元気な中小企業

累計販売1200台

 氏家製作所は破砕機「グッドカッター」の製造・販売を手がけている。この破砕機は、ダライ鋼(鉄スクラップなど金属の切削加工くず)処理装置を原型としている。1986年に異業種交流の成果として製品化された。その後、2軸タイプの変則ねじれ刃「ヨカッター」を用い、産業廃棄物や刈り込み枝の破砕機を開発。破砕品目を増やしながら、大型機から小型機までシリーズ化している。同シリーズの累計販売台数は1200台を超え、20年もの間、幅広いユーザーに販売し続けるロングヒット商品となっている。
 製品のコンセプトは『リサイクル』だ。特に破砕機をベースとした「緑のリサイクルシステム」は、枝葉の破砕から堆肥(たいひ)原料の製造までを一貫してこなす。破砕機の剪断力と圧縮力によって剪定枝の切り口にひび割れが生じ、そこから微生物が入り込んで発酵しやすくなる。枝葉は常温で約3カ月発酵させ、堆肥にする。「ゴミの廃棄量を減らすだけでなく、良質な堆肥をつくることで有機農業の振興にもつながる」と好評を得ている。
 緑のリサイクルシステムは栃木農林公園、旧日本道路公団、東京都青梅市役所、東埼玉資源環境組合など首都圏を中心とする約30の自治体や公共団体に納入実績を持つ。これらの自治体や公共団体には年に数回、導入を検討している他の自治体やプラント業者などが見学に訪れているという。
書類・CDを段ボールに入れたまま処理
 ほかにも生ゴミ、牛乳パックやペットボトルなどの容器、基板(プリント基板、IC基板)、畳・カーペット廃材など、さまざまな破砕用途に合わせて破砕機を開発している。廃棄物を破砕してゴミの減量化や輸送コストの削減につなげるだけでなく、リサイクルの仕組みをつくりながら社会貢献している。
 同社は製品の品質と信頼性を高めるため、2000年12月に品質保証・管理の国際規格であるISO9001の認証を取得した。ISOの取得により作業性が向上したほか、後継者の育成や技術の継承にも役立てている。また、2001年10月には、技術力や環境面で優れている工場を埼玉県知事が指定する「彩の国工場」に選ばれた。
 2003年5月の個人情報保護法施行により、官公庁や大企業から機密書類の粉砕ニーズが高まっている。これを受けて同社は、これまでの破砕技術のノウハウを生かし、大量の書類やCD、DVDなどを段ボールに入れたまま処理できる破砕機を2005年秋に完成した。「今後も製品サイズや破砕品目の拡充を図り、全国への営業を幅広く展開したい」(氏家哲男社長)とし、技術力の向上に努める。
緑のリサイクルシリーズ
破砕品目拡充、需要つかむ

 氏家製作所は変則ねじれ刃を武器に、破砕機をシリーズ展開している。リサイクルのしやすさを念頭に置き、「世の中から必要とされる破砕機を提供し続けたい」(氏家社長)と、破砕品目の拡充に取り組む。
 緑のリサイクルシステムをきっかけに、公共機関への納入実績が増えた。現在の販売比率は公共機関向けが約30%、企業向けが約70%。製品開発を加速し、官民問わず需要の拡大を狙う。





