田社長が開発した「ステレオダイポール(仮想音源)」再生方式を使った立体音響装置や、関連するコンテンツの開発、販売を主力とする。その中で、事業の柱は大きく三つある。
 第一はサラウンドシステムを実現するスピーカーの開発だ。音に包まれたような臨場感のあるサラウンド環境を実現するには、通常は聴取者の前部、後部などに複数のスピーカーを配置する必要がある。これに対し同社は、二つのスピーカーを近接させることで優れた周波数特性や定位感、臨場感を引き出し、疑似5・1チャンネルのサラウンドを実現した。独自のデジタル信号処理技術を施したデジタル信号プロセッサー(DSP)を使い、広がりのある仮想音場を立体的に作り出したものだ。「サラウンドを手軽に個人で楽しんでもらう」(濱田社長)ことができる。
携帯の着メロ、着うたなどに展開。株式上場へ
 二つ目の柱は携帯電話や携帯情報端末(PDA)に取り込んだ音声を、立体的な音声に変換する装置だ。二つの近接スピーカーでサラウンドを実現する独自技術を応用し、携帯電話のスピーカーを使った3次元(3D)サラウンドの開発に力を入れている。
 02年に、同社の技術を使った世界初の3Dサラウンド着信音の携帯電話が国内で発売された。これに続き、03年には韓国の大手通信機メーカーも、同社の技術を採用した携帯電話を発売した。濱田社長は「日本では、近く3D音楽がフル配信される。さらに中国、欧州市場でも携帯電話ビジネスが本格化するだろう」と期待をかける。
 三つ目の柱は3Dのコンテンツビジネスだ。ステレオ音源を3Dサラウンドにリアルタイム変換するエンコーダーを使い、携帯電話の着メロや着うた、動画コンテンツ向けにビジネスを展開する計画。今秋から自社サイトを通じて、3Dコンテンツのダウンロードを始める。この技術を使えば、携帯電話側に3Dサラウンドを可能にするDSPが内蔵されていなくても、ソフト処理で3Dサラウンドを楽しむことができる。
 ビジネスの範囲は音楽や映画にとどまらず、ゲームやパチンコ、パチスロ分野へもサービスを提供する。さらに「これまで1業種1社で展開していた技術ライセンスを、今後は水平展開する」(同)計画だ。
 こうした一連のビジネスによって04年5月期の売上高3億円を、05年5月期には6億円と倍増させ、東証マザーズへの株式上場を予定している。
 課題は急速な業務拡大に伴う優秀な人材の確保。今後、株式上場を視野に入れて知名度を上げることで、そうした問題の解決を図っていく。
技術的優位性の継続がカギ
 これまで劇場並みのサラウンドシステムを家庭で実現するには、高額な音響システムをそろえる必要があった。ダイマジックの技術は、そうした夢を手軽に楽しめるものにした。この技術の応用範囲は広く、需要も拡大しており、今後の成長が楽しみだ。しかし、市場規模がさらに大きくなれば、音響メーカーの攻勢が予想される。大手メーカーが簡単にまねできない領域にいかに早く到達し、技術的優位性を確保し続けられるかが成長のカギとなる。


清水建設に納入
 コンピューター専門の会津大学が開学した福島県会津若松市では、ITベンチャーの創業が相次いでいる。大学発ベンチャー企業の起業数はすでに、東北地方で東北大学に次ぐ13件に達している。そうした環境の中でマイクロアーツは、大学の協力を得ながら会津ITベンチャーとして大きな成果を上げている。
 同社が開発したのは、建築CAD図面を直接、PDF(米国アドビシステム社が開発した電子文書の形式)に変換するシステム「izシリーズ」。CAD図面をインターネットで送ることはすでに行われているが、CAD図面をPDFに変換するのは「手間がかかる格闘の世界」(千葉宣明社長)。6月にまず清水建設に納入した。清水建設はこのシステムについて、「従来比50倍の速さ」と評価しているという。
 PDFソフトのアクロバットは、CAD図面のデータを読み出し、仮想印刷して画像化するのが一般的。これに対し、同社のシステムは、解析して、仮想印刷をせずにダイレクトに変換することで、重ね合わせてもずれない画像が得られる。対応するCADソフトはJW−CAD、AutoCad、SXFの3種類。
福島県が電子閲覧実証試験に採用
 建築業界では電子入札・電子納品の普及が進んでおり、地元の福島県では07年度からの本格導入を目指している。これを受けてCAD図面の電子化は急務。福島県はインターネットを使った電子閲覧実証試験を10月末まで行っており、このシステムに「izシリーズ」を採用した。
 一方、建設業では一つの大きなビルをつくるためには7000枚の図面が必要とされており、この図面の保存に頭を抱えている。図面を電子化して保存することが課題であり、このため清水建設ではマイクロアーツのシステムを導入した。
 マイクロアーツは個人で建築図面を描いていた千葉社長が、好きなコンピューターを商売にしようと創業した企業。以前はCAD図面を宅配便で送る手間がかかっていたが、電子メールを使うことで劇的に変化した。
 だが、コンピューターに詳しくない人にとっては、データを受け取っても、見ることができないなど欠点が多い。そこで、01年に新しいソフトづくりに取りかかった。
 この年の12月には開発のめどがつき、02年にフリーソフトとして需要を探ったところ、2年間で30万件のダウンロードがあり、大きな自信となった。
 02、03年度には福島県のIT産業リーディングプロジェクトに採択され、2250万円の補助金を得た。また、機能を絞った個人向けをパッケージソフトとして発売し、コンスタントな販売実績を上げている。販売はNTTデータアイテック(千葉市、043・211・1892)が行っている。清水建設への納入を機に拡販を図り、06年12月期に6億円の売り上げを見込んでいる。
ステップアップが課題
 ベンチャー企業を創業しても、計画通りに事業を展開できずに苦しんでいる企業が多い。そんな中、金がかかるときに県から補助金を得て、複雑な計算が必要な時には会津大学の支援を受けられる。マイクロアーツはこれらを生かして成長を続けてきたが、電子入札・電子納品の時流に乗って、さらにステップアップできるかどうかが課題。現状では売上高も年1億円を割る状況にあり、勝負はこれからだ。





醤油醸造技術を生かして
 94年、家業である醤油(しょうゆ)醸造業で培ってきた技と伝統を生かした研究開発型企業として設立し、微生物、酵素を活用した事業を展開している。醤油だけに、その起源は江戸時代の慶応年間にまでさかのぼる。中塚廣重社長は「古い技術が次の産業の基礎になる」という基本方針で開発に取り組んでいる。
 古い技術を次の技術にするためには、最先端のアイデアを付加する必要がある。そのアイデアを政府機関や大学などと組むことによって生み出し、ほかにない製品をつくることにまい進している。ただ、何が何でもがむしゃらにというのではなく、醤油醸造技術がベースだけに、環境、健康が開発のキーワードだ。
 会社設立後、産学官の共同研究をベースとして事業に取り組み、特に独立行政法人の産業技術総合研究所とは生分解性プラスチックの具体化で密接な関係を築いてきた。
 また、熱水鉱床に生息する好熱菌の分解熱を利用して有機廃棄物で60度−80度Cの温水をつくる技術を開発し、産業化に取り組んでいる。
 さらに、福井県沖での・ロシアタンカー「ナホトカ号」の事故により、金沢大学理学部教授が発見した鉱物油分解菌を譲り受け、土壌改良、汚染改善の技術開発にも取り組んでいる。
 これらの取り組みの中で、水分が95%以上でもダイレクトに炭化できる連続式多目的炭化装置(写真)などを開発し、売り上げに結びつけている。
開発・運転資金は公的機関から
 研究開発型企業を目指す同社にとって、問題は開発資金と運転資金。中小企業にとっては頭の痛いところだ。
 同社は開発資金を、公共機関からの補助金でまかなっている。99年は石川県、00−02年は農林水産省、01−03年は畜産環境整備機構からそれぞれ補助金を得た。
 続いて、01年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、02年には近畿経済産業局と兵庫県、03−04年はNEDOからといった具合。補助金の総額は2億3000万円に達する。
 これらの成果は出始めているものの、事業化には慎重。「売り上げ・利益先行型か、納得いくまで我慢するか」の二者択一の中で後者を選択する。「なまじサンプルを出してしまうと、いいものは大手がすぐに乗り出してくる。大手が手を出せないよう、環境を整える必要がある」という。
 となると運転資金が気になるが、これも自己資金に加えて政府系金融機関からの融資でつないでいる。「地道な研究姿勢とともに、社会への貢献意識が評価されている」と分析する。将来必要であろうと予測できる具体的な商品を持っているというわけだ。
 今、生分解性プラスチック市場に大きな夢を膨らませている。
スケールの大きな事業展開描く
 社名のシーはClean、ピーはProsper、アールはReviveの頭文字からつけた。資源を再利用して環境に貢献し、社会の繁栄を共に願う意味が込められている。まさにその社名通り、企業規模は小さいながらスケールの大きな事業展開を描いている。エリアも国内にとどまらず、全世界が対象だ。



公共機関向けに透明用紙・シートも共同開発
点字プリンターの国内トップメーカーだ。一般の文字と点字を同時に印刷できる「ドッグマルチ」シリーズを販売している。製品名のドッグは、盲導犬の意味を込めて付けたもの。国内の点字プリンター市場は年間約400台と見られ、同社はこのうち「シェア50%以上を確保している」(金子秀明社長)。
 製品の特徴は、かな文字をはじめ、数字、英字、記号を1枚の紙に、点字と通常の文字で同時に両面印刷できることだ。文字と点字を同時に印刷できる製品は世界でもドッグマルチだけで、日本語以外に世界34カ国語に対応できる多言語対応プリンターでもある。
 点字を知らない健常者でも手軽に点字を作成でき、同時印刷により、点字で何が書かれているかが一目瞭然(りょうぜん)で分かる仕組み。
 例えば、病院で目の不自由な患者に薬を配布する際、点字と文字で個人名や薬名が印刷されたシールを袋に貼(は)れば病院、患者の双方が安心できる。同社はこうした需要を掘り起こすために、透明の点字用紙や点字シールを他社と共同開発した。
 03年夏の発売以来、盲学校や行政機関、医療機関、公共施設などに導入が広がっている。同年12月には、商品性や技術性が評価されて東京都のベンチャー技術大賞「特別賞」にも選ばれた。
10カ国に輸出、中国市場開拓へ
   国内の販売が順調に進む一方、同社は代理店方式で海外への製品輸出にも力を入れている。海外では「ジェミニ」ブランドで販売しており、すでに欧州、東南アジアなど10カ国に製品を輸出している。今後は特に中国市場をターゲットにする計画。「中国は点字プリンターでは年間2000−3000台の市場規模だが、現状は手つかずで、積極的に開拓していきたい」と、金子社長は意欲満々だ。
 現在、ドッグマルチシリーズは3機種をそろえており、9月中に全機種が新製品に切り替わる。既存機能を維持したまま、新機能として全機種に日本初の音声ガイドを装備する。またネットワーク対応に配慮し、USBインターフェースを備えている。操作面では、簡便性を高めるため、プリンター側の操作ボタンを最小限に減らした。
 同社は99年に点字プリンターメーカーである東洋ハイブリッドから製品の製造権を譲り受け、同市場に参入したが、製品価格が他社製品よりも約20%高かった。
 新シリーズは「ゼロから独自技術でつくり上げた」(同)自信作だ。設計を見直し、基板をはじめ、部品の共通化を図ることで、製造コストを下げることに成功した。金子社長は「今後、販売台数が増えればコスト競争力も高まる」と意気込む。04年9月期は、点字プリンターを中心に売上高3億7000万円を計画している。
事故で失明し、点字の読めない人にも使いやすく改良を
 日本を代表する産業といえば自動車や電機だが、福祉機器でも世界に通用する製品が多数存在している。日本テレソフトの点字プリンターはその一つだ。同社の製品が世界中の目の見えない人たちに貢献することは、日本の技術力の高さを示すことになる。課題は事故や病気で失明した人で、点字の読めない人たちには使いづらいこと。この問題を克服できれば、さらに素晴らしい製品になるだろう。