飛距離が出るドライバー開発

 金型製造や産業機械製造に携わるアルモウルドは、1967年(昭42)の創業。中古旋盤1台で始めた事業は着実な広がりを見せ、現在では従業員70人を抱えるまでに成長した。
 同社は精密加工技術を柱に、半導体産業や記録メディア向けの製造装置、自動車関連の試作のほか、食品機械や医療機器業界などへ事業分野を拡大している。金属や鉄、ステンレス、アルミ合金、チタン合金、セラミックスなど、加工領域も幅広い。
 高度な技術を追求する一方で、ユニークな自社製品も生み出している。その一つが、チタン素材を使ったオーダーメードのゴルフクラブ「プロミネンス」だ。8年ほど前に発売して以来、口コミを中心に広がりを見せ、現在までに約700本の販売実績があるという。
 さらに2005年にはジルコニウムを混ぜないために反発力が強い新しいチタン素材を使ったクラブも完成した。一般的なゴルフクラブに使われているチタン素材は粒が大きい原子を含んでいるため、素材がたわみにくく、反発力を弱くしている一因となっていた。
 同社は真空鋳造を用いることで、溶接を使わない一体型のヘッドを実現。一般的なゴルフクラブのフェース部は棒状のチタンを加熱して鍛造加工するが、同社が採用した新チタン素材は「溶接がなく、ひび割れしにくい」(岸野昭二会長)という。
 既存ユーザーに試打してもらったところ「一般的なチタンを使ったドライバーより20−30ヤード飛距離が出る」(同)という高評価が得られている。ドライバーのほか、スプーン、クリーク、アイアンのセットを製品化して販売を始めた。
総アルミ製の鳥居とお社も
 一方、社員が仕事の合間に手作りした製品が商品化された例もある。同社の有帆工場(山口県山陽小野田市)内には総アルミ製の鳥居とお社がある。有志の社員が2カ月ほどかけて製作したもので、これを一般向けにも販売している。
 お社の大きさは高さ1600ミリ×幅1000ミリ×奥行き1200ミリメートル。鳥居は高さ2000ミリ×幅2300ミリメートル。ワイヤカットや放電加工、金型技術など、機械製造や精密加工に携わる同社の技術を結集して作り上げた。
 木製と違って雨にさらされても腐食しないのがメリット。価格は1セット280万円前後と「木造のものより安価で提供できる」(同)という。「元気のいい企業に、ぜひ買ってほしい」と岸野会長。これらの製品は主にホームページを通じて販売しており、同社の存在を知らしめる上で格好の宣伝材料となっている。
アルミ製のお社と岸野会長




半導体の外観検査技術を応用

テスターやハンドラーなど半導体業界向けの製造装置、検査装置のメーカー。レーザーダイオードのセンサー部分の製造装置などでは世界的にも高いシェアを誇る。こうした技術的な裏付けを背景に、現在ではテレビ電話や映像監視の分野に進出している。
 「半導体関連の外観検査は20年ほど前からやっていた」(松尾勝憲社長)という同社。半導体工場は世界中、24時間体制で動いている。この製造現場のメンテナンスを遠隔地からでも行うことができないか−。そのために音声、映像などをリアルタイムで伝達するシステムを構築しようというのが、同社の取り組みのきっかけだった。そんな中で生まれた独自の画像圧縮技術「KAM映像圧縮技術」が新領域への参入を促した。
 これを活用した製品の一つが、テレビ電話システムの「パソテル2」だ。インターネットを利用したテレビ電話システムで、同社独自の動画像データ圧縮技術を応用。標準サイズで320×240ドットという画面の大きさと、その鮮明さが売り物だ。
テレビ電話と監視の両システムを展開
 テレビ電話を利用するには、ブロードバンドネットワークへの加入とパソコン、マイク、USBカメラが必要だが、カメラがなくても音声のみの会話は可能。通信会社の使用料固定サービスの加入者であれば、プロバイダーの契約料金だけでテレビ電話が実質使い放題になる。
 「他社の商品の映像とは比べものにならない」と、松尾社長はその品質には絶対の自信を見せる。「リアルタイムテレビ電話の画像を実感してほしい」と、ホームページ(www.pasotel2.com)にアクセスすれば、2006年5月までは無料でテレビ電話ソフトと電話番号が入手できるようにしている。
 また、この画像圧縮技術を使った「ライブサーバ」というシステムも広がりを見せ始めている。監視カメラポイントに小型エンコーダーを設置し、ネットワークを介して複数の監視場所と結ぶ。監視センターなどは設ける必要がなく、ネット上のどこからでもアクセスできるという自由度の高さが特徴だ。
 使用するカメラは通常のアナログカメラでいい。リアルタイム画像でありながら、最高30フレームをそれぞれ独立して操作できるという画期的な操作性が魅力だ。
 今後さらに事業領域を拡大しようとしている同社だが、松尾社長は「絶対に勝つものしかしない」と、明確な経営戦略に基づいた展開であると話す。既に半導体業界では確固たる地位を築いている。映像の分野でも国内外市場で大きく飛躍する時を待っており、複数の企業とのアライアンスを模索している。