3年後、年15億円の売り上げ目指す
 人間の体の約70%は水分という。だからこそ、その水にこだわりたいという人が増えている。安全・安心はもちろん、健康によければなおさらいい。研究開発型ベンチャー企業は、この水に着目し、体内の活性酸素を中和し、免疫力を向上させる効果があるという“還元性”が非常に高い「中性水素結合還元水」の生成に成功。健康飲料水として販売しているほか、温泉施設などに小型プラントをリース販売するなど、市場開拓に力を注いでいる。売上高目標は、3年後の07年までに年15億円規模を目指す。
 同社は02年9月に設立。水素結合力を利用した低公害燃料の開発に携わってきた室田渉社長が、還元性の高い水(酸化還元電位がマイナスの水)を人工的につくり出すことに2年半かけて成功し、独立した。
 実際に、医師の協力により試してみたところ、活性酸素が原因の一つといわれる糖尿病や高血圧、アトピー性皮膚炎などの症状が緩和された事例も出ている。特別な味はなく、普通の水と変わりない。
 現在、通販大手の千趣会を通じ「おいしい水素水」(500ミリリットル入り、500円)として販売している。ただ、製品特性から商品の説明が必要で、カタログ販売は有効ツールではあるものの、「実際に体験しないと、リピーターになってくれない」(室田社長)ため伸び悩んでいる。
法人営業を強化、タイにプラント設立
  そこで実際に体験できるように、群馬県・草津で大型スパリゾートを運営する中沢ヴィレッジに小型プラントをリース販売し、今年7月から本格的に施設内のお風呂やエステサロンで還元水を利用してもらっている。
 小型プラントを2台導入した中沢ヴィレッジの中沢康治社長は「利用客からは肌がすべすべして温まると好評」という。プラントの生産能力は1時間当たり1トン。リース料金は1台につき毎月15万円。このほか300万円の保証金が必要。
 中沢ヴィレッジへの導入を機に、ブルー・マーキュリーは法人向けの営業活動を強化。スパリゾート施設のほか、高級分譲マンションへの導入を目指し、ディベロッパーへ売り込んでいる。
 また、アトピー性皮膚炎にも効果が見込めることから、都内の空きビルの一室にユニットバスを並べて、患者に還元水を利用してもらうスペースを設け、皮膚科医から推薦してもらえるような仕組みをつくる計画。現在、大手商社と具体的な事業展開の商談を進めており、「できれば年内にモデルケースをつくりたい」(室田社長)と話している。
 海外展開にも意欲的だ。タイには現地法人を設立した。今年9月末にはプラント工場が完成し、工場認可がおりる予定。現地パートナーである財閥ルートを通じ、病院などの販路を開拓していく。
信頼性向上へデータの裏付け急務
 研究開発型のベンチャーだけに、販路開拓は苦手な分野。試行錯誤を繰り返しながら、販売提携を模索している。特許を内外で出願中で、ライセンスビジネスも狙う。ただ、健康をうたう水のビジネスは、商品の信頼性が第一に問われる。「各家庭にも入るような“スタンダードな水”になる」(室田社長)最終目標を実現するためにも、信頼性を裏付ける医療機関や公的機関の治験データをそろえることが急務といえる。



コメ210品種に対応
 農産物の品種の不正表示がひとたび起こると生産者、流通業者、小売業者など関連業者すべての信用問題に発展する。場合によっては、企業の存亡にもかかわりかねない。その問題発生を防ぐ手段の一つに、品種のデオキシリボ核酸(DNA)分析がある。日本では数少ない食品のDNA分析を行う企業の一つだ。
 環境分析からスタートした同社は、徐々に環境問題とは不可分の食品にかかわるようになった。九州大学農学部の協力を得ながらDNA分析のノウハウを蓄積し、02年から分析事業をスタートした。現在の分析対象はコメ。全国の210品種に対応している。有名ブランド米の中では特に「コシヒカリ」に強みを持つ。
 検査の種類は、品種の真偽を調べる定性検査、異品種の混入割合を調べる定量検査、品種の特定検査、ブレンド米の定性・定量検査などがある。要望があれば鮮度、残留農薬、カドミウムの検査も行っている。
 主要分析先は農水省など国の機関から全国の自治体、農協、生協、卸・小売業者まで幅広い。消費者の食品表示に対する目が年々厳しくなる中で、食品関連業者からのDNA分析に関する相談も多くなり、「駆け込み寺のようになっている」(塚脇博夫社長)という。
豚肉、小麦、イチゴやウナギも
DNA分析は低価格、スピード、高精度がセールスポイント。安く、早くできるのは独自の分析方法を開発しているためだ。高精度と表裏一体の関係にある分析対象品種の多さは、いち早くDNA分析に取り組んで、分析の基準になるコメの原種を全国から集めることで可能にした。
 コメのほか、イチゴや大豆、小豆、ウナギについてもDNA分析は可能だ。豚肉、小麦、トウモロコシについては分析依頼が既に来ている。ただ、分析業者が少ないこともあって、コメの分析依頼が引きも切らない状態。原種を多く集めるために時間がかかり、分析にも手間がかかることから、新規検査の開始時期は市場動向をみながら判断するとしている。今後も依頼が続けば、人員や設備の拡大も検討する。また、DNA以外の分析業務については、提携を積極的に行う考えだ。
 この4月には福岡県久留米市にある「福岡バイオインキュベーションセンター」に移転して検査規模を拡大している。同センターは、バイオ関連ベンチャー企業を対象にした研究支援施設。共同利用できる分析装置も備えている。全国初のバイオ専門のインキュベーション施設でもある。福岡県では久留米市を中心にバイオクラスターの形成が進んでいる。
 塚脇社長は「常に新しい技術を開発していかないと、ベンチャー企業は成り立たない」という。とくに「社会貢献できる技術を開発していく」考えだ。
市場性を見極める慎重さも
 社長にとって環境調査からDNA分析に至ったのは、健康というキーワードで貫かれた自然な流れだ。例えば、水質問題は、食物を通じて人間の健康に影響を及ぼす。それは内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)や、ブランド米の不正表示という大きな問題とリンクした。しかし同社は、時流に乗る軽やかさの半面で、市場性を見極めようとする慎重さを併せ持つ。



開発成功は2社だけ
 電圧を加えると発光する半導体素子の一種である発光ダイオード(LED)は、光の3原色であるRGB(赤、緑、青)が青色LEDの開発でそろい、市場が急速に拡大している。ナイトライド・セミコンダクターはさらに先を行き、青色LEDの市場規模を超えるとみられる紫外線LEDを開発、世界のトップを切って一部量産に入った注目企業だ。
 同社は青色LEDの開発者、中村修二氏の恩師である酒井士郎徳島大学工学部教授が開発した窒化ガリウム半導体を事業化するために設立した産学協同ベンチャー。米国の投資ファンド、カーライルグループが日本で初めて投資した企業でもある。
 紫外線LEDは青色LEDよりも波長が100ナノメートル(ナノは10億分の1)短く、RGB3原色をすべて出すことができるため、従来のLEDに取って代わることができる。また、白色発光に使えるため、次世代照明材料としても有望視されている。現在、紫外線LEDの開発に成功している企業は、世界でも同社と、青色LEDを生産する日亜化学工業(徳島県阿南市、小川英治社長)の2社しかない。
2010年の蛍光灯代替狙う
 01年1月に光の波長が350ナノメートルで、出力が0・1ミリワットの性能を備えた紫外線LEDを開発した。今年8月、鳴門工場(徳島県鳴門市)で、光の波長が365ナノメートル、370ナノメートル、375ナノメートルの三つの紫外線LEDのベアチップの量産に乗り出した。
 村本宜彦社長は「当面、紙幣の識別装置や樹脂硬化装置、光触媒と組み合わせた空気清浄機など向けに販売していく」という。ただ、ベアチップだけでは大きな売り上げが見込めないことから、紙幣の識別装置向けにベアチップと偽札検知センサーを組み合わせたユニット製品を販売する一方、医療やバイオ分野の応用製品開発も進めている。
 同社が事業の本命とにらんでいる白色照明については、中期的な課題として取り組む。LEDを利用した白色照明はポスト蛍光灯とみられ、開発に成功すれば大きな市場を開拓することができる。
 そのため、白色照明用LEDの開発に向けてメーカー各社がしのぎを削っている。現状では紫外線LEDや、RGBを組み合わせて白色を発光させるなど4通りの方法が考えられる。紫外線LEDが材料として優位な立場に立つためには、発光効率を一層改善することが必要だ。村本社長は「06年には出力でも他の方法を超え、2010年には白色LEDを使った照明を世に出したい」という。
 同社の売上高はまだ1億円(04年3月期)に過ぎない。村本社長は「簡単にマーケットはできない。今が“生み”の苦しみの時期」と笑う。「これまで半導体の生産は大企業の領域で、個人やベンチャー企業が手がけることは見当はずれとみられていた。だからこそ、成功させたい」と意気込んでいる。
開発レベルアップと用途開発が課題に
 紫外線LEDを使った白色照明の開発は数年先になる。開発に成功すれば、青色LEDの波及効果を超える可能性があり、同社の製品開発動向が注目される。問題は夢の白色照明の市場が形成されるまで、どのように事業運営を進めるかだ。紫外線LEDの用途を幅広くみつけることができれば、その次には急成長の可能性を秘めている。



MBAプログラムで売り上げ倍増
 会社に属してさえいればいいという時代は終わり、社員1人ひとりが、いかに高い付加価値を持つがが問われ始めた。一つの手段として、いまビジネスマンの間で経営学修士(MBA)の取得が脚光を浴びつつある。とはいえ、時間に追われるビジネスマンにとってそれは至難の業。その問題を解決する事業を展開し、注目を集めているのがケアブレインズだ。
 決まった時間が取りにくいビジネスマンにMBAを学んでもらうために同社が出した結論は、インターネットを通じて学習する「eラーニング」方式の活用。eラーニングは、インターネットの双方向性を利用した学習方式であり、ネットに接続したパソコンさえあれば、24時間いつでも好きなときに受講できる。移動時間も不要で、低コストかつ効率的に学べるため、日本でも普及し始めている。
 MBAのeラーニング化にあたり、同社は早稲田大学ビジネススクール経営専門職大学院と業務提携を結んだ。同スクールの各専門分野に所属する教授陣の監修のもと、戦略系、組織・人材開発系、マーケティング系、財務・会計系の4シリーズ全31コースを構築。それを同社が持つ独自のeラーニング教材づくりのノウハウに基づき、「eMBA」プログラムに仕立てた。
技術経営(MOT)へ展開、受講500社目指す
   02年に配信を始めたeMBAは、実務管理者に必要な基礎知識を、戦略や組織などの各分野ごとに体系的に構築している。受講者はそれぞれ必要とするコースを任意に選択し、学習できる。また、インターネット方式により電子メールで講師陣に質問できるため、学校で学ぶのと遜色(そんしょく)ない学習効果が得られる。
 フレキシブルで効率の良い受講方式と、産学連携でつくられた信頼性の高さが評価され、eMBAは現在、大手メーカーなどを中心に約120社で採用されるまでに成長した。一般個人向けにも配信を始め、同社の売上高は約1億円(03年12月期)と、eラーニング事業を始める前と比べて2倍近くまで伸びた。
 eMBAの開発で実績をつくった同社は、技術経営(MOT)の開発支援を進める経済産業省からプログラム開発委託を受けた早大ビジネススクールの要請に応じて、このほどMOTのeラーニング版「eMOT」を共同開発した。すでに4シリーズ22コースを完成し、今秋にも配信を始める。
 MOTは、多様な技術を経営に体系的に生かすための学問で、メーカーなどを中心に今後、学習ニーズが飛躍的に高まるとみられている。同社はeMBAとeMOTを中心に、eラーニング事業の拡大に一層力を注ぎ、06年12月期までに受講企業数を500社に拡大する計画だ。
社会変化、企業ニーズの分析が出発点
 強みは、eラーニング教材づくりの豊富な経験と、早稲田大学との強力な産学連携体制を持つ点だ。その強みを生かし、他社にないMBA・MOTのeラーニング教材をつくり上げたのは、社会変化と企業ニーズの分析を怠らない松下博宣社長の経営姿勢があってこそだろう。高まりつつある学習ニーズを背景に、一層の飛躍が見込まれる。




業界からも注目
 「もっと楽しい もっと便利な自動車を」−。新しい形の自動車づくりを追求する国内トップクラスのキャンピングカーメーカー。今年3月にキャンピングカー専門誌が主催し、業界内向けに実施した「気になるライバル車アンケート」では、同社が開発した「グランドロイヤル」が第1位に輝いた。今や同社の動向はエンドユーザーのみならず業界からも注目されている。
 創業は82年。社長の佐藤和秋氏が故郷の秋田県平鹿町で板金塗装業としてスタートしたのが始まり。「当時はバブル期だったため、業者が乱立し、すぐに過当競争が始まった」(佐藤社長)と創業時を振り返る。ちょうどこの時期にある雑誌で車のカスタマイズ技術が目に留まった。この雑誌が会社の方向性を「改造」する転機となったといえる。
 カスタムオーダーカーの製作、認可取得を本格的に始めたのが87年。ただ、法規に基づいて合法的な改造を行うには、乗り越えなければならないハードルがいくつもあった。佐藤社長は、専門家のアドバイスも得ながら、ほとんど独学で構造力学や材料力学など自動車工学の専門知識を一つ一つマスターした。さらに、法律問題も寝食を忘れ勉強した。これにより、学問に裏付けられた法的な安全基準をクリアする車づくりを可能にした。キャンピングカー商品第1号を市場投入したのが92年。この間、その車体改造技術は各方面から評価され、「今ではトヨタ自動車からも商品開発の依頼がくる」(同)ほどになった。
 ファーストカスタムの年商は約6億円。年間150−160台のカスタムオーダーカー製作を手掛けている。景気が低迷している中でも、佐藤社長は「極端な落ち込みはない。確実に伸びている」という。日本人の中に「心のゆとり」を求める人が少しずつ増えており、「遊び心を持つ人も増えつつある」(佐藤社長)と背景を分析する。
デザイン力・技術力
 日本のキャンピングカー市場はまだまだニッチな市場であり、量産を追い求める大所帯のメーカーでは対応しにくい。ただ、目の肥えたユーザーの信頼を得るには、デザイン力や総合的な技術力が問われる。同社は売上高の10%程度を研究開発費に継続投入することで、ローコストで手作り生産する力を蓄積してきた。最近では、地元の秋田大学とも連携し、蓄積したノウハウをベースに環境衛生分野など新たな分野への参入も視野に入ってきた。
 同社の将来的な戦略としては「キャンピングカーを核にしたシンクタンク的な存在を目指したい」という佐藤社長。単なる規模の拡大は追わず、デザインや試作、生産現場のコンサルティングなどソフト面の強化を図る方針だ。そのために「今後は研究開発スタッフの充実や試験設備の拡充が大きな課題となる」(佐藤社長)とみている。
常にユーザーの意見を聞きながら
 直営のキャンピングカー展示場(常設)は、秋田県大曲市に設置。販売代理店は北海道から九州まで設けているが、わざわざ秋田までやって来るお客さんが後を絶たない。人気車「グランドロイヤル」は欧州でいうライザモービル(旅の車)を意識したモデルという。同社は常にユーザーの意見を聞きながら、車づくりを進化させている。



感謝の心で
 「どんなクレームでも私の自宅にどうぞ。日曜、夜間を問わず料金受け取り人払いでおかけ下さい」−。斜陽産業といわれる米穀販売やガソリンスタンド業界にあって、「感謝の心をもって(お客さんに)喜んでいただく」ことをポリシーにしている。このポリシーをより所にした“攻めの経営”で着実に成長し、利益を上げている企業がライズ(福井市)だ。樋田信男社長の名刺には、携帯番号と自宅電話番号が明記されている。
 樋田社長(ライズ)は、生命保険営業を皮切りに、家業の麻雀荘を経営、トラック運転手を経て76年に27歳で会社「米や」を設立した、御用聞きからスタートし、現在、福井県内を中心に米・ガソリン複合店5店舗を含む10店舗を構え、東京、札幌などに米卸拠点を置くまでに成長した。04年3月期の売上高は190億円と、今や県内トップの米穀商だ。
 成長の秘密は経営理念、ライズ精神、基本方針が社員47人、契約社員60人の一人ひとりに浸透していることだ。「経営理念を全社員が理解できるよう言い続けることが社長の仕事」と言うほど機会を捉えては、経営理念などを口にする。毎週月曜日の社長メッセージ。毎朝、全員で社内掃除を行い、朝礼。「感謝の心で喜んでいただく」というライズ精神や、「私たちの使命。生かされていることを自覚して、すべてのものに感謝…商品を通じて、お客様に喜んでいただく」という経営理念を唱和する。
 朝礼の最後に全員ひと言づつ、反省と今後の仕事の目標を発表させる。「お客様に喜んでいただく」ことを全社員が日々、確認、徹底する。
クレームが糧
 また、ライズでは顧客のクレーム対応も重要な取り組みだ。「クレームに感謝。クレームのおかげで我々は成長する」との考えから、その対応に万全を期す。樋田社長は「クレームと苦情は違う。クレームはお客様とよく話すことで解決すれば、9割はまた買ってくれる」と言う。
 このため同社では、顧客のクレームを受けると1件当たり1点、クレーム対応報告書には1枚につき5点など、点数製を導入し総合点で年間上位3人を表彰する。顧客にクレーム解決の満足度などについての感想アンケートも行う。クレームはすべて社員に公開される。
 産業界で「我々の事業は斜陽産業だからダメだ」という声をよく聞く。しかし、樋田社長は「斜陽産業は素晴らしい」と笑顔だ。なぜなら「成長産業は資金、人材の豊富な強い会社が多いが、斜陽産業は新規参入はない」ためだ。何事もプラス思考で経営を進めている。
 同社のガソリンスタンド参入は15年前。米だけではスーパーなどの新規参入組みに押され、米担当社員の働く場確保が難しくなったためだった。しかしガソリンスタンド業界も競争は激しい。割引制度、カード会員の名前呼びかけなど、顧客がスタンドに来て「元気に、楽しくなる接遇」に工夫を凝らす。各スタンドには車いすで入れる身体障害者用のトイレも設けた。
接客という見えないソフトに価値
 ライズは創業以来、赤字経営を一度も経験していない。事業ポリシーは「お客様に喜んでもらうこと」。「売り上げ、利益の目標は喜んでもらった結果」という経営のベクトルは全社員に浸透している。同社は接客という見えないソフトに価値を見出す。ソフトとノウハウを最大限に活用することで小さい会社を成長させてきた。とくに「クレームを宝」に変換するというソフトは最大の武器といえる。社員に対しても厳しさの中に結婚記念日・誕生日祝いなど思いやりソフトが多く用意されている。



首都圏にも進出、年商3倍へ
 経営環境が厳しい書店業界にあって、明文堂書店は毎年、着実に売り上げを伸ばしている。04年7月24日には埼玉県川口市に、書籍を核とする同県最大の複合店舗「川口末広店」をオープン、富山県の書店では初めて首都圏進出を果たした。今後、首都圏でも多店舗展開を進め、2010年には現在の約3倍の年商130億円を目指す。清水満社長は「顧客のためのサービス、店舗づくりを心がけ、常に新しいものにチャレンジしている」と好調の秘けつを明かす。
 店舗の大型化が進み、中小書店の廃業が相次ぐ中で、同社は現在、富山県内に10店舗を持ち、年商は45億円(04年5月期実績)。大型店の展開と的確なサービスで、ここ10年間、増収を続け、常に黒字を確保している。
 創業は1945年。飛躍のきっかけとなったのが86年に同県朝日町にオープンした「朝日店」。駐車場を備えた郊外店第1号で、ビデオ、CDのレンタルを備えた店舗としてスタートし注目を集めた。「当時はビデオレンタルのみはあったが、CDを加えたのは県内で当社が最初」(清水社長)という。
 その後、入善町、黒部市へと富山県の東から攻め、富山市へと店舗を拡大。97年には書籍専門館「富山市新庄経堂店」をオープン。本を買ってすぐに読みたい人のためにカフェを併設したり、座って本を読み、選べるよう店内にいすやソファを配置したりと工夫を凝らした。
商品力、温かい接客、清潔さ
 また、子供に本を好きになってもらいたいとの思いから月2回、スタッフが子供たちに童話を読んで聞かせる会も開いている。この会は同店を含め5店舗で行っている。作家のサイン会、朗読会なども開いている。大型店を積極展開し、特に00年以降は7店舗を新設する中で、02年8月には富山市に24時間営業の掛尾店をオープン。各店舗にそれぞれ個性を持たせることで、差別化を図っている。
 情報収集力も強みの一つで、10数年前から米国の大型書店の視察に出かけたのもその一環。「学ぶものが多く、作家のサイン会、朗読会なども米国を参考にした」(同)。ホームページ開設などネット対応もいち早く行っている。
 そして、新たなチャレンジが首都圏進出だった。その第1号店となる川口末広店はJR川口駅から車で五分の都心近くで、駐車スペースも確保し、売り場面積1842平方メートルの規模だ。今後、埼玉県を中心にドミナント展開し、2010年には首都圏で年商50億円が目標。
 一方、北陸地域では既存店舗の増床や、石川県への進出を図り、2010年に年商80億円を目指す。「商品力、温かい接客、清潔さ。この三つが完全にできればどこにも負けない。ただ、まだ完成できていない。感動を超えて涙が出るほどの完成度にしたい」と、清水社長の目標は高い。
先手先手で挑戦
 書籍は値段が同じ商品だけに、ニーズを的確にとらえたサービスが重要。立地場所を含め、店に特徴を持たせ、さまざまな顧客ニーズを満足させるべく、先手先手で挑戦してきた。次の飛躍に向けたチャレンジが首都圏進出だが、競争はこれまで以上に厳しいはずだ。これまでの実績を背景に、新たな顧客のニーズをいかにくみ上げ、どう心をとらえるかがカギとなる。