納期は業界最短

 モビーディック(宮城県石巻市)は、スキューバダイビングやサーフィンなど各種マリンスポーツ用ウエットスーツの製造販売を手掛けている。スキューバダイビング関係の国内シェアは25%以上とトップで、それを含めたマリンスポーツ全体のシェアでも19%を誇る。
 自社製品である「モビーズ」ブランドは、「オーダーメードが主力」(保田守社長)で、顧客からの要望に合わせた商品開発を進めている。2003年には、衣服解剖学に精通した元大学教授らと共同で、フィット感および運動性をより向上させたウエットスーツを発売した。
 また現在、発注から発送までの納期は業界最短で、「日曜日にオーダーしていただければ、次の日曜日には海に行ける」(保田社長)のも顧客からすれば魅力だ。さらに、オンライン上のシミュレーションソフトを使って、自分でウエットスーツをデザインすることもできる。顧客が、注文する前に好みのウエットスーツをイメージしやすくするためだ。従来のシミュレーションソフトはイラスト調で表示するため、完成品とは多少の色の誤差が出る。しかし同社の使うソフトは、写真データをベースにしており、色の誤差が少なく、リアリティーの高いシミュレーションが可能となっている。このような一貫した顧客第一主義が、多くのモビーズ愛用者を生み出す要因になっている。
欧州メーカーと提携し商品拡充
 2004年12月期における同社の売上高は13億5000万円。「マーケットが収縮しているため、なかなか伸びない」(同)という。そこで同社は解決策の一つとして、商品の拡充を進めている。「業界の中で互いに補完し合う」(同)戦略で、呼吸器や水深ゲージなどを扱う欧州の器材メーカーと業務提携。2006年3月から同メーカーの器材を日本で代理販売することで、販売商品を広げていく。現在、モビーズの国内販売店は約1000店舗。そのうちの約半分の店舗でウエットスーツなどとともに販売する予定だ。
 また同時に、モビーズの海外での販売を、自社による直接販売から同メーカーの代理店に販売委託する形に切り替える。モビーディックは、これまで自社の海外現地法人による直接販売方式を採り、イタリア、ドイツではトップのシェアを獲得しているが、大きな市場を持つ米国になると、4−5位のシェアと伸び悩んでいる。そこで、欧州だけでなく米国にも強力な販売ベースを持つ同メーカーとの提携により、米国での一層のシェア拡大を目指す。
 海外での販売量について、保田社長は「自社で売っていた時の2倍は売りたい」と意気込む。2006年度の売上高目標を16億5000万円とし、2008年度までには20億円を目指す。




だんごが売り上げの柱

 「専門店として生き残るために卸売りをやめました」−。山形県大石田町の横丁とうふ店2代目、五十嵐智志さんの決断だ。商品の高付加価値化を追求するため、卸主体から製造直販へと業態転換。小さな町の小さな店の取り組みは、2004年に山形県から経営革新計画として承認され、2005年12月には製造工程の見学もできるイートイン型の新店舗をオープンするに至った。
 年商は約5000万円。実は、その7割を自家製だんごが占めている。もともと、だんごは五十嵐さんの母が豆腐製造用の蒸気ボイラを利用し、盆や正月などの季節限定商品としてつくっていたものだ。近くの温泉施設に納入し売り出したところ評判となり、土産物として定着。単価も高く、本格生産することになった。
 自家製だんごは2000年に山形市のデパートで開かれた「大石田フェア」で火がついた。一日に1000本を売り切ってしまうほどの人気。それを機に名称を「最上川千本だんご」とした。タレは地元産枝豆を100%材料にした「ずんだん」のほか、しょうゆ、ごま、あんこ、くるみがある。
食品本来のあり方とおいしさを提供
 キャッチフレーズは「明日には硬くなるだんご」。人気の秘密はここにある。日持ちがしないのは天然素材にこだわり、だんごにもタレにも余分な添加物を使っていないから。昔ながらの製法が、安全な食品を求める消費者の心をとらえている。
 一方、本来の主力製品である豆腐にかける情熱も衰えてはいない。山形県内陸部で生産される秘伝大豆という枝豆を材料に用い、伊豆大島の本にがりと井戸水で自然のうま味を引き出している。豆腐製造では一般的な消泡材(泡消し)を使っていないため通常の2倍の時間と手間がかかるが、これも他社製品との差別化を図るためだ。
 豆腐もだんごも賞味期限の関係で、通信販売には不向きだ。客に店へ来てもらうしかない。それには魅力ある商品の提供が絶対条件。良さを知ってもらうには販売時の商品説明も欠かせない。大石田町は休日、名物の田舎そば目当ての観光客が多く訪れるが、その流れを呼び込むのも狙い目だろう。
 五十嵐さんは「生産者の都合で添加物を使うのは、食品の変質につながる」と話す。こうした考えは、食の研究家である磯部晶策氏が提唱する理念に基づくものだ。良い食品づくりを目指す磯部理念に共感している業者が組織する山形さらど事業協同組合に入会。毎月の勉強会に参加し、新製品の研究開発に向けて意見交換を続けている。
 新店舗は古くからの蔵屋敷を活用した。蔵の保存は地域社会の願いでもあった。蔵には10畳の座敷が2間ある。ここで豆腐を使った創作料理を提供するのが次の一手だ。