半導体製造へ応用し生産効率を2倍以上に
  パソコンや携帯電話の製造工程で不可欠なプリント基板の表面実装という作業を行う機械で、高シェアを持つミナミが注目を集めている。プリント基板向けのノウハウを応用し、開発した半導体の後工程向け技術が第16回中小企業優秀新技術・新製品賞(りそな中小企業振興財団・日刊工業新聞社選定)の中小企業庁長官賞に輝いたからだ。
 “ガリ版”ともいわれるスクリーン印刷を使うことで、従来難しかった半導体チップと同じ大きさでの回路保護(パッケージング)を可能にした。関係者からは当初「そんなこと、できるはずがない」と指摘された技術。創立25年でのこの受賞は、同社の(1)速くて安い、容易なモノづくりへの熱意(2)あきらめず挑戦するトップの姿勢(3)たゆまぬ業容変革−が結実したものといえる。
 今回の技術は、素材がそろっていても、使える部品にするのに多くの時間をかけなければならない現状を改善する。いま標準の8インチ半導体ウエハーの場合、五つほどの工程を省略でき、生産性を2倍以上に高められる。
 通常、ウエハーから切り分けられたチップは、パッケージに搭載されるが、載せただけでは電気信号をやりとりできない。そこでチップからの電極とリードフレームを1本ずつ金細線でつなぎ、密封する必要がある。半導体チップの微細化、高機能化に伴い、この接続作業は物理的に不可能に近づいていたものの、一連の流れをスクリーン印刷機で代替した。
皆があきらめたものにビジネスが
  ただ印刷機といっても一般の印刷とは違い、半導体業界でも存在しない技術。「代替技術ではあっても、新たな世界を創造した」と同社の村上武彦社長が自負する。機械の精度アップはもちろん、材料(ハンダペースト)の改良など周辺技術の開発にも挑んだ。材料メーカーには「そんなもの、できない」とさじを投げられたが、対話を重ねて完成にこぎつけた。
 こうした経験を経て、村上社長は「みんながあきらめたものにこそ、一番魅力がある。何で困っているのか、それを探して解決すればビジネスになると確信している」とモットーを語る。同社を“村上教”と評する人もいるほどのカリスマ社長であり、開発では特許取得、情報収集でも率先垂範。ただ、優秀な若手社員は育ちつつある。半導体分野に本格参入したのは2、3年ほど前だが、同社の軌跡は平坦ではなかった。建設資材販売を出発点にカメラレンズの刻印加工、表面実装用機械開発…と時代の変化を読みながら業容を変えてきた。「一つひとつ実績を出していけば『社長がいっているのも嘘じゃない。じゃあ、一緒にやろうか』と社内が動き出す」。熱っぽい村上社長の言葉に経営のヒントがぎっしり詰まっている。
「大企業は中小の技術使え」
 社長は、知人だった同社創業者から請われて、道路舗装を手がける建設業から転身した人。モノづくりへの愛着は同じでも、ひと味違う発想と、ずば抜けた粘りを身上としている。
 プリント基板用の印刷機で世界10%という生産シェアを維持できているのは、大手ライバル企業に負けないという強い意志による。「大企業には中小企業の優れた技術を使い、日本経済を引っ張ってほしい。このままでは競争力低下を免れない」。この危機感こそが新たな技術を生んだ。


安全で発色鮮明
 専門家向けの本物志向の水彩絵の具を製造販売する「企業組合まっち絵具製造」は、「Match Colors」ブランドで展開している。1973年に商店や小企業の個人13人が組合員として出資、設立した。小出宗治代表理事は、株式会社に似た組織だという。社名のまっちは、調和という英語が由来となっている。
 小出氏は若いころから、水彩画を描き、芸術を愛してきた。独自の水彩絵の具の研究開発に取り組んだきっかけは「絵の具に疑問や不満があったから」という。
 当時、国内外メーカーの水彩絵の具の原料となる顔料には有毒な重金属や、腐敗しやすい糊(のり)を防腐するための強力殺菌剤が使われていた。加えて、2色以上を混色すると色調彩度が落ち、透明度も失われた。
 創立時から環境に優しくて安全性が高く、混色しても高彩度を保つ水彩絵の具の製造研究に、独自に取り組んだ。材料の性質から製造方法まで、基本知識から習得して研究を繰り返した。
 5、6年かけて理想に近い製造法を完成した。安全性の高い合成顔料だけを使い、でんぷん糊は使用しないで、色伸びが良くて腐敗しにくい天然アラビアゴムを採用した。そのため殺菌剤は、他社の数十分の1と微量で環境に優しい。河川や下水を汚染しない。
広報は手作りのホームページで
 一方、紙面上に色を置いたときの透明感と鮮明さも実現した。この美しい色の製法技術は、同社の強みと財産になっている。従来の絵の具は、色の粒子の大きさや形状が異なるため、発色が不鮮明で、混色すると高彩度の色調を保てなかった。
 これに対して、Match Colorsは「顔料のサイズを1マイクロメートル(1000分の1ミリメートル)の微粒子とし、形状も均一にして解決した」。顔料を電気・化学反応させて分散。フィルターに通してから、サイズと形状を同じ微粒子に造粒する。光の乱反射がないため、濁らず透明度が高い。
 「他社に負けない、使う人の立場でつくった本物」と自信をみせる。人件費を省いて、高品質の原料を使用してきた。専門家向けだが子供が買える値段で、他社製と価格はほとんど変わらない。
 広報面は、手づくりのホームページを中心に活動している。内容は、サイトの中で「まっち美術館」を開設。水彩画の魅力を伝えるためギャラリーや紙芝居、絵の具の図書館など部屋がたくさんある。毛先が広がらない筆や丈夫なパレットも扱う。毎日5、6件の注文が舞い込む。
 俳優で水彩画を描く榎木孝明さんから絵の具の注文がきた。同社の絵の具の高品質が、専門家の間でも知られている証拠。「長野県内でも使う学校が増えている。課題はどうしたら使っていただけるか」。いまは、販売に力を注いでいる。
高品質をアピール
 実際に目の前で混色して、他社製との違いを見せてもらった。透明度や彩度は極めて鮮やかで、他社製との違いは歴然としていた。品質が良いのだから、あとは、いかに理解して使ってもらうかだ。コストはかかるが、画材店や美術展、学校などに出向いて、実際に違いを見てもらうのが一番ではないか。高品質をアピールして顧客が増加したとき、企業組合まっち絵具製造は、日本を代表する絵の具メーカーになる可能性を秘めている。


ネットで受注、足の形状を立体計測
 続けることが大事−。太平洋製靴の社長は、そう言い切る。85年に紳士靴の製造の会社を興した。現在は、紳士靴1万9000円、婦人靴2万5000円でオーダーメードシューズを手がけている。
 98年、神戸市長田郵便局の「ふるさと小包」をきっかけに通信販売を開始。99年にホームページ(HP)を開設し、ウェブ上でも受注できる体制を整えた。今では全国各地から注文があるほど、知名度が上がっている。01年には本社と「シューズプラザ」(神戸市長田区)の売り場に、「3D計測システム」を導入した。足の形状のチェックポイントを6万カ所にわたって立体計測できるものでデータ計測の精度は大幅に向上した。
 履いてみないと分からない靴をどうやって通信販売するのか。まず足形を採寸するため、注文主にドイツ製スポンジを使った採寸器を送付。左右の足で踏んで足形をとってもらい、採寸器ごと返送してもらう。返送された採寸器をもとに足裏・足囲のデータをとり、本社工場で一足ずつ手作りで製造する仕組み。さらに製品の靴を届けた後、顧客が履いてみて違和感がなくなるまで修正を繰り返す。
顧客に育ててもらった
 オーダーメードシューズを始めたのは97年。当時は、低価格を武器にした中国製品の躍進がすさまじく、金谷社長は「このままでは生き残れない」と危機感を強くした。そこで「個々に合う靴を作れば顧客に支持される」(金谷社長)との思いから、オーダーシューズの製造を手がけるようになった。
 だが「オーダーメードを始めた当初は、顧客に怒られてばかりだった」(同)と振り返る。技術的にも、会社の対応についても、クレームは尽きなかった。「オーダーなのに顧客の満足する靴作りができず、実力のなさに落ち込むこともあった」(同)という。
 クレームを誠実に受け止め、顧客に時間をもらって納得するまで何度も何度も作り替えた。その姿勢を貫くことで、徐々に顧客の信頼を得られるようになったという。「顧客に納得してもらうまで何度でも作り直す」−。これが現在の靴作りの原点となっている。
 「顧客に育ててもらった」と金谷社長は感慨深そうに語る。「技術を押しつけるのではなく、顧客の声から学んだことを事業に生かす。この繰り返しが一番大切」と金谷社長は断言する。
 7月末には、東京に念願の単独店舗を出店する。売り場には「3D計測システム」を設置するほか、神戸本社と東京店をつなぐテレビ電話システムを導入する予定。また東京進出に合わせて商品群の充実も図る。紳士靴ではファッション性の高いロングノーズデザイン、婦人靴ではロングノーズデザインやセミオーダーパンプスなどをそろえる計画だ。「『フット・フィッター』ブランドを育てていく」。金谷社長の夢は膨らむ。

徹底した顧客視点が奏功
 デジタル(ウェブ上での注文受け付け、3D計測装置)とアナログ(一足ずつ手作り)をうまく融合させた事業モデル。製品として送付後、顧客が履いてみて違和感がなくなるまで修正を繰り返す。この方式が好評で現在は注文が追いつかず、納期は2カ月が普通。徹底した顧客視点が、履いてみないと分からない靴のオーダーメードを通信販売で軌道に乗せている。