世界初の秘密分散法

 かつて勘合貿易で利用された割り符。相手を確認するための本人認証システムとして用いられた。この割り符の概念を情報セキュリティー技術に応用したのがグローバルフレンドシップ(GFI)だ。情報を分散して管理するセキュリティーシステムの開発、販売を手掛けている。
 開発した「GFI電子割符」は機密情報の漏えい防止を目的とする。一つのデータを二つ以上に分割し、パソコンとフラッシュメモリーなど別々の場所に分けて保存する。元のデータを見るにはすべての割り符を集めなければ復元できない。仮にデータの一つを納めたパソコンを紛失しても他者は解読することができないため、情報が漏れることはない。
 同社は1995年に設立した。創業当初はインターネットを活用した貿易仲介業を営む予定だった。しかし、その時にネックとなったのが本人認証システムの安全性だ。インターネット上で取引する際には、本人認証データが契約時の実印の役割を果たす。もし、このデータが外部に漏えいして悪用された場合、顧客に多大な損害を与える恐れがある。
 データを暗号化する防衛策もあるが、「どんなに頑丈な暗号でも解かれてしまう恐れがある。新たな情報管理技術が必要だと思った」(保倉豊社長)。
 データを1カ所で集中管理することが、被害の起こる原因だと考えた。保倉社長は課題を解決するために、データを分割する秘密分散法に着目。貿易仲介業から一転して開発に専念した結果、世界で初めて独自の秘密分散法を利用したセキュリティーシステムの商用化に成功した。
日立、IOデータと共同出資会社
 パソコンの紛失や盗難による情報流出問題が取りざたされるなか、同社が開発した電子割り符は着実に評価が高まっており、国内外で導入企業が増えている。
 2005年7月にはGFI、日立製作所、アイ・オー・データ機器の3社が出資してGFIビジネス(東京都中央区)を設立した。GFIが55%を出資、社長には保倉社長が就任した。
 新会社はGFIの電子割り符技術を活用して、情報漏えい防止システムの開発を手掛ける。すでに「Q−セキュリティシリーズ」を発売しており、企業や官公庁で機密情報を扱う部署向けに売り込んでいる。GFIビジネスは2005−2007年度の3年間で1500セットの出荷を見込み、売上高60億円を目指している。
 保倉社長は「多くの人に当たり前のものとして使ってもらえるよう、さらに技術と製品の品質を高めていく。電子割り符を通じて高度情報化社会を支えたい」と話す。最終的には「グローバルスタンダードにまで引き上げたい」(同)と意気込む。





大物から小物まで

 広島スチール工業は中国・四国地区屈指のハイテクシートメタル加工専門業者。『切る・抜く・曲げる・巻く』をメーンとして「よりパワフル、より精密に、より素早く」をモットーに、先進の技術と最新鋭の設備で多様化する加工ニーズに応えている。
 難しい加工、緻密(ちみつ)な加工に積極的にチャレンジし続ける。とくに精度要求の高い大物を加工できるのが強みだ。材料も薄板から広幅厚板まで長尺サイズを中心に豊富な在庫をかかえており、迅速に加工・納品できる体制を整えている。当然、電子メールによる図面展開からの注文も可能で、PDFやDXFファイルでやりとりすれば、さらに短納期が図れる。
 最新鋭のレーザー加工機は最大長3100ミリ×6100ミリメートル、鉄で板厚25ミリメートル、ステンレスで同20ミリメートルまでの材料が切断でき、クリーンカットにも対応している。液晶やプラズマディスプレーテレビのパネル、半導体部品加工などの引き合いが多く、売り上げも伸びているという。これらは次世代加工と位置づけており、さらに精度が高く、難しい加工技術に挑戦している。加えて加工技術の蓄積やデータベース化にも取り組んでおり、同業他社とは一線を画す。
 また、板厚16ミリメートル、最大長6100ミリメートルの長尺切断能力を持つシャーリング切断は、7200ミリメートルと6100ミリメートルのプレスブレーキとのコンビによって加工能力を大幅にアップさせている。
見積もり展開ソフトも
 大物加工を得意とする同社だが、試作に特化した超精密小型部品加工も請け負う。MERC加工といい、プレス加工やワイヤカット加工など従来の加工方法で発生するさまざまな課題を克服した新技術加工だ。厚さ0・01ミリメートル、長さ2000ミリメートルまでの微細加工が可能で、プラスマイナス0・03ミリメートルの加工精度を実現する。金型が不要なため金型代が浮き、安く試作できる。フィルムや紙、プラスチックなど材質を問わず加工できるのも大きな特徴だ。
 板金加工で培った技術をベースに商品化した見積もり電卓「工場長」も発売している。鋼材の見積もりや板取り個数計算、重量計算などに誰でも手軽に使える便利さが受けて、板金業者や鋼材販売業者などに売れている。2005年12月にはPC版「工場長DX3」を新発売。電卓タイプから本格的な見積もり展開ソフトにリニューアルさせた。図面の展開19種類、全長距離、面積、パンチング穴数、材料の重量計算などを瞬時に計算して、製品単価や加工単価をからめながら、見積もり作業の負担を大幅に軽減できる。