豆腐、豆乳を活用
 豆腐とチョコレート。日本古来の食べ物と、西洋のお菓子をドッキングしたのが「豆腐生チョコレート」。永平寺禅豆腐や、ごま豆腐の製造・販売で全国的に知られる幸伸食品が「健康」と「人間の幸せ」を視点に開発したヒット商品だ。
 永平寺禅豆腐、ごま豆腐は、白山の伏流水と国産100%の大豆で製造、全国のデパートやスーパーなどで販売している。今では販売量の95%が県外向けになっている。また、同社は豆腐という古来の商品を扱っているにもかかわらず商品開発志向が強く、中小企業ならではのフットワークとアイディアを駆使して豆腐、豆乳を活用したシューマイ、ハンバーグ、焼き菓子などを次々と商品化してきた。
 その中から生まれたのが豆腐生チョコ。動物性の生クリームの代わりに、搾りたての豆乳を使用した。一般の生チョコよりカロリーが約30%少ない。しかも豆乳には、骨粗しょう症などの更年期障害を緩和する大豆イソフラボンを豊富に含んでいる。イソフラボンは1日に40ミリグラムの摂取が理想といわれるが、豆腐生チョコ1箱(16粒=76グラム)に20ミリグラムを含む。
経営品質で日本一目指す
 77年に有限会社幸伸食品を創業した久保博志社長。年商約10億円の現在も有限会社のままだが、「会社は格好ではない。常に身の丈経営に徹し、『目指せキラリと光る小さな優良企業』をキャッチフレーズに経営品質で全国一を目指す」という。
 社員30人の少数精鋭主義。顔が見えない顧客に向けての商品づくりは「感謝の気持ち」。この感謝の気持ちを表すため、製造現場は食品の安全性、安心性を第一に設計したし、遠隔地への出荷には独自の専用発泡スチロールケースを開発し、出荷後の温度管理を徹底、顧客の手元に商品が届くまで品質管理にこだわった。
 同社は02年4月に永平寺町にアンテナショップとして工場直営店「幸家(さちや)」をオープンした。全商品の販売と豆腐料理レストランを併設し、竹林に囲まれた自然の中で創作豆腐料理、豆腐会席、豆乳パスタ、豆乳デザートなどが堪能できるようにした。また、来店者の感想、要望、苦情をキャッチし、商品改善、新製品開発につなげている。
 久保社長は「世の中は常に進化する。商品開発も絶えず進化しなければならない」と豆腐をベースにした開発型企業の道を着実に歩む。「21世紀は開発に挑戦し続ける企業しか生き残れないだろう」と言うのが持論だ。
 また、「21世紀は、もの、金でなく心の時代だ」と強調する。その心とは「幸せと健康」。人材育成は「幸伸食品とかかわり合う人の幸せと健康のために社員一人ひとりが何ができるかを考え、実践すること」であり、この理念の徹底が経営トップの日々の大きな仕事だ。
 同社のこうした人材育成と技術開発力は、農林水産省主催全国優良ふるさと食品コンクールの新技術開発部門において5年連続で受賞していることでも証明されている。
産学連携にも積極的
 「中小企業は資金や人材に乏しく、量、質の両方はとれない。わが社は質を徹底追求する」と久保社長は強調する。豆腐商品を中心に「うま味」にこだわる。「かくし味は何か」との問いに、久保社長は「素材のうま味を出す技術開発力」と即答した。地元の大学との産学連携による最新の技術開発、情報収集にも積極的だ。幸家は「経営品質を高める拠点」であり、幸伸食品の21世紀の“羅針盤”の役目を担う。




オンラインプリント事業好調
 フィルムを使わないデジタルカメラの普及で、昔ながらの街の写真館は苦境に追い込まれている。そうした中、富山県を中心にプリントショップを展開するジャパンビジュアルサポートは、デジタル技術を駆使した写真ビジネスに挑戦。宮崎一郎社長は「一つひとつの商品に目新しいものはないが、運営方法で当社ならではの独自性を出している」と強調する。業績も他のプリントショップの売り上げが大幅ダウンしている中で、微減にくい止め、健闘していることを見ても、新しい挑戦が成功しているといえそうだ。
 同社の主力はプリントショップ事業で、現在は13店舗を展開、売上比率は約70%を占める。ただ厳しい経営環境下にあって、03年には不採算の2店舗を統廃合したほか、デジタルカメラのプリントが可能なデジタル対応ショップを増やすなど、構造転換を急ピッチで進めている。
 ショップのデジタル化に加え、新規の事業としてオンラインプリントビジネスを03年3月にスタートした。デジタルカメラの画像データをインターネットで送ってもらいプリントする事業で、当初は独自システムを考えたが、コスト面などから方針転換し、コニカのオンラインラボシステムの一部を借りて運用を開始した。「オンラインプリントを富山県内で運営できるのは当社だけ」(同)という。
子供写真館やブライダルアルバムも
 今では軌道に乗り、「今年に入り受注は前年の3倍と大きく伸びている」。7月からはサービスを拡充し、これまでプリントした写真の受け取りは店頭のみだったが、メール便で翌日には自宅などに配送できるようにする。併せてネット上での電子決済も可能にする。
 フィルムによる写真の市場はまだまだ縮小すると見ており、「プリントショップ事業の売上比率は3年以内に50%まで下がる」(同)とし、その分をオンラインプリントビジネスでカバーする考えだ。
 さらに、子供写真館やブライダルアルバムの事業にも期待している。2年前に富山県高岡市のイオン高岡ショッピングセンター内に子供写真館「スタジオアミ」をオープン。7歳以下を対象に、子供にいろいろな衣装を着させて、メークもして写真を撮影、テレビモニターでお気に入りの写真をチェックし、欲しい写真だけをプリントするもの。子供写真館の売上比率は現在、全体の20%を占めるまでになっており、7月末には2店舗目の子供写真館を開設する。
 また、最近のブライダル写真は形式ばった堅苦しいものは敬遠され、デザイン性に富み自由な雰囲気のものが求められている。このニーズを的確にとらえ、得意のデジタル技術を駆使した多彩な表現やデザインに、独自のストーリー性も加えたブライダルアルバムを製作する事業を04年から始めた。人気も上々で、今後の事業の柱の一つとして育てていく。
プリントの逆風を知恵で補う
 写真ビジネスは地域密着型だけに顧客との接点を大事にしたきめ細かな対応が必要だ。子供写真館やブライダルアルバムの事業はそうしたポイントをしっかり押さえている。さらに写真のデジタル化を逆風ととらえず、デジタル技術を積極的に導入、事業発展の武器にしようとしている。プリントビジネスそのものは将来にわたり縮小が避けられないが、技術を売ることで、可能性は広がるはずだ。




0.8ミリメートルの鉄線を切断し球状に
 「うちのラウンドカットワイヤーを使えば、金属部品の寿命が飛躍的に延びるんです」。ラウンドカットワイヤーが入った小さな容器を手に、目を細めながら渡邊吉弘社長は、力強く話す。
 ラウンドカットワイヤーとは0.8ミリメートルほどの鉄線を小さく切断し、一つひとつを丸めて球状にしたものだ。この極小粒の鋼球を、専用の機械でノズルの先から勢いよく大量噴射し、自動車部品の歯車(ギア)やバネなどの金属部品にぶつける。そうすることで、部品の金属表面が鍛え上げられ、部品に大幅な強度向上をもたらす。
 「ショットピーニング」と呼ばれる冷間加工の一種で、加工法そのものは古くからあった。だが、同社は噴射させる従来の金属片(カットワイヤー)に工夫を凝らし、丸み(ラウンド)と硬さを兼ね備えたラウンドカットワイヤーに仕上げることで、一躍、ショットピーニングの世界に新風を巻き起こした。丸みを持たせた分、従来、部品表面に付いたキズがなくなり、一段と寿命向上につながったわけだ。
 国内シェアは90%。現在、国内でショットピーニングの工程で必要とされるカットワイヤーの9割が従業員わずか50人の同社の工場から袋詰めにされ、毎月500トンが全国へ出荷されている。堅調な自動車生産にも支えられ、工場は3交代でのフル生産が続く。
共同開発
 そもそも同社がラウンドカットワイヤーの開発にこぎ着けたのは87年の後半。トヨタ自動車から「自動車用ギアの強度を高めたい。何とかならないか」という話が持ち込まれたのがきっかけだった。すぐさま、両社は共同開発に乗り出し、開発から1年半、金属片に丸みを持たせ、硬さを増したラウンドカットワイヤーの開発に成功、特許も両社が共同で取得した。世界で5社しか手がけておらず、しかもビッカーズ硬度(Hv)850という高いレベルを誇る製品を製造、販売するのは同社だけである。
 成功の秘けつについて、渡邊社長は「トヨタからの要望をもとに開発したので『開発は成功、販売は失敗』という中小企業が陥りやすいケースを回避できた」と分析する。ただ、理由はそれだけではない。同社は社長自らが岐阜大学工学部の学外研究者として4年間、ショットピーニングの共同研究に参加したことも成功に寄与した。
 渡邊社長は基礎研究を同大学で学び、工学博士号も取得。研究開発投資を多くかけられない中小企業にあって、産学連携を有効活用することで、基盤技術を強固にしてきた。こうした努力があったからこそ、トヨタからの依頼、要求にも十分耐えうることができたことになる。
 今後について渡邊社長は「現在のピーニング技術を応用し、あらゆる分野に適用範囲を広げ、もっと技術に磨きをかけていきたい」と力強く語ってくれた。
産学連携が結実
 研究費の少ない中小企業にとって、世界に通用する技術を確立するのは非常に困難だ。だが、渡邊社長は自社技術を信じ、15年以上にもわたり岐阜大学をはじめとする大学機関との連携を強化、パイプを太め、オンリーワン技術を確実なものとしていった。さらに渡邊社長はトップセールスにも余念がない。こうした資金力に頼らない経営手法の浸透が同社の今日を作り上げたともいえる。



製砂システムで圧倒的シェア
 総合機械メーカーの寿工業から分離・独立して丸25年。建設、化学機械から海洋機器、コンピューターソフト、環境機械、外食チェーンまで幅広い企業群を形成してきた。
 寿グループには独自の「企業部制」がある。事業部制よりも経営責任が明確化する分社化である。技研もこの制度で独立した。シンプルな体制こそ、もっとも攻撃的な企業経営という考え方だ。この4月、寿グループは25年ぶりに大規模な再編、再構築を断行した。企業部制による会社分割である。
 これに沿って技研の化学機械部門が分離・独立したほか、傘下の海洋機器、外食チェーンなどの各社も、寿グループ内の兄弟会社に昇格した。この結果、技研は建設機械専業として再スタートすることになった。年間売上高が30億円を超える化学部門の分離は、技研単独で考えると痛手だが、グループ活性化のカンフル剤としてはこの上ない良薬となった。技研自体も破砕機を中心とした建設機械に経営資源を集中することで、業界の深耕と、製品の横への広がりを実現しようとしている。
 その代表が製砂システム。石を砕いて乾式全自動で建設砂をつくる装置だ。ニュージーランドのバーマック社から技術導入し、技研の技術陣が育て上げた破砕技術が生きている。天然砂に比べ、品質はそん色なく、安定供給できるうえ、コストが安いことから、生コンクリート業界の視線も熱い。
「夢の技術会議」
 コンクリート骨材砂は粒形と粒度が重要。競合する大手メーカーの製砂機も天然砂に近い丸い粒形はできるが、粒度では技研に一日の長がある。これだけでも競争相手には大きなアドバンテージ(優位・利点)だが、ヒットした要因は「天然砂の採取が環境問題で一段と厳しくなっていることに加え、砂の売り先を見つけ、比較データを示して、生コン企業へ売るソリューション(提案型)営業が受け入れられた」(奥原武範社長)と分析している。
 すでに21基の実績がある。公共工事が減っている中だが、骨材業界は伸びているだけに「今後の10年間で西日本だけでも600基程度の需要を見込んでいる」(同)と強気だ。生産能力が毎時20−120トンまでのシリーズ化を完了。圧倒的シェアを背景に、高炉スラグやコンクリート建設廃材をリサイクルする派生機械を相次いで製品化し、発売した。
 技研は定期的に「夢の技術会議」を開いている。設計、製造、営業などの若手が“夢のような”製品構想を語る場である。りそな中小企業振興財団から今年度の優秀賞を受けた「ナノ粉砕技術」もここから生まれた。建設機械に特化した新生・コトブキ技研工業。若い技術者のチャレンジが続く。
提携、共同研究で一歩先んじる
 「いま、花開いているのは奥原征一郎代表が技研時代に先見の明を持って導入、あるいは開発を命じた技術」。奥原社長の言葉通り、技研は一歩先んじた製品開発で独自の地位を築いてきた。海外企業との提携、大学などとの積極的な共同研究が、技研の技術を醸成し、製品として形づくっている。このスタンスがある限り、分野トップの地位は揺るぎそうにない。