最短で翌日納品

 城北工業はネームプレートや化粧パネル、機械部品などの精密板金加工を手掛けている。板金加工から印刷、彫刻、塗装までの各工程を一つの工場内に集約し、社内一貫体制を敷いている。このため「小回りがきく。顧客のニーズにきめ細かく対応する方法を現場ですぐに議論できる」と有馬治郎社長は胸を張る。
 同社ではIT技術の導入を進めている。インターネットを活用した受注システムだ。インターネット経由でCAD図面を顧客から受け取る。製図し直す工程が不要なため、すぐに加工に入れる。図面データをオンライン化して、製版用ネガフィルムを素早く出力できるようにした。社内一貫生産体制とIT技術の融合により、最短で、注文を受けた翌日に納品できるようにした。
 さらにインターネットでの受発注をとりまとめるサイトにも登録した。インターネットをきっかけに、取引が始まるケースが増えている。
 同社は生産の素早さだけでなく、品質も高いのが特徴だ。同社が取引先にアンケートを実施したところ、シルクスクリーン印刷などの細やかな作業に対する評価が高かった。ネームプレートなどを作成するときに、細かい部分まで表現できる。「職人芸に近い技術が必要な工程。簡単にまねできるものではない」と有馬社長は話す。
設計部門立ち上げ、自社製品増やす
 2002年には設計部門を立ち上げた。「取引先から図面をもらって動くだけでは生き残りが難しくなっていた。設計段階から当社がかかわることで、よりコストのかからない設計ができる」(有馬社長)と判断したからだ。
 設計部門ができたことで、自社製品の開発も可能になった。スチールラックなど従来の板金技術を生かした製品だ。ネット通販を中心に展開している。除菌・消臭用の薬剤を噴霧する装置の販売を始めるなど、取り扱い製品は徐々に増えている。「納品を早くするのは当たり前の時代になりつつある。独自の技術や製品で差別化を図る」(同)。
 ネット受注や設計部門の新設に伴って、生産は拡大する見通しだ。そこで、横浜市が整備した生麦ファクトリーパーク内に本社工場を移転した。工場団地は住工混在地域と違って、騒音問題などに気を遣う必要がない。最近では3億円を投じてプレス機などの設備を新たに導入した。24時間の稼働も可能になっている。
 現在、本社工場のほか、長野県楢川村にも工場がある。有馬社長は「5年後をめどに工場を新設したい。三本の柱で生産体制を強力なものにしたい」と、将来像を描いている。



まず2製品を展開

 日東電機製作所は制御盤、受配電盤など電力制御機器の開発、製造を主力としている。電力の監視・制御・保護に関する蓄積ノウハウを生かした自社製品開発に力を注いでいる。これまでにセキュリティーと省エネの分野で2製品を開発した。脱下請けを図る試みに、芽が出始めてきた。
 セキュリティー分野の製品は、鍵を保管するキーボックス。建物や部屋の外側に設置し、鍵を保管する。電子式テンキーで暗証番号を入力し、開閉する。一つの鍵を複数で共有でき、合鍵が不要になるため、鍵が管理しやすくなるのがメリットだ。
 鍵の保管数が異なる3種類を展開し、価格は3万1290−4万7040円。電子式の鍵保管箱では「業界トップレベルの低価格を実現した」(青木和延社長)という。自社ホームページだけの販路で、2000年の発売以降、大学の研究室を中心に累計約900台を販売した。入室管理の関連製品は指紋認証など高度化が進むが、「必要なセキュリティーの度合いは場所や使用条件によって異なる。シンプルな製品への需要は衰えない」(同)とみて、今後は自治体などにも売り込んでいく。
 もう一方の省エネ分野では、最大需要電力を自動制御するデマンド監視制御装置を開発した。同装置は、建物などの使用電力を常時監視し、自動的に電気機器を制御することで、電気基本料金の基準となる最大需要電力を管理するもの。年間の電気代削減に役立つ。
 この製品は16の制御回路を持っているのが特徴。現在普及している8回路の他社製品に比べ、きめ細かく電気機器を制御できる。製品価格は72万円で、企業のほか、公共文化施設などにも提案している。2001年の販売から数カ所に納入した。
研究開発の専門棟で技術者が連携
 こうした自社製品の開発拠点になっているのが、研究開発専門の「日東イーツー棟」(群馬県太田市)だ。各拠点に点在していた技術者を集約し、技術レベルの向上と業務の効率化を目的に、1998年に開設した。装置設計、ソフトウエア開発などそれぞれの分野の技術者が、積極的に情報交換し、互いの業務にかかわる。自社製品開発でも、プロジェクトが立ち上がるとすぐに、他部門の担当者が協力する体制が整っている。
 とはいえ「自社製品事業は、まだ十分でない」と青木社長は冷静。自社製品の売り上げは、全体の1%にも満たないのが現状だ。国内の公共工事の減少に伴い、主力の電力制御機器の受注は停滞傾向が続く。このため、「自社製品事業の重要度が増していくのは間違いない」(同)と強調する。今後は製品開発に加え、課題とする営業もテコ入れし、事業強化に取り組む考えだ。




講習会開催に市民の反応上々

 ジャスコムは、産学官一体での新産業創出を目指す名古屋都市産業振興公社の支援のもと、1999年2月にパソコンのリサイクル事業者として設立した。しかし国によってパソコンのリサイクルが整備されたことで、今までのようにリースアップしたパソコンを、法人やリース会社から回収できなくなった。そこで、現在は高齢者や障害者が手軽にパソコンを使えるようにする支援ソフトを地域社会に普及する新規事業に取り組んでいる。市民の反応は上々で、2005年10月からスタートした同ソフトの講習会には540人の募集に対して約3倍の応募があった。
 この事業は、井崎信孝社長が専務理事を務める民間非営利団体(NPO)「ITエコサイクル推進機構」から受託したものだ。支援ソフトはその名も「らくらくパソコンe−なもくん」。名古屋市長の特命で2004年4月に発足した「名古屋市中高齢者向け情報化推進プロジェクト」を通じ、同市や名古屋大学、中京大学、ITエコサイクル推進機構が共同開発した。
 パソコンに同ソフトをインストールすると、マウスだけで操作が可能になり、1クリックで文字を入力したり、ファイルを開いたりできる。画面上の操作ボタンを大きくするなど工夫してあり、パソコンに触れたことがない高齢者でも簡単に使え、体の不自由な障害者も楽に扱えるという。
 同社が受託したのは講習会開催を通じて同支援ソフトを普及する事業。講習会は名古屋市民を対象とし、無料で受講できる。2005年度は2005年10−12月の第1期がスタートしており、2006年1−3月に第2期を行う。2006年度も引き続き行う予定だ。講習会運営やテキスト販売のほか、自宅学習用パソコン提供、インターネット回線接続手続き代行なども行い、充実したサービスを展開している。
 名古屋市をモデルケースとして他都市でも同ソフトが導入されるようになれば、「普及ノウハウの提供事業も展開できる」(井崎社長)と意気込む。
教育ロボットの教材開発・普及も目指す
 またITエコサイクル推進機構は産学官による「教育ロボット研究会」に参加しており、これも新たなビジネスチャンスにつなげたい考え。2005年7月に設立した同研究会には名古屋市や名古屋工業大学、一般企業が参加し、教育ロボットの教材開発やその普及を目指している。
 名工大の梅崎太造教授が中心となり、1体5万円の組み立て式人型ロボットを開発。すでに春日井工業高校など六つの高校や大学が採用を決めた。現在は小学校の教材で使用されることを目指して、より安価なロボットを開発中だ。
 2、3年後に安価なロボットが開発され、小学校などで採用になれば、学校の教師に対する講習など普及事業が欠かせない。このため同社はソフト普及同様に、事業の受託を目指している。