水圧駆動の自動ドア
 水道は電気エネルギーを使い、ポンプで水圧を加えることにより送水されている。泉工業の泉光男社長はその水道を水資源としてだけでなく、そこにかかる水圧をエネルギー源として使えないかとかねがね考えていた。それがある事件をきっかけに、自社の技術と結びつき、水圧を駆動源とした自動ドアとなった。電気を使わないので省エネに役立つほか、静電気が起きない、低騒音といったメリットもある。病院や老人介護施設など医療福祉分野で、注目され始めている。
 10年ほど前、泉社長は外出先で、老人が自動ドアに挟まれる場面に出くわした。何げない日常に潜む危険。その痛々しい様子に、もっと安全にできないのかと強く思った。そしてあれこれ考えるうちに頭に浮かんだのが、水圧の利用だった。
 同社はもともと工作機械の加工物を固定するために使うバイスを製造。加工技術には長けている。水圧だけで動く自動ドアの原形は、さほど時間がかからずにできた。
 しかし、中小企業が新分野に打って出るのは簡単ではない。売れるものにするには、実際のニーズに対応してきめ細かな改良をし“商品”に仕上げなくてはならない。しかし開発コストは本業のバイス事業の利益を食い経営に影響する恐れもある。「6−7年前は一度あきらめようとしたことがある」(泉社長)というほど苦しい時期もあった。
信念捨てず、商品化
 それでも環境負荷が減らせる水圧利用は世の中に受け入れられるという信念は捨てられなかった。自らを奮い立たせて開発を続け、ドアが動いている最中に人や物が挟まったりすると自動的に止まるようにするなど、完成度を高めた。この自動ドアの完成は全員の自信になった。「工夫次第で電気を使わずに、水圧で動かせるものは、身の回りにはまだいくらでもあるはず」(同)と考え、水圧で昇降する洗面台なども開発した。
 こうして事業化の基礎が整い、01年に三重県上野市で水圧駆動装置を開発するアクア事業部を立ち上げた。02年には水圧利用のアイデアが認められ、三重県のベンチャー総合補助金の1位を受賞、5000万円の補助金を得たこともあり、事業化に向け本格的に動き出した。
 こうして商品は完成したもののユーザーにとっては、ドア全部を付け替えるにはコストがかかる。そこで既設の引き戸にでも取り付けられるよう改良した。開閉時のボタンは通常、表と裏にそれぞれ2個ずつ、計4個を必要とするが、それをドアが閉まっているときに押せば開き、開いている時には閉まるよう工夫して、ボタン数を半分に減らした。
 自動ドアはここ3年で、病院など医療福祉分野に25セット納入した。泉社長は「水圧駆動の技術をもっと普及させたい。基本に立ち返って、いらないものを排除し、シンプルな形で機能を磨いていきたい」とさらに意欲を燃やしている。
広がる水圧駆動の世界
 開発した水圧駆動装置で使用された水は、その後、トイレの洗浄水などとして利用できる。また駆動部分はもちろん、開閉ボタンにも電気は全く使わない。泉社長は「気温や湿気が高い場所や、消毒液を使用する環境でも耐久性が高い」と説明する。浴室や病院、食品製造工場の出入り口ドアなどでの利用拡大が期待できる。




きっかけは親類の悩み
 腰部コルセットで全国トップ。医療用品の開発から製造、販売まで一貫体制を整え、全国の接骨院、整骨院向けの通信販売で業績を伸ばしている。現在も毎月200件のペースで新規取引先を拡大、1万3500の接骨院、整骨院と取引がある。
 同社の始まりはい草のサンダル製造。その後、皮のサンダルや財布、袋物などを手掛けてきた。医療用品分野への進出は、親類が持っていたオーダーメードのコルセットが「痛くて使いにくい」とこぼしていたのがきっかけ。
 裁断・縫製はお手のもの。単に固定するという機能だけでなく、長期間着用できるなど使用者の身になった腰部コルセットの開発に取り組んだ。中小企業の常で、当初は販売ルートもなく苦労したが、発想を変えイラスト入りのはがきで全国の接骨院、整骨院にPR。これが効を奏し平成に入って売上高は1億円を突破するまでに成長した。
 創業以来「もっと便利でもっと喜ばれる製品を」をモットーとしてきた。それだけに、独自開発商品だけでなくユーザーの声を商品化したものも多い。カタログを年1回、2カ月ごとに情報誌を発行、腰部コルセットやサポーターのほかテープ類、シップなど接骨院、整骨院が必要とする商品を紹介する。通信販売が主体で、ユーザーとのコミュニケーションをより強化するため03年4月には敷地面積1700平方メートルのCSセンターも開設した。
CS追求に細心の努力
 CSセンターに注文や問い合わせなどの電話が入ると、自動的にオペレーターのパソコンにユーザー情報が表示されるシステムを導入。即日出荷で注文や市場ニーズに迅速に対応する。新製品や改良品は2カ月に2−3アイテムが目標。社内では毎朝、勉強会を開き、個人目標を設定するなど常にモチベーションを高める。
 同社が得意とするのは、1件あたりの年間販売額が10万円程度の接骨院や整骨院。大病院と比べると小口だが数は多い。これら取引先を着実に広げ、売上高は97年度以降、毎年10%以上の成長を続けている。04年3月期の売上高は14億1000万円、05年3月期は19億円を見込む。
 01年春にはウェブショッピングサイトも立ち上げた。専用のサーバを設置、接骨院や整骨院と双方向で結ぶネットワークを構築しており、商品販売だけでなく、取引先の経営に役立つ情報も提供する。
 また介護者の85%が腰痛経験者というデータを背景に、介護福祉用品分野にも進出。介護者用の腰痛予防帯のほか、介護者の肉体的な負担軽減を図るため寝たきりの高齢者や身体障害者向けの座位保持ベルト、移乗介助用具なども相次いで発売した。
上下一体で知恵絞る
 顧客志向、信用第一、積極進取という経営方針のもと、安心して働ける職場づくりを第一に、社員採用は新卒に限定するなど人材育成に熱心。安定した職場環境の中、社長をはじめ開発部門の社員がミシンを踏む。納得がいくまで知恵を絞り、話し合いから生まれる新製品開発プロセスが同社の強みだ。欧米や中国への輸出も視野に入れている。




旺盛な開発精神
18世紀にフランスで生まれた。可鍛鋳鉄には白心、黒心、パーライトの3種類があり、白心は鋳造性が良好で強靱(きょうじん)、さらには溶接やメッキができるといった特徴がある。わが国には1920年ごろに持ち込まれ、中井工業は1934年の創業当時から専門工場として手掛けた“草分け”の一社。現在では国内唯一の専業メーカーだ。極めて古い技術ながら、より強度の高い高張力白心可鍛鋳鉄(ハイテンマリアブル=HTMW)を開発するなど開発精神は旺盛だ。
 白心可鍛鋳鉄の用途は一般機械部品、自動車・2輪部品、土木材料、景観材など多岐にわたる。同社は地場産業であるラシャ切りはさみのハンドルからスタートし、次々と間口を広げていった。白心可鍛鋳鉄自体は、プレスやロストワックスなど他手法との競合で衰退を余儀なくされたが、同社は堅実に守備範囲を広げた。2輪部品を含む自動車関連が半分近くを占めているとはいえ、新分野開拓には余念がない。
 その一環として開発したのがHTMW。顧客からの「より靭性(じんせい)の高い素材を」という要求に応えたものだ。通常の白心可鍛鋳鉄は、鋳造後に脱炭処理して得られる。これに対しHTMWは、脱炭焼鈍に加え、調質処理することで仕上げる。2段階で熱処理することで、シリコン成分を下げ、マンガン成分を上げた結果、表層は可塑性の高いフェライト組織に、内部はち密なフェライトとパーライトの2層分離組織となった。つまり表層部は軟らかく、内部は靭性が高い新素材が生まれた。
新素材を量産化
 日本工業規格(JIS)の白心可鍛鋳鉄と比べ、引っ張り強度は約10%、伸びは3倍までそれぞれ高まった。曲げ角度は120度から140度だったのに対し、HTMWは360度曲げてもクラックの発生はなかった。一般構造用圧延鋼と比べても優位性は高い。もちろん、溶接やメッキ性は変わらない。
 開発を完了し、量産も始まった。第1弾として電柱にトランスを取り付ける際に用いられる防傾金具に採用された。安全性と信頼性が不可欠な部品であり、形状は極めて複雑。それだけに従来は、鋼材から部材を切り出し、溶接、形状矯正など複雑な工程を経て製作していた。これに対しHTMWは作業工数が大幅に削減され、製品価格は約30%低減できる。
 こうしたメリットを生かし、新市場の開拓に力を入れている。やはり最大の狙いは「軽量化ニーズの高い自動車関連部品」(中井宏明社長)。既存技術と比べ、コストメリットが大きく、時間をかけて普及させる考えだ。ただ弱点もある。工程が少々複雑なので、通常の白心可鍛鋳鉄よりも納期が長いことだ。ただ、これをカバーする技術開発を急いでおり、その成果は近く具体化しそうだ。
課題はリードタイム短縮
 鋳物という成熟分野にあって、開発を優先した企業運営で着実に地歩を固めてきた。提案力にも定評があり、顧客からも評価されている。開発品のHTMWは、白心可鍛鋳鉄の市場をより拡大する可能性を秘めている。ただリードタイムが通常の3倍から4倍かかるのは不利で、これを解消するプロセス開発が不可欠だ。




GPSとデジカメ駆使
 企業から排出される産業廃棄物の不法投棄や不法処理を、GPS(衛星測位システム)とデジタルカメラを組み合わせて追跡・管理するシステムを開発したベンチャーだ。産業廃棄物処理業界に13年間、従事した塚本英樹社長が00年9月に起業した。
 同社が開発した「産業廃棄物追跡管理システム」は、これまで書類上で行われていた産業廃棄物処理の確認作業に、視覚情報を追加したことが大きな特徴。「明確で、より正しいデータを収集する仕組み」(塚本社長)を提供できる。
 産業廃棄物は、法律で定められたマニフェスト伝票に従って処理しなければならない。同社の産業廃棄物追跡管理システムは、このルールに基づき、事業所から出される廃棄物の運搬車両への積み込み、処理場での荷降ろしなどの状況を、処理過程ごとにデジタルカメラで記録する。
 また、GPSは産業廃棄物を運搬する車両が、排出現場から処分場まで定められた運搬経路を移動しているかどうかを地図上で確認するために使う。
 二つの機器で得られたデータを組み合わせて、産業廃棄物の排出から最終処分までを管理し、廃棄物の適正処理を促すという仕組みだ。
松下など大手3社とライセンス契約
 アースデザインは当面、大企業を中心にシステムを普及させる計画を進めている。現在、大手3社をライセンス契約先にして、それぞれの独自ブランドとしてグループ企業への導入を進めている。
 ライセンス販売が安定軌道に乗り始めたことから、今後は代理店を整備して全国的な販売を始める予定だ。
 アースデザインは、システムを導入する企業から、産業廃棄物を排出する事業所単位で利用料を徴収する。料金は産廃物の排出量によって異なるが、1事業所あたり平均月額10万円以下に設定している。
 産業廃棄物の適正処理の可否が優良事業者の評価基準につながることは間違いなく、また電子マニフェスト化の進展でIT技術との融合化も進む。アースデザインにとって追い風となるが、一方で同社のシステムに追随する動きも活発化している。環境規制の強化を引き金として、競争も激しくなることが予想されるだけに、今後の普及活動が重要になる。
 同社は販売活動に力を入れる一方、システムの高度化も急ぐ。今後は情報の量と質を高めるため、デジタルカメラによる静止画像から、携帯電話を使った動画配信に切り替える計画を練っている。また、排出される産業廃棄物にICタグを付けて、処理状況データを画像やGPSと連動させ、正確性を高めたいとしている。
循環社会実現へ志高く
 アースデザインインターナショナルの事業は、書類任せの産廃処理に、人間が目で見て納得する要素を加えた点で評価が高い。産廃業界にデジタル機器を持ち込んだビジネスという側面より、業界の活性化に貢献したいという経営理念が光る。塚本社長は自身の体験を踏まえ、「モノが生まれたら最終的に処分される。すべてが循環される社会を実現したい」という。この発言に、志の高さが感じられる。




関節が動き、ポーズ自由に
 1966年の創業以来、約38年間、ソフトビニール玩具やフィギュアモデル、ガレージキットなど、さまざまな人形を国内で製造し、販売してきたオビツ製作所。大手メーカーが製造コストの安い中国に生産移転し、下請け企業が仕事を奪われて転業、廃業を迫られる中、オビツは一貫して、「職人技術を継承していかなければならない」(尾櫃三郎社長)との思いを持ち続け、国内生産にこだわってきた。
 常に前を見据える尾櫃社長の思いは、約3年の歳月をかけて開発した「オビツボディ」に結実した。この人形は、胴体を支えるための補助スタンドなしで立つことができる世界初の人形で、関節も可動し、自由なポーズが取れる。一本足で自立することも可能だ。「映画マトリックスの主人公のように、体をのけぞったり、くねらせる動きも再現できた」(同)。従来の人形では胴体の重さに関節が耐えられず、足裏マグネットをつけても転倒してしまった。
 「優れた品物を安く売れば、誰もまねできないだろう」(同)。オビツが製造・販売する人形の特徴は、技術優位性だけにとどまらない。海外からの輸入品・模造品が横行する中、スラッシュ成形と呼ばれる技術を手中に収め、中国メーカーに負けないコスト競争力を身につけた。「機械設備が高価なインジェクション成形の金型代に比べて8分の1程度で済む」(同)という。大手プラモデルメーカーの社長が見学に訪れたこともある。
海外からも注文殺到
 新開発の「オビツボディ」は、射出成形による硬質樹脂の骨格に、スラッシュ成形による軟質樹脂の表皮をまとっている。また、人形の命ともいえる眼球にもこだわった。眼球は軟質素材ヘッドのため、接着剤で固定しなくても簡単に装着でき、縦横自在に角度を変えて多彩な表情を楽しめる。「目は口ほどにものを言う」(同)と話す。
 世界が注目するこの人形は、「競合他社に比べて価格は3分の1程度」(同)。すでに米国や韓国、英国、カナダなど、海外からの注文も殺到している。「国内製造業者として生き残るには、特許権を取得できる高付加価値商品を開発し続けるしかない」と尾櫃社長は断言する。オビツでは技術を大切に守り続けるために、2カ月間で600万円以上の特許出願料を支払うこともあった。
 昔は一部の高価な人形を除いて子供の玩具だった人形も、最近では「世界の中で日本のアニメが注目されるようになり、大人もフィギュアを楽しむようになった」(同)。安穏とはしていられないが、市場には追い風が吹く。品質にこだわる日本では、とくにオビツの手作り人形の希少価値が高い。「一体で30万−40万円もする人形を安く提供したい」と話す尾櫃社長の挑戦は今後も続く。
メディアミックスで脚光浴びる
売上高に大きな変動はないが、マニア層を中心に安定需要家を抱えていることが強み。近年は大手玩具メーカーが新市場開拓の切り口として、アニメ映画などと連携したメディアミックス路線で周辺玩具の売り上げ拡大を狙っており、フィギュア市場全体の底上げ効果も期待できる。購買層も金銭的に余裕のある大人へとシフト。技術へのこだわりが売上高に結びつく舞台は整った。





高い技術力
 電子機器や計測機器などのハイテク分野で、高度な技術と製品を持つ中小企業が集積する東京・多摩地域。なかでも“ナノテク”をビジネスチャンスととらえ、高成長を遂げているのがエリオニクスだ。
 同社は、光デバイスなど次世代デバイスの研究開発に欠かせない電子線描画装置で、国内シェア80%を占める。さらに、超微小押し込み硬さ試験機やイオンビームエッチング装置などをラインアップし、総合理化学機器メーカーとして確固たる地位を築いている。
 国内の公的研究機関や大学などへの装置導入が一巡した今、エリオニクスはナノテク分野の研究開発が旺盛な海外市場の攻略に乗り出している。
 中国、台湾、韓国、シンガポールといったアジア地域では高性能の電子線描画装置がないため、引き合いが後を絶たない状況。最近では、米国の企業からの引き合いも相次いでいるという。「アジアでの販売実績を武器に、早いうちに欧米市場への本格参入を果たす」(本目精吾社長)と、当面はアジア攻略に力を注ぐ。
 現在の海外売り上げは総売上高の10%程度だが「3年以内に30%に引き上げ、海外だけで売上高10億円を狙う」(同)と強気の姿勢をみせる。
 エリオニクスが高い成長性を持続できる一番のカギは、大手企業にひけを取らない高い技術力。
成長支える直接販売
 次世代デバイスの開発では、限られたスペースにどれだけ微細なパターンを高精度かつ高密度に描画できるかが重要なポイント。微細パターン加工が実現できれば、一つのデバイスに詰め込む記憶容量が飛躍的に増え、処理速度の向上が期待できるからだ。
 数ある製品の中でも、公的研究機関や大学、企業の開発担当者から特に熱い注目を集めているのが、加速電圧100キロボルトで最小加工線幅5ナノメートルの超微細パターンが描ける「ELS−7000=写真」。微細パターンを長時間安定的に描画できる点が評価され、同社を代表する売れ筋製品にまで成長した。最近は、景気回復のタイミングに合わせ、積極的な設備投資を行う民間企業からの受注が顕著になっているという。
 直接エンドユーザーに売り込む販売手法の導入も、成長を支えるカギ。「直接開発担当者と話すことで、真のニーズや課題が明確につかめる」(同)メリットに加え、「顧客の言葉に次の開発テーマが隠されている」(同)だけに、営業体制の強化にも本腰を入れる。
 エリオニクスは今後、イオン応用装置の製品開発に注力し、第2の収益の柱に育てていきたいと考えている。すでに開発資金の大幅投入を検討するなど、一歩先を見据えた取り組みが動き始めている。
安易な連携はせず
 研究開発で使われる場合がほとんどのため、産学連携による製品・技術開発が不可欠。現在進行中の産学連携案件は4件。「付き合いレベルでは取り組まない」(本目社長)とのポリシーから、安易な連携はしないという。その言葉の裏側には、大手と対等に渡り合える高い技術力を誇る自負が見え隠れする。
社会貢献型の事業
 ハラテックは九州大学大学院農学研究院の原敏夫助教授らが2003年3月に設立した九州大学発のベンチャー企業。大学の研究成果を社会に還元したいという強い思いから会社をおこした。創薬ベンチャーとして一獲千金を狙うのではなく「社会貢献型の事業にする」(原助教授)ことが目標だ。
 事業内容は原助教授の研究成果である「納豆樹脂」の開発販売。納豆樹脂は納豆の粘りを出す主成分であるポリグルタミン酸に放射線を照射し凍結乾燥したもので、自重の2000倍以上の重さの水を吸水し、平均2週間程度で土に分解する特徴を持つ。例えば粉末1グラムを2リットルの水の中に投入し、かき混ぜると「水がすぐにゲル状になる」(原助教授)というものだ。同社では化粧品メーカーに対して、保湿効果の高いスキンケア商品の原料として納豆樹脂を販売しているほか、自社でも保湿剤などを販売する計画だ。
砂漠の緑化計画も
 このほか、04年3月には納豆菌を使って家畜排せつ物のたい肥化を促進する副資材「ブロスポリマー」も開発した。おがくずなど他の副資材に比べ、200分の1の量、2倍の速度でたい肥化できるという。11月には「家畜排せつ物の管理の適正化および利用の促進に関する法律」が完全施行され、家畜排せつ物の野積みが禁止される。野積みで対応してきた畜産業者は敷地内に大規模な処理・保管施設を整備する必要があるが、ブロスポリマーを使えば小規模な施設で対応することも可能となる。04年度末までに製品化し、販売する意向だ。
 また土の中で分解する紙おむつの製品化も検討している。従来の紙おむつの吸水剤は分解しないため、処分するには高温焼却しかなく、ダイオキシンの発生原因の一つになっていた。さらに将来は納豆樹脂を使って砂漠の緑化計画を進める構想も持っている。納豆樹脂に泥と水と草花の種子を混ぜて砂漠に投入すれば、泥の中の養分と水が徐々に溶け出し、種子が発芽するという。極めて保水能力が高い納豆樹脂を使えば、砂漠の緑化も不可能ではないと意気込む。
吸水性と生分解性
 納豆樹脂の特性を生かした環境関連事業を模索している。技術面のポイントは「極めて高い吸水性」と「生分解性」で、それらの特性を活かせる分野で新製品開発を進めている。





耐水紙と樹脂を使って
 イクティスは水中でも自由に使える本格的な耐水魚類図鑑を生み出したベンチャー。この図鑑はダイバーのフィッシュウオッチング用携帯タイプのガイドブックとして、会社を設立した1999年に刊行した。これまでダイビング・スポーツ用品店などを販売窓口として、プロダイバーを中心に愛用されており、累計販売は2万部を突破した。
 仙台市などが起業家発掘を狙いに主催している「仙台ビジネスグランプリ」で社長の伊藤秀樹氏が優秀賞を受賞したのが起業のきっかけ。事業化のテーマとなった独自の耐水図鑑は、魚の写真を耐水紙に印刷。この耐水紙に耐久性を持たせるため薄い樹脂製板で挟み込んでいる。
プロだけでなく一般向けにも
 同社の原点となる図鑑事業に関しては創業から5年目を迎え、プロダイバー向けが「ほぼ行き渡った」(伊藤社長)と認識。次のステップとして、一般向けに「進化」を遂げようとしている。プロ向けの図鑑だけでは市場の広がりに限界があると考えるからだ。当面は、一般向けに販売する、水陸兼用で使える魚類図鑑を編集することがテーマ。新たな図鑑の発刊に向けては、同社ホームページを通じた「完全予約販売」のスタイルを採用して「じっくり攻めていく」(同)方針を固めている。
 その一方で、事業の多角化など「変革」に向けたを試みも必要と考え、新規事業として「大学」を顧客とするニュービジネスに乗り出すことになった。
 学術系業務をスタートしたのは03年9月。学会など学術大会の開催に伴う専用webサイトの構築など「事務局機能」の代行などを手掛けるサービスを立ち上げている。研究室や研究プロジェクトの報告書作成にも対応。すでに地元の東北大の研究者が取り組む研究プロジェクトの報告書(CD−ROM)作成などの受注を獲得した。文部科学省の進める21世紀COEプログラムに採択された案件に関連して実績を重ねている。
地元との連携が事業に発展
 地元大学など各方面との連携を深めてきた中から、大学を顧客とする新事業が生まれた。図鑑事業だけでなく、学術系業務も新たな経営の柱とする考えだ。






がん治療装置にも
 山本ビニターは得意の高周波技術を駆使して事業展開を進めている。この技術を応用した加工機はビニールやプラスチックといった分野だけにとどまらず、現在は医療、食品、木材などの分野にまで及んでいる。今後もこの強みを生かして事業領域の拡大を狙っている。
 創業は1953年で、ビニール生地の卸売り販売でスタート。しかし、テーブルクロスなどのビニール加工品が市場で拡大するためには加工機の開発も必要と判断。高周波という電波を使って素材を加熱して溶着させたり、乾燥させたりする独自技術を確立。具体的にはフィルムやシートの溶着、冷凍食品の解凍、木材の乾燥などに使われている。
 中でも注目されるのが、京都大学と共同で開発したがん治療装置「サーモトロン−RF8」。がん細胞が熱に弱いという点に着目したもので、高周波で悪性腫瘍(しゅよう)の組織だけを加熱できるようにした。77年から8年がかりの共同研究を経て製品化にこぎつけた。「当時の経営状況から見ると考えられない投資だった」(山本泰司社長)と振り返るが、がんの温熱治療(ハイパーサーミア)が認知される中で着実に販売実績を積み上げた。最近では、高周波と蒸気による木材向け複合乾燥機「ディーウェル」を開発。高周波で材心部を100度C程度で加熱するなど省エネ化とともに、乾燥時間も大幅に短縮した。同機は第48回木材加工技術賞、第49回林業技術賞のほか、このほど第1回木材利用技術開発賞で林野庁長官賞を受賞し、3冠を達成した。社是である「常に一歩前進」の精神は健在で、現在は小型化の研究開発を進めている。
50周年からの飛躍
 昨年、創立50周年の節目を迎えると同時に、“チャレンジ50”を掲げ、第二創業期に入った。高周波テクノ事業部、メディカル事業部、ライフ事業部の3本柱で事業展開するが、ライフ事業部では従来のレインウェアやレジャーウェアに加え、健康・美容関連商品も扱い、すそ野を広げる戦略だ。
技術の継承にも重点
 得意の高周波技術については「特化してきたことが良い結果につながっており、さらに応用範囲を深めていきたい」(同)という。技術の継承という観点から有望な若手を選抜し、マンツーマン指導、人材育成にも余念がない。



バランス経営を重視
一言で表現すると「バランス経営」ということに尽きる。1961年の創業以来、掲げるのは「挑戦」。だが、このチャレンジは時代、時代に的確に対応した柔軟な経営姿勢と言い換えても良い。やみくもに突っ走ることもなければ、小さく縮まることもない。チャンスには淡々と手を打ち、ピンチには冷静に対処してきた。
 機械工具商社としてスタートしたが、ほどなく自社製品開発に着手、さらに自動車部品にも守備範囲を広げた。現在の売上比率はワイヤハーネスなどの自動車電装部品55%、自社製品8%、機械工具販売37%といったところ。自社製品をまずは10%台まで引き上げるのが目標だ。
プレス機、成形機も
 長年自社製品部門を支え、現在も中心的な地位にあるのが小型卓上プレス。通常の機械金属向けだけでなく、薬品、食品業界でも広く使われている、息の長い商品だ。
この自社製品部門に久々に「マウスガード・マウスピース成形機」のニューフェースが登場した。中国歯研(広島市西区)の特許を広島大学の技術アドバイスを受け、シージーケーが商品化したもの。これに素材を扱うモルテン(広島市西区)が加わり、異業種グループを結成。開発、製造、特許、市場調査と販売に役割分担、本格事業化に入った。すでに大手医療機器商社と代理店契約を結んでいる。
 この成形機の名称は「クリスタルフォーマー」。過激なスポーツなどでの事故からあご、口、頭部をガードする歯科向け用品だ。独自の真空成形技術で気泡がなく、装着感の良いマウスガードを素材からつくり出す。国内に競合製品がないのも魅力。現在使われているのは外国製の汎用品だが、欧米系の人種と日本人のあごの骨格が違うため、フィットしないことから、新たな市場創造に期待が高まる。
 売上高のベースを担っているワイヤハーネスは完成車メーカーの相次ぐ中国進出に呼応して、中国広東省の東莞市に工場進出している。「将来は中国をものづくりの拠点にし、国内は開発に専念したい。自社製品についても研究開発だけ残し、ファブレスでやるのが理想」(下河内一成社長)という。
産学連携の成果も導入
 好況に支えられて自動車部品は好調だが、自社製品の研究開発にも余念がない。新しい成形機はこれまでのノウハウに産学連携による新しい成果を導入したものだ。






社員7人の知恵を結集
 日本でも有数のモノづくりの町・東大阪でも、小さなガリバー企業として独自色を発揮しているユタカ。企業理念に「想像を形にして社会に貢献する」を掲げ、7人の社員が知恵を集めて、他社にまねができない各種の精密自動検査選別装置の開発に全力を傾けている。
 2003年末、それまでの長屋風の貸し工場から新天地を求め、総工費2億円を投じて現在地に新本社工場を完成した。現在とくに力を入れているのは、直径が40マイクロメートルという極細球状ハンダの検査選別機だ。
 極細球状ハンダはボール格子端子(BGA)と呼ばれる球状物体で、コンピューター心臓部のCPU(中央演算装置)に組み込む部品として使われる。現在、主に使われるBGA径は300マイクロメートルタイプだが、半導体の集積度アップと軽量化に伴って、さらに極細化が求められている。
 また、05年に控えた鉛フリー化への対応も極細化を加速する。半導体メーカーにとっては、鉛に代わり高価な銀、銅やビスマス、スズ材料の使用が避けられなくなっており、材料コスト削減のために2年後には、「BGA径100マイクロメートル」は必至とされる。
カギを握るのはローラー
 球径100マイクロメートルというと一見すると粉末状態で、これを2軸ローラーを使い良品、不良品に選別するのには高度な技術が必要だ。原理的にはローラーでミカンの大中小を選別する方法に似ているが、このローラーの形状などに「マル秘」の技法が込められている。
 その結果、BGAを誤差0.2マイクロメートルの精度で、毎分1万5000個を自動選別する技術が確立されている。同社と連携して研究開発を行っている京都大学の松坂修二助教授は「極細ほど付着性が上がり、転がりにくくなる。この点をクリアした、世界がまねのできない技術だ」と同社の技術を評価する。





世界から注目集める

 独自技術を持つだけに、国内はじめ海外のインテル、モトローラやノキアといった大手メーカーからも訪問が絶えない。安田憲司社長のもとには「航空券を送るので技術指導を頼めないだろうか」といった相談も舞い込む。安田社長は「厚かましい話」と思いつつも誠実に対応している。
カテキンが効果発揮
 アトピー性皮膚炎に配慮した入浴製品を核とするベンチャー企業だ。オリジナルの入浴剤とタオル、スポンジを東急ハンズや全国の薬局で販売し、アトピー対策のヒット用品に育てている。浜下敦子社長は1999年に同社を設立し、ウーロン茶の葉や茎を煮て濃縮した液体入浴剤「キュアエッセンス」を商品化した。東急ハンズではこれまでに2万個以上の販売量実績を上げている。
 ウーロン茶は皮膚に薬効があるとされる成分「カテキン」の含有量が茶葉ではもっとも多い。その中でも特に台湾製の茶葉にカテキンが豊富に含まれていることを発見し、独自製法で製品化した。利用者からはアトピーだけでなくニキビの改善、保湿効果もあるとの反響が数多く寄せられているという。
自らの体験が役立つ
 事業化は、社長が自身の子どものアトピーで長年悩んでいたことがきっかけとなっている。さまざまな医療機関や薬物で治療したが、一向によくならず途方に暮れていた。そんな時、昔ながらの薬草に詳しい高齢者から「薬効がある植物がよい」とアドバイスを受けた。わらにもすがる気持ちでいろんな植物を調べてみると、多くの植物に共通の有効成分としてカテキンを発見。そこでカテキンに富む身近な素材としてウーロン茶を入浴剤に試してみると、子どものアトピーは半年で完治したという。
 同じ悩みを抱える多くのアトピー患者にも役立つと確信し、ビジネスにも関心が強かったため、起業に踏み切った。個人事業のため原料の調達や製造には苦労したが、地道な販路開拓や店頭での販売促進キャンペーンも展開。口コミで自然志向や症状の緩和例が広がったほか、テレビ番組にも取り上げられ、人気に火がついた。
 さらにほかの素材を使った新商品としてボディタオルの「手ぬぐい」と身体を洗うスポンジの「綿スポ」も開発。手ぬぐいは奈良県産の手紡ぎ・手織りの「和紡布」が原料。手づくりで肌に優しい素材で、強くこすっても肌を痛めにくい。綿スポは肌に直接当たらない内部に抗菌加工をしたスポンジ。安全、清潔に汚れが落とせる。キュアエッセンスと合わせて入浴製品のラインアップを構成し、アトピー向けの需要を開拓している。
供給体制の確立目指す
 課題は販売量の拡大に伴う安定供給体制の確立。浜下社長は「委託製造のパートナーを募りたい」と望んでいる